表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/103

第67話 ゴブリン製薬、需要あります

倒したゴブリンたちは、光になって消えた。

残ったのは魔石と素材だけ。


「今回は、ローグライクドロップはなしだね」


ほのかがしゃがみ込みながら言う。


「…まあ、毎回当たりってわけでもないし」


しずくも頷いた。


ミコトは、割れた小瓶の破片を避けながら慎重に薬品棚へ近づく。

しずくとほのかも、それに続いた。


棚には、小壺がいくつも並んでいた。

形はどれも雑で焼きも甘い。


けれど、中に入っているものは雑では済まなさそうだった。

しずくが、壺の一つへそっと手を伸ばす。


システムウィンドウがゆっくりと開いた。


【小壺爆弾】


小さな壺に火薬を詰め込んだ粗末な爆弾。

衝撃で爆発する信管が内蔵されている。


「…爆弾」


しずくが小さく呟く。

ほのかが、すぐに顔をしかめた。


「爆弾だったか~」


ミコトも頷く。


「粗末ですけど、近距離で食らったら十分危ないですね」


しずくは棚を見回した。

小壺は一つじゃない。

五つ、六つ…それ以上ある。


「…こんなの、投げられたらやだ」


「ほんとにね」


コメント欄もざわついていた。


『小壺爆弾って名前がもう嫌』

『ゴブリン製の手榴弾じゃん』

『狭い通路で投げられたら終わるやつ』

『ラボ、思ったよりちゃんと兵器作ってる』


ミコトが大釜の方へ視線を向けた。


「こっちも見ます」


今度はぐつぐつ煮えている大釜を覗き込む。

紫とも緑ともつかない液体が、とろりと泡立っていた。

ひどい匂いだ。


しずくが息を止めて見ていると、またウィンドウが開いた。


【ゴブリンの強壮剤】


そういう意図で使われるゴブリン謹製の薬。

瓶などに入れて持ち帰ることができる。

そこそこ需要があるのか、そこそこの額になる。


ほのかが、なんとも言えない顔で復唱した。


「そういう意図って、どういう意図?」


「たぶん、言葉通りです」


ミコトが真顔で返す。


しずくは、前髪の奥で少しだけ遠い目になった。


「…売れるんだ」


「そこそこ需要があるって書いてあるね……」


ほのかが、微妙に引いた顔で釜を見た。


「探索者業界、広いなあ」


ミコトは少しだけ顔を赤らめてから言った。


「薬効があるなら、まあ…そういう用途も、あるんでしょうけど…」


「なんか急に生々しいんだよね」


ほのかがぼやくと、コメント欄も反応に困っていた。


『強壮剤w』

『そういう意図って何だよ』

『説明文が急に生々しい』

『需要あるのか…あるんだろうな…』

『ゴブリンラボ、変な方向にも実用的』


しずくは釜の中を見ながら思った。

武器だけじゃない。

薬も爆弾も、こうして自分たちで作っている。


「…ちゃんと、ラボだ」


「しかも思ったより実用品作ってる」


ミコトは、棚と釜を見比べてから小さく提案した。


「小壺爆弾は危ないので、回収するなら慎重に」

「強壮剤は、瓶に移せるなら売却用に持ち帰る価値はあると思います」


「持ち帰るの?…これ…」


ほのかが若干複雑そうな顔をする。


「ただ、釜ごと持っていくのは無理なので、空き瓶か保存容器が必要です」


「今はないよね、さすがに自分の水筒にこれを入れたくないし」

「じゃあ今回は、こういうアイテムがあるって知れただけでも収穫かな」


しずくは、小壺爆弾の棚を見た。


「…ほのか、爆弾は?」


「数個なら回収したい」


ミコトも賛成する。


「うまく使えば、敵対ゴブリン相手にも有効かもしれません」


「ゴブリン製爆弾でゴブリンを吹っ飛ばすの、ちょっと皮肉だね」


ほのかが笑う。


しずくも、少しだけ口元をゆるめた。

三人は慎重に小壺爆弾をいくつか回収し、釜の位置や棚の様子も軽く記録した。


ラボは、単なる稼ぎ場じゃない。

ここには、ゴブリンたちの仕事場でもある。

それがわかっただけでも大きい。


その時、ほのかがまた顔を上げた。


「来る」


気配察知が反応したのだ。


「ほのか、近い?」


「二部屋奥かな?今の音でようやく反応した感じ」


ミコトが杖を握り直す。


「小壺爆弾を持っている個体かもしれません」


「だよね」


ほのかが98式を構える。

しずくも新しい銀盾を少し前へ出した。


小部屋を一つずつ潰しながら、ラボの奥へ進んでいく。

そのやり方は地味だ。

そして三人は、次の小部屋へ向けてまた静かに移動を始めた。


金属を叩く音が、ぴたりと止まっていた。

ほのかが目を細める。

気配察知が、奥の動きをはっきり捉えたのだろう。


「さすがに気づいたね」


その声とほぼ同時に。

通路の先、奥の二部屋からゴブリンたちが湧き出してきた。

数は七。

前に短剣持ちが五。

後ろに二匹、何かを肩へ当てている。


「…あれ」


しずくが目を凝らす。

粗末だが、形は見覚えがある。

木と金属片を無理やり組み合わせたような、歪な射撃武器。

クロスボウだ。


「ゴブリン製?」


ミコトが小さく呟く。

出来は雑だ。

けれど、矢を飛ばすという一点に限れば十分脅威になる。


しかも、この狭い通路だ。

