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火星人体験談第六話

※本作は「火星での体験談」という体ていで描かれる、完全なフィクション(SF小説)です。作中の生態環境や国際情勢(1日48時間、人口20億人、金星・海王星の冷戦など)はすべて架空のものであり、実在の人物、団体、実際の宇宙開発・科学的事実とは一切関係ありません。

※本作の文章制作の補助として、生成AI(AIツールによる文章作成補助)を使用しています。

「ついに、休日が終わってしまった……」

楽しい時間は一瞬で過ぎ去る。それが地球であれ火星であれ、全宇宙共通の絶対的な真理なのだと、俺は重い足取りで歩きながら痛感していた。

一昨日のマリネリス峡谷での大ジャンプ。太陽系最大と言われるあの深淵へ向かって、富士山3個分にあたる10キロメートルの高さを真っ逆さまに落下したあのスリルと、防護服越しにも伝わってきた全身を打つ風の気持ちよさは、今でも鮮明に肌に残っている。

ちなみに、最高難易度の100キロメートルの絶叫ダイブから平然と生還したコードネーム「タナカ」の化け物じみたメンタルには、今思い出しても少し引いてしまう。

「よし、切り替えるか。今日からまた仕事だ」

俺、佐藤晴人は、両手で自分の頬をパンと叩き、気合を入れ直した。

火星の職場の重い気密扉が、プシューという気の抜けた音を立てて開く。俺のエキサイティングな火星人ライフ第二章、つまり現実の勤務の始まりだった。

オフィスに入り、いつもの自分のデスクに腰を下ろそうとした、その時だった。

「おい、佐藤! 休みボケしてる暇はないぞ!」

背後から鋭い声をかけてきたのは、俺の上司であるガリ副部長だった。

「あー、佐藤くん。ちょうどいいところに。地下の資材倉庫に行って、オリンポス・ストーンの在庫整理をしてきてちょうだい。そこにある出荷用パレットに全部載せ替えるんだ。火星の重力は3分の1だからって調子に乗って放り投げたりするなよ? 質量を舐めて雑に扱うと大変なことになるからな。定時までにきっちり終わらせて報告して。じゃ、よろしく!」

ガリ副部長はホログラムの端末を小脇に抱え、それだけ言うと自分の部屋へと戻っていった。

「いきなり現場作業かよ……。まぁ、やるしかないか」

案内された地下倉庫のハッチを開けると、そこは地球の体育館がいくつも入るほどの広大な空間だった。天井は遥か高く、薄暗い空間の中に、ラグビーボールほどの大きさの、怪しく紅く光る鉱石『オリンポス・ストーン』が山のように積まれている。これを、指示通りパレットに載せ替えるのが今日の俺の任務だ。

「へえ、結構な量だな。でも、ガリ副部長も言ってたしな」

俺はハッと気がついた。ここは火星だ。重力は地球の3分の1しかない。

「火星の重力なら、このサイズの石なんて羽毛みたいに軽いだろ。これなら力仕事が苦手な俺でも、サクサク運べそうだな」

ただ、以前に聞いた話を思い出す。火星の環境で作業するときは、もう一つ大前提となる物理法則を意識しなきゃいけない。――『質量』だ。重力(が3分の1になっても、物質そのものが持つ『動きにくさ・止まりにくさ』は地球と同じなのだ。だから、軽いからって勢いよく動かそうとすると、思った以上に止まらなくてコントロールが難しくなる。じっくり、一定の力で運ぶのがコツだったはずだ。

