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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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15/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 15

不穏…


 なにやら、不穏の予感がした…


 あるいは、このときに気付くべきだったのかも、しれん…


 この後、なにか、あると、気付くべきだったのかも、しれん…


 が、


 私には、わからんかった…


 さっぱり、わからんかった…


 さっぱり、気付かんかった…


 まあ、いつものことだ(苦笑)…


 が、


 ふと、サロンバスの窓から、外を見ると、アムンゼンを乗せて、やって来た、あの金色のロールスロイスが、見えた…


 この矢田の細い目の視界に、入った…


 私は、驚いた…


 まさか、窓の外で、金色のロールスロイスを見ることになるとは、思わんかったからだ…


 私は、慌てて、


 「…アムンゼン…オマエ、護衛を外に配置しているのか?…」


 と、小声で、聞いた…


 まさか、いくらなんでも、そんなことを、大きな声で、聞けんからだ…


 「…それは、当然です…」


 アムンゼンが、さも、当たり前のように、言った…


 「…彼らの任務は、ボクの護衛です…ですから、一刻たりとも、ボクの身から、離れることは、ありません…」


 「…なんだと?…」


 「…そもそも、彼らは、ボクの護衛のために、祖国サウジアラビアから、この日本に派遣されてます…彼らの任務は、ボクの護衛…それだけです…」


 「…それだけだと?…」


 「…ハイ…」


 と、あまりにも、あっさりと、アムンゼンが、言うものだから、私は、唖然としたというか…


 あらためて、この矢田と、アムンゼンの違いを、思った…


 この矢田ならば、間違いなく、外に、このサロンバスと同じ速度で、ロールスロイスを走らせて、自分の後を追わせることなど、できない…


 これは、いいとか、悪いとか、言うことではなく、感覚的にできないのだ…


 例えば、この矢田が、この日本の総理大臣になっても、そんなことをすれば、迷惑とまでは、言わないが、頭が下がる…


 同時に、気恥ずかしくなる…


 なぜなら、自分は、そんな偉い人間でも、なんでもないからだ…


 だから、嫌…


 そんなことを、されるのは、嫌だ…


 まるで、自分が、からかわれているような気分にさえ、なる…


 だが、このアムンゼンのように、生まれつき、身分が高い者は、そんなことには、慣れている…


 むしろ、護衛をつけずに、外出する方が、おかしいというか…


 ありえないことなのかも、しれんかった…


 だから、こんなときに、いつも、私は、生まれの差を感じた…


 なぜなら、私は、今、葉尊といっしょにマンションに、暮らしている…


 それは、私には、身分違いの億ションだ…


 豪華、極まりない…


 元々は、私の夫、葉尊の父である、葉敬が、日本に持っていた、マンションの一つを、葉尊に与えて、私と葉尊の新居にしたものだ…


 私は、葉尊と結婚して、最初に認識したのは、葉尊と私は、金銭感覚が、違うということだった…


 これは、当たり前…


 考えてみれば、当たり前だ…


 葉尊は、台湾の大企業、台北筆頭の御曹司…


 片や、この矢田は、一般人だからだ…


 大金持ちと一般人が、同じ金銭感覚のはずもない…


 そして、これは、私と葉尊の例だけでなく、誰もが、同じ…


 この矢田と同じだ…


 誰もが、結婚すれば、相手と、自分の価値観の違いを知るというか…


 これは、同棲でも、同じだが、いっしょに、暮らしてみて、初めて、わかることがある…


 その中で、金銭感覚の違いは、最も、顕著に現れるものだ…


 いっしょに、買い物をして、なにかを、買う…


 自分は、コレが当たり前だと、思ったとしても、自分のパートナーから、すれば、安かったり、高かったり、するものだ…


 それを、きっかけに、それぞれの育った家庭環境の違いを考えるものだ…


 家庭の金銭事情を考えるものだ…


 わかりやすい事例で、言えば、年収、三千万円の家庭と、年収五百万円の家庭が、同じ生活をするわけがないということだ…


 当然、買うものが、違う…


 当たり前のことだ…


 年収五百万円の者が、年収三千万円の者と同じように、お金を消費すれば、瞬く間に、破産するだろう…


 だから、当然、年収五百万円の者は、年収三千万円の者に比べ、安物を買う…


 当たり前のことだ…


 そして、そんな男女が、いっしょに暮せば、初めて、自分たちの違いがわかる…


 私は、葉尊といっしょに暮して、その違いを痛感した…


 が、


 実は、そんなことは、最初から、わかっていた…


 そんなことは、最初から、織り込み済みだった…


 なにしろ、この矢田は、平凡…


 平凡な家庭の出身だからだ…


 だから、台湾の大富豪出身の葉尊と違うのは、当たり前…


 だから、驚くことでも、なんでもなかった…


 が、


 これが、一般人だったら、どうだろう?