真正面から撃たれれば厄介だった。


ゴブリンたちも、さっきの鍛冶部屋や薬品部屋の連中とは違う。

短剣持ちは、ただ突っ込んでくるだけじゃない。


二匹が左右に開き、残る三匹が正面。

後ろのクロスボウ持ちが、隙間から射線を通そうとしている。


「ラボの兵隊って感じ!」


ほのかが舌打ちする。


コメント欄にも一気に緊張が走った。


『クロスボウ持ち!?』

『こいつら連携してる』

『ただの雑魚ゴブリンじゃないな』

『ラボ産装備で武装してるの怖い』

『前衛で足止めして後衛が撃つ形じゃん』


「ミコト!通路中央に泥沼!」


「はい!」


ミコトの杖が光り、短く詠唱が通る。


【クァグマイア】


通路の中央、ちょうど前衛五匹が踏み込む位置へ泥沼が広がる。

だが、ゴブリンたちは一瞬だけ止まった。


知っている。

それが危険だと理解している動きだった。


「ギャッ!」


「ギギッ!」


先頭の一匹が短く叫ぶ。

その合図で、左右の二匹が壁際を走った。

泥沼の端を抜けようとしている。


「賢い!」


ほのかがすぐに機弩を構える。

しずくも79式を上げる。


「左から落とす!」


しずくの射撃が左の一匹の足を払う。

泥沼の縁で体勢を崩したところへ、ほのかの正確な一発。

額を撃ち抜かれ、ゴブリンが光になる。


だが、右の一匹は抜けて来た。

しずくが前へ出て、銀盾がほとんど思考より先に動く。


振るわれた短剣を銀盾が斜めに受け、刃を流す。

そのままゴブリンの身体が外へ流れ、体勢が開く。


「…このっ」


しずくは79式をほとんどゼロ距離で撃った。

胸元へ三発。

ゴブリンがのけぞるのを見逃さず、ほのかの銃弾が喉を抜いた。


残る前衛は三。

そいつらはもう泥沼に踏み込まざるを得ない。

足が沈み速度が落ちる。


だが、その後ろ。

クロスボウ持ち二匹が、短剣持ちの隙間から狙っていた。


「しずく!」


ほのかの警告と同時にクロスボウの弦が鳴る。

鈍い音と共に、太い矢が放たれた。


しずくは銀盾を構えた。

今までの矢より重い。

でも、新しい銀盾は正面で受けてもわずかに流してくれた。


重い衝撃と腕に残る痺れ。

けれど、盾は割れない。

矢は中央のミスリルに当たり、少し軌道をずらされて床へ落ちた。


しずく自身が息を呑む。


『盾えらい!』

『クロスボウ受けたぞ』

『ミスリル、仕事してる』

『強化してなかったら今の危なかった』


ミコトは、泥沼のゴブリンへ狙いを定めた。


【光輪】


聖なる輪が、泥沼の上を滑るように飛ぶ。

前衛ゴブリンの肩を裂き、そのまま後方へ。

クロスボウ持ちの片方の腕を切り裂く。


「ギャアッ!」


クロスボウが手から離れ、ゴブリンがたたらを踏んだ。

そこを、ほのかがすぐに狙い撃つ。


弾丸が奇麗に頭部へ吸い込まれていく。


「クロスボウ、あと一匹!」


だが、残ったクロスボウ持ちは諦めない。

床に膝をついて低い位置から、ほのかへ狙いを定めた。


「うざっ!」


ほのかが、射線から外れるように横へ跳ぶ。

太い矢が金髪をかすめる。


しずくは泥沼でもがく前衛三匹の一番前へ踏み込んだ。

銀盾で一匹を押し込み、さらに泥へ沈ませる。

二匹目の短剣を流し、三匹目の顔面へ銃床を叩き込む。


「ミコト!」


「はい!」


ミコトの杖先が輝く。


【ホーリーバインド】


聖なる紐が、最後のクロスボウ持ちの腕と胴に絡みつく。


照準がぶれ、動きが止まる。

前衛三匹は泥の中だ、つまりゴブリン達は全員まともに動けない。


ほのかが少しだけ悪い笑みを見せた。

98式を構え、膝立ちになる。


「悪いけど、試し打ちさせてもらうね」


【チャージショットⅡ】


放たれた一撃は、前衛ゴブリンの胴体を貫きいても勢いを落とさない。

そのまま、クロスボウ持ちの胸をも貫通した。


しずくが思わず声を漏らす。


「うわ…チャージショット強くなってる」


ほのかがにやりとする。


「でしょ?」


『貫通きた!』

『チャージショットⅡつよ』

『前衛ごと後衛抜いた!』

『ほのか火力上がってる』

『今の気持ちよすぎる』


残る前衛二匹は、もう完全に泥沼の中で射的だった。


しずくとほのかの射撃で一匹が消え、最後の一匹はミコトの光輪で首を断たれた。

通路に残ったのは、泥沼と、消えたゴブリンの残滓だけ。


ほのかが肩の力を抜きながら、構えを解く。


「ラボの連中、ちゃんと連携してきたね」


「…うん」


しずくも頷いた。

寝ぐらのゴブリンより、明らかに役割分担をわかっていた。

武器を作るだけじゃない。

使い方も、ある程度考えている。


しずくは銀盾を下ろしながら、奥へ続くラボの気配を見た。

爆弾に強壮剤。

そして、自作のクロスボウ。


この場所は、ただの巣ではない。

ゴブリンたちが備えている場所だ。


だからこそ危ない。

でも、だからこそ得られるものもある。


三人は、まだ奥に続くラボの気配を感じながら、次の戦利品へ向けて静かに歩き出した。

続きが気になる方は、ブクマお願いします!

また、少しでも面白いと感じた方は評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