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第63話 新装備、初陣

協会ロビーの空気は、いつもより少しだけ賑やかだった。


工房帰りの三人は、そのまま受付へ向かう。

しずくの左腕には、新しくなった銀盾。

ミコトの手には、先端にミスリルを宿した杖。

ほのかも、新しいジャケットを着込んでいる。


見た目はそこまで派手に変わっていない。

けれど、三人とも分かっていた。

中身はちゃんと一段強くなっている。


受付のお姉さんがカードを受け取りながら、すぐに気づいた。


「あら、装備戻ってきたのね」


「はい」


ほのかがにっと笑う。


「で、慣らし運転も兼ねて潜ろうかなって」


受付のお姉さんは端末を操作しつつ、ふっと口元を緩めた。


「寝ぐらは攻略したんだよね」


その一言に、三人が少しだけ目を見合わせる。


たしかに、ホブゴブリンもミミックも倒した。

宝箱の最奥まで入った。

あれを攻略と言っていいなら、そうなのだろう。


ほのかが肩をすくめた。


「まあ、たぶん」


「たぶんって」


お姉さんが笑う。


「でも、あそこまで行ったなら十分よ」

「で、今日はどうするの?」


「二層で、寝ぐら以外に稼げそうな場所ってあります?」


ほのかが軽い調子で聞く。

すると、お姉さんは少しだけ考えてから言った。


「正式名称ってほどじゃないんだけどね」


そう言いながら、端末から顔を上げる。


「探索者の間で、ゴブリンラボって呼ばれてる場所はあるわ」


「ラボ?」


ミコトが小さく繰り返す。


お姉さんが頷く。


「二層のゆるやかな下り坂の奥、小部屋がいくつか並んでる区画があるの」


それだけで、しずくの頭の中に嫌な絵が浮かんだ。

薄暗い洞窟の小部屋。

ゴブリンラボ。

絶対ろくでもない。


「名前の通り、ゴブリンが独自に武器とか道具を作ってるらしいのよね」


「…独自に」


しずくがぽつりと漏らす。


「たいしたものじゃないことも多いんだけど、たまに妙な当たりがある」


ほのかの目が光る。


「妙な当たりかぁ」


「宝箱も高確率であるわ」

「ゴブリンたちの道具とかアイテムも手に入る場所」


ミコトが思案顔になる。


「武器を作っているなら、飛び道具や罠も多いかもしれませんね」


「正解」


受付のお姉さんが指を立てる。


「寝ぐらより狭い場所も多いし、待ち伏せもある」

「あと、粗製乱造だけど数で押してくることもあるから、油断しないように