 仰天したと言えば、おおげさだが、やはり、その違いを知ると、愕然とするだろう…


 そして、その違いを受け入れることが、できるか、否か?


 あるいは、夫婦や恋人が、その違いを、互いに、許容して、互いに相手に歩み寄れるか、否か?


 それが、できるか、否かで、今後、二人が、恋人の関係を続けていけるか、否か、あるいは、夫婦の関係を続けていられるか、否か、決まるだろう…


 私は、思った…


 そして、思いながら、このアムンゼンを見た…


 もしかしたら?


 もしかしたら、このアムンゼンは、その違いを、今、楽しんでいるのかも、しれない…


 ふと、思った…


 この日本にいながら、サウジ本国にいたときとの違いを、楽しんでいるのかも、しれない…


 ふと、考えた…


 もちろん、セレブの子弟が集まった保育園だ…


 皆、金持ちの子弟の集まりだ…


 だが、このアムンゼンは別格…


 別格の大金持ちだ…


 だから、このセレブの子弟の中に、入るのも、ひょっとして、大変なのかも、しれない…


 他の金持ちのセレブの中でも、一段とセレブの家庭に育ったから、他のセレブの子弟たちと、感覚が、違うからだ…


 が、


 真逆に言えば、このセレブの子弟の集まりだから、このアムンゼンは、我慢できる…


 なぜなら、これが、日本の平凡な保育園ならば、まさに、平凡な、家庭の子弟が多く集まるから、カルチャーショックが、大きい…


 億万長者の子弟が、年収五百万円の子弟が多く通う保育園に、いっしょに通えるかと、いうと、多いに、疑問が湧く…


 それと、同じだ…


 だから、ひょっとして?


 ひょっとして、このアムンゼンを、日本のセレブの子弟が、通う保育園に、入れたのは、そんな事情を考慮して、サウジの関係者が、入れたのかも、しれない…


 私は、そんなことに、気付いた…


 今さらながら、気付いた…


 そして、それを、思うと、深謀遠慮というか…


 実に、用意周到…

 

 先の先まで、見通す、アラブの知恵を考えた…


 考えずには、いれんかった…


 私は、いつのまにか、腕を組み、考え込んでいた…


 …そうか?…


 …そういうことか?…


 内心、唸った…


 やはり、アラブ人は、違う…


 この矢田とは、違う…


 私は、アラブの知恵について、思いを馳せた…


 すると、だ…


 「…矢田ちゃん、なんで、腕を組んで、ウンウン唸っているの?…」


 と、マリアが、聞いて来た…


 私は、いつものように、


 「…なんでもない…なんでもないさ…」

 

 と、言いたかったが、言えんかった…


 なにしろ、マリアは、まだ3歳…


 そんなふうに、ごまかすことが、できんかった…


 子供相手に、そんなふうに、ごまかすことは、悪いと、思ったからだ…


 だから、


 「…世の中、頭のいいひとが、いるものだ、と、思ったのさ…」


 と、言ってやった…


 「…矢田ちゃん、どういうこと?…」


 「…このサロンバスさ…」


 「…サロンバスって?…」


 「…こんなふうに、豪華に改造して、乗ることなんて、考えも、せんかったさ…さっき、このアムンゼンが、言ったことを、思い出したのさ…」


 「…そうなんだ?…」


 「…そうさ…」


 私は、言いながら、このアムンゼンを見た…


 「…私は、日本人だから、わからんかったが、このアムンゼンのように、他の国から、やって来れば、わかることが、いっぱいあるものさ…」


 「…そうなんだ?…」


 「…そうさ…灯台下暗しさ…あまりにも、自分の身近にあることは、誰もが、気付かないものさ…そして、それは、マリアも、いっしょさ?…」


 「…いっしょ?…」


 「…そうさ…マリアの母親も、リンダも、物凄い美人…滅多に、お目にかかれないさ…でも、マリアのように、身近にいれば、そんなことは、気付かんものさ…当たり前だと思うものさ…」


