35歳のシンデレラ 大道芸人編 14
すべての発端は、マリア…
マリアの動物園行きだった…
マリアの通うセレブの保育園の行事で、私たちは動物園に行った…
豪華なサロンバスに乗り、動物園に向かった…
サロンバスは、数台…
やはり、セレブの保育園…
保護者と、その子供たちが、同じバスに乗って騒ぐ…
いかにセレブの子供といっても、そこは、子供…
豪華なサロンバスに乗れば、楽しくなり、騒ぎ出すのも、わかる…
私は、マリアと共に、サロンバスに乗った…
そのマリアの近くには、アムンゼンもいた…
アムンゼンは、したり顔で、腕を組みながら、
「…こういうのは、初めてですが、面白いものですな…」
と、言った…
私は、
「…面白い? …どこが、面白いんだ?…」
と、聞いた…
「…だって、公道を走るバスを、こんなに豪華にして、走るのは、たぶん、日本ぐらいのものですよ…」
アムンゼンが、指摘する…
「…バスの中に、シャワーや、カラオケまである…このバスの中で、一日中、生活することができる…そもそも、バスをそんなふうに、使おうとする発想が、ありませんよ…」
「…そうか?…」
「…大体、日本人は…」
アムンゼンが、したり顔で、続けると、アムンゼンの隣に座ったマリアが、怒り出した…
「…アムンゼン…いつも、言っているでしょ? 偉そうな口を利くんじゃないって…」
「…偉そうな口って?…」
と、アムンゼン…
「…そうよ…偉そうに、腕を組んで、ウンチクを語るんじゃない!…」
マリアが、怒り出した…
すると、それを近くで、見ていた、同じバスに乗るセレブの子弟の母親たちが、クスクスと笑い出した…
「…まあ、まるで、あの二人、夫婦みたいね…」
とか、
「…ホント、小さいけれども、お似合いのカップル…」
とか、言う声が、聞こえてきた…
…カップル?…
私は、唖然とした…
唖然として、マリアとアムンゼンを見た…
マリアは、正真正銘の3歳だから、意味がわからんかったに違いないが、アムンゼンは、ホントは、30歳…
30歳の成人男子だ…
だから、当然、意味がわかる…
それゆえ、私は、アムンゼンが、どういう反応をするのか?
気になった…
気になったがゆえに、しっかりと、アムンゼンを見た…
どういう反応をするのか?
見た…
すると、だ…
なんと、実に、嬉しそうだった(爆笑)…
ニヤニヤと、実に、嬉しそうだった…
アラブの至宝と呼ばれた男が、たかだか、3歳のマリアと、カップルと、言われただけで、実に、嬉しそうだった…
私は、なんだか、がっかりした…
アラブの至宝とまで、言われた男だ…
もっと、違う反応を見せるのでは?
と、思ったからだ…
しかし、その反面、安心したというか…
このアムンゼンが、マリアを好きなのは、わかる…
だから、素直に、嬉しそうに、しているのを、見て、安心したのだ…
が、
実は、それだけでは、なかった…
よーく、見ると、たった今、このアムンゼンと、マリアの仲について、言及した、母親たちは、30歳前後…
つまり、アムンゼンのホントの年齢と、同じぐらいだ…
しかも、その母親たちは、ブロンドの美女たち…
金髪碧眼の美女たちだ…
だから、ホントは、このアムンゼンは、マリアとの仲を、指摘されたから、ニヤニヤと嬉しそうな顔をしているのではなく、この母親たちが、美人だから、嬉しそうな顔をしていたんじゃ?
遅まきながら、その事実に、気付いた…
そして、その事実に、気付いたのは、この矢田だけでは、なかった…
マリアもだった…
「…アムンゼン…アンタ、なにをニヤニヤしているの?…」
マリアが、怒り出した…
アムンゼンが、絶句した…
おそらく、アムンゼンは、マリアの顔色を見て、自分が、なぜ、ニヤニヤしたのか?