「よし、やってみるか」

俺は焦らず慎重に鉱石を一つずつパレットへ運ぶことにした。

最初は地球との感覚のズレに少し戸惑った。つい地球の感覚でグッと力を入れてしまいそうになるが、そこをぐっと堪えて、低重力を滑らせるようにして運んでいく。

だんだんコツが掴めてきた。慣れると力をほとんど使わないから、地球の引っ越し作業より全然疲れない。

数時間後、山積みだった鉱石はすべて綺麗に出荷用パレットへと移し替えられた。並んだ鉱石が規則正しく紅い光を放っている様子は、どこか近未来的で美しかった。

報告書を送信すると、ガリ副部長からすぐに「合格、今日はもう上がっていいぞ」とホログラムのスタンプ付きで返信が届いた。

「よし、終わった! ハプニングなしでカチッと決まると気持ちがいいな」

まさかの定時退社、いや、定時前退社だ。

休日明けの勤務でどうなることかと思ったが、火星の特性を理解してきっちり仕事をこなせた達成感で、胸が満たされていた。

職場を出て、エントランスロビーへ向かうと、そこにはすでに見慣れた姿があった。私服姿のタナカが、ロビーのホログラムディスプレイを眺めながら俺を待っていた。

「おう晴人! お疲れ様。仕事が終わる時間を見計らって迎えにきたよ。休み明けの勤務はどうだったい?」

「おかげさまで定時前に終わったよ。ガリ副部長に急な仕事を振られた時は焦ったけど、めちゃくちゃスムーズだった」

「それは良かった! じゃあ、約束通りいつもの店に行こうか」

そうして俺たちが向かったのは、俺の火星生活で一番の行きつけになっている居酒屋「マースフーズ」だった。店に入ると、お馴染みの赤提灯のようなホログラム灯りが、なんだか実家のような安心感を与えてくれる。

カウンター席に座り、壁のメニュー短冊を見上げてみると、一番端に、手書きで書かれた見慣れない新しい文字が並んでいた。

「新メニュー……『火星いかの刺身』? なんだこれ」

「お、ついに始まったか。火星の地下海洋で獲れる新種の軟体生物さ。地球のイカにそっくりだけど、もっとコリコリしてて美味いんだよ」

「へえ、それは気になるな。じゃあ店主、火星いかの刺身を一つ!」

注文を終えると、店員さんがまず「お待たせしました」と、透明なグラスに並々と注がれた冷たい水を出してくれた。

俺はグラスを受け取り、一口ゴクリと飲む。冷たくて、喉越しが良くて、実にあっさりとした普通の美味い水だ。

そこで、ふと一つの疑問が頭をよぎった。

「……そう言えばさ、タナカ。前々から気になってたんだけど、火星って水があるのか? 地球の科学だと、火星の表面には液体としての水はほとんど存在しないって言われてるだろ。でも、この水は普通に美味いし、さっきタナカが言った地下海洋ってのも気になるし」

俺の質問に、タナカはグラスの水を少し揺らしながら、ニヤリと笑って答えた。

「いい着眼点だね。結論から言うと、火星の地下には確かに少しは水がある。さっきの火星いかがいるような場所さ。でも、それだけじゃ全火星人の生活水を賄うには全然足りないんだよ」

「じゃあ、この水はどこから来てるんだ?」

「貿易だよ」

「貿易?」

「そう。火星政府はね、宇宙のいろんな星や、実は地球の特定の機関とも密かに貿易をしてるんだ。火星で採れる貴重な鉱石や超技術を輸出する代わりに、地球の豊かな水源から大量の『水』を輸入してるのさ。だから、この居酒屋で晴人が飲んでる水も、もしかしたら地球のどこかの山から運ばれてきた水かもしれないね」

タナカの言葉に、俺は思わず手元のグラスを見つめ直した。

地球から遠く離れたこの赤い惑星で、俺は知らず知らずのうちに、地球から届いた水を飲んでいたのかもしれない。そう思うと、なんだか宇宙の広大さと、地球との不思議な繋がりを感じて、少しだけ胸が熱くなった。

「お待たせ! 火星いかの刺身ね!」

目の前に、ほんのり青白く光る、だけど確かにイカそっくりの刺身が運ばれてくる。

やっぱり俺の火星人ライフは、刺激的な休日だけでなく、こうして確実に仕事をこなし、仕事終わりに友人との時間を楽しみながら不思議な宇宙の真理を知る日々も、十分にエキサイティングで充実している。俺はタナカと水(と酒)のグラスを掲げ、乾杯の音頭を取るのだった。

(第六話・終わり)

投稿時期が遅れてしまって誠に申し訳ございません これからも不定期ながらの投稿になりますが引き続き読んでもらうとありがたいです


ここまでハプニングや新キャラが少なすぎるつまんないと思った人 勘が鋭いですねー なんと次回新キャラ登場⁉︎第七話是非お楽しみにーーー

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