 私が、しみじみと言うと、隣のアムンゼンが、私と同じように、腕を組み、頷いた…


 「…矢田さんのおっしゃることは、わかります…」


 と、私に同意した…


 「…金髪碧眼の美女二人…あんな美女は、滅多にお目にかかれませんよ…」


 アムンゼンが深く頷いた…


 「…まあ、ボクが、大人になれば、あんな美女を身近に、はべらかせて、業務を遂行する…それが、夢ですね…」


 「…夢?…」


 「…そうです…男たるもの、美女を傍らに置いて、酒を飲んだりすることは、まさに、至福のひとときです…」


 アムンゼンが、告げる…


 私は、それを、聞いて、深く、頷いた…


 深く、同意した…


 それは、この矢田も、同じ…


 同じだった…


 長身のイケメンを傍に置いて、酒を飲む…


 それだけで、酒の味が、二倍にも、三倍にも、うまく感じる…


 そういうことだ(笑)…


 私とアムンゼンは、深く、気が合った…


 …同士…


 そう、思った…


 この矢田とアムンゼンは、同士…


 同じ考えを持っている…


 同じ思考形態を持っている…


 だから、同士…


 アラブの至宝と、この矢田は、同士だ…


 それに、気付いた、この矢田は、


 「…アムンゼン…握手してやるさ…」


 と、私は、アムンゼンに、手を伸ばした…


 「…どういうことですか? …矢田さん?…」


 「…オマエと私は、同じさ…」


 「…なにが、同じなんですか?…」


 「…ルックス重視…イケメンが好き…美女が、好き…同じさ…」


 私が、告げると、アムンゼンが、絶句した…


 「…ボ、ボクが、矢田さんと、同じ?…」


 「…そうさ…」


 「…だったら、その手はなんですか?…」


 「…オマエを、認めてやった証(あかし)さ…私とオマエは、同士さ…」


 「…ボクと、矢田さんは、同士?…」


 「…そうさ…同じように、パートナーにルックスを求める…同士さ…だから、握手してやるのさ…」


 「…ボクと、矢田さんが、同士?…」


 なぜか、目の前のアムンゼンが、見る見る落ち込むのが、わかった…


 「…どうした? アムンゼン?…」


 「…ボクと矢田さんが、同士?…」


 ブツブツと、小さな声で、繰り返した…


 「…そうさ…それが、どうかしたのか?…」


 「…どうかしたと言われましても…」


 アムンゼンが、なぜか、下を向いて、落ち込んでいた…


 私は、アムンゼンが、心配になった…


 なにか、悪いものでも、食べたのかと、心配になった…


 「…どうした? …アムンゼン? …大丈夫か? …今朝、なにか、悪いものでも、食べたのか?…」


 私は、親身になって、聞いてやった…


 が、


 なぜか、その途端、マリアが怒り出した…


 「…なに、アムンゼン? …アンタ、もしかして、私より、ママの方が、好きだって言うの?…」


 なぜか、マリアが、烈火の如く、怒り出した…


 「…ふざけんじゃないわよ!…」


 と、言うなり、いきなり、マリアが、アムンゼンの横っ面をひっぱたいた…


 私は、驚いた…


 と、同時に、マリアの手を抑えて、


 「…マリア…暴力は、いかんさ…」


 と、マリアに言った…


 すると、


 「…そんなことは、わかってる…でも、アムンゼンをぶたなきゃ、その腐った性根は、治らないの!…」


 と、マリアが、告げた…


 「…く、腐った性根?…」


 「…そうよ…」


 マリアが、鬼のような表情で、告げた…


 私は、怖かった…


 実に、怖かった…


 が、


 それは、アムンゼンも同じだった…


 驚愕の表情で、マリアを見ていた…


 アムンゼン、30歳…


 アラブの至宝と呼ばれた男が、わずか、3歳のマリアの軍門に下った瞬間だった(爆笑)…


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