マリアにバレたに違いないと、気付いたのだ…
「…いや、ボクは、ニヤニヤしてなんか…」
アムンゼンが、必死になって、マリアに言い訳する…
その言い訳は、まさに、不倫が、バレたときの夫の言い訳に似ていた…
そのおどおどとした表情が、まさに、不倫=浮気がバレたときと、同じだった…
それゆえ、マリアが、激怒した…
小さなカラダが、怒りに震えていた…
私は、怖かった…
なぜか、怖かった…
35歳の、この矢田が、たかだか、3歳のマリアに、恐怖を感じるのは、滑稽だが、なぜか、しらんが、怖かったのだ…
きっと、それは、マリアの中に、女を見たからかも、しれんかった…
マリアは、まだ3歳に過ぎないが、女…
小さいながらも、女だ…
だから、普段、自分を好きだと、公言するアムンゼンが、他の女に目を奪われた…
それを、敏感に察したのかも、しれんかった…
そして、これは、厄介…
実に、厄介だと、思った…
この手の問題は、確実に、尾を引く…
残念ながら、この矢田は、ルックスが平凡だから、男に、モテまくった経験は、ないから、このマリアの気持ちは、わかるが、所詮、想像でしか、ない…
自分には、そんな経験がないからだ…
だが、同じような事例を見たことは、ある…
何度もある(爆笑)…
要するに、会社でも、学校でも、自分を好きだと思っていた男が、他の女に目を奪われるのを、見たことが、あるときが、あるということだ…
それまで、その女は、その男が、自分を好きだと知っていても、歯牙にもかけなかった…
女は、美人…
男は、平凡だったからだ…
だから、女は、男を好きになれなかったのだろう…
が、
あるとき、別の美人が現れた…
すると、どうだ?
それまで、自分を好きだった男が、それまでとは、一転して、自分ではなく、新しく現れた美人に、夢中になった…
当然、これまで、自分を好きだったと、思った女は、面白くない…
だから、不機嫌になる…
私は、そんな事例を何度も、見たことがある…
それまで、自分を好きだった男を、そもそも、自分が、好きでもなんでもないのだから、その男が、誰を好きになっても、関係ないはずだ…
が、
自分以外の女に色目を使うのは、許せんということだ(笑)…
これは、実に、矛盾している…
が、
その気持ちは、わかる…
わかるのだ(笑)…
要するに、自分は、その男を好きではないが、その男が、自分以外の女を好きになるのは、許せんということだ(爆笑)…
実に、自分勝手な言い分だが、誰しも、同じだろう…
とりわけ、自分が、美人で、自分に自信がある女は、それが、許せん…
男が、好きになった女が、自分以上の美人だったり、自分より、若かったりした場合は、余計に許せん!
自分が、その女に負けたことが、明白だからだ…
だから、許せんのだ(笑)…
マリアの場合は、今挙げた例と、一致しないが、似たようなものだ(笑)…
要するに、自分を好きだと思った男が、自分意外の女を好きになるのが、許せんのだ…
「…アムンゼン、アンタ、いい加減にしなさいよ!…」
マリアが、その小さなカラダを震わせて、怒った…
「…アタシの忍耐にも、限度があるわ…」
マリアの怒りは、なぜか、母親のバニラの怒りをはるかに、凌いでいた…
少なくとも、私には、そう見えた…
「…マリア…そう、怒るなよ…」
アムンゼンが、下手に出た…
「…今日、これから、動物園に行ったら、いっしょに、象やカバを見よう…」
アムンゼンが、言う…
が、
これが、マリアの怒りに、さらに、火を点けた…
私は、すぐには、気付かんかったが、アムンゼンは、近くに、自分と同年代の子供たちの母親が、いるせいで、つい、地が出たというか…
本来の30歳の姿に戻った…
30歳の姿に戻ったというのは、態度が、大人に戻ったということだ…
要するに、今、言った、
「…今日、これから、動物園に行ったら、いっしょに、象やカバを見よう…」
と、いう言葉が、まるで、父親が、子供に言うように、マリアには、聞こえたということだ…
だから、マリアは、余計に、頭に来た…
「…アムンゼン、アタシを子供扱いするんじゃない!…」
マリアの怒声が、バスの中に、響いた…
「…アタシは、子供なんかじゃない!…」
マリアが、喚いた…
それを、見た、子供たちの母親たちが、余計に、クスクスと笑った…
子供が、自分を子供じゃないという言葉が、おかしかったからだ…
滑稽だったからだ…
が、
マリアの怒りは、治まらなかった…
小さな顔を真っ赤にして、怒っていた…
私は、どうしていいか、わからんかった…
マリアの保護者として、今日は、参加している身なので、やはり、ここは、なにか、言うべきだろう…
しかし、マリアは、激怒している…
そんなマリアになにを言っても、聞かんだろう…
元々、バニラの娘だ…
あのバカ、バニラの娘だ…
なにを言っても、わからんところがある(苦笑)…
が、
私の立場もある…
やはり、ここは、なにか、一言言わねばならんのかも、しれん…
私は、悩んだ…
悩んだのだ…
腕を組んで、悩んだのだ…
すると、だ…
「…矢田ちゃんも、アムンゼンと同じく、偉そうにしてるんじゃない!…」
と、なぜか、マリアの怒りの矛先が、この矢田に向かった…
わけが、わからんかった…
なぜ、マリアの怒りが、私に向かうのか、わからんかった…
が、
マリアの視線を見て、気付いた…
今、この怒ったマリアを見て、クスクスと、笑っているのは、皆、金髪碧眼の美女たち…
つまりは、マリアの母親のバニラと同じだ…
だから、マリアは、おそらく、寂しいのだろう…
ホントは、母親のバニラに、ここに来て、もらいたかったかったのだろう、と、気付いた…
そう、考えると、マリアが少しばかり、不憫になった…
バニラが、マリアの元にやって来ることは、ありえない…
もちろん、永遠にないと、までは、言わない…
だが、それは、おそらく、二十年後ぐらいだろう…
なにしろ、バニラは、まだ21歳…
大学生と、同年代だ…
その年代で、子供がいるから、問題になり、それがバレたら、困るから、隠す…
そして、それは、十年後の31歳でも、変わるまい…
しかしながら、二十年後の41歳なら、もう大丈夫だろう…
もはや、隠す年齢でもないからだ…
その頃なら、カミングアウトしても、バニラの仕事に影響は、ないに違いない…
が、
それでは、遅すぎる…
遅すぎるのだ…
その頃には、マリアも、23歳になっている…
だから、遅すぎるのだ…
それが、わかった私は、マリアに、
「…すまんかったさ…マリア…」
と、詫びた…
マリアが、怒った表情のまま、
「…どうして、矢田ちゃんが、謝るの?…」
と、聞いて来た…
「…マリア…ホントは、オマエはママに来てもらいたかったんだろ?…」
「…」
「…私では、オマエのママの代わりには、なれんさ…だから、すまんかったと、詫びたのさ…」
「…」
「…所詮は、オマエの母親代わりも、できん女さ…」
私が、落ち込んで言った…
すると、マリアが、
「…矢田ちゃんが、謝ることじゃ…」
と、当惑した…
「…矢田ちゃんが、悪いんじゃ…」
さらに、マリアに加勢するように、
「…そうですよ…矢田さん…」
と、アムンゼンが、横から、口を出した…
「…矢田さんは、なにも、悪くありませんよ…」
「…そうよ…悪いのは、このアムンゼンなんだから…」
マリアが、言った…
「…それを言うなよ…マリア…」
アムンゼンが、マリアに詫びるように、言った…
「…反省してる…」
「…ウソばっか…どこが、反省しているの?…」
「…どこが、反省しているって、言われても…」
アムンゼンが、たじろぐ…
私は、それを見て、元に、戻ったと、思った…
つい、数分前に戻ったと、思った…
そして、そんなマリアと、アムンゼンのやりとりを見て、またも、周囲の母親たちが、クスクスと笑った…
金髪碧眼の美女たちが、クスクスと笑った…
それを、見て、またも、アムンゼンが、嬉しそうに、笑った…
そして、そんなアムンゼンの姿を見て、またも、マリアが、怒り出す…
すべては、繰り返し…
元の木阿弥だった(爆笑)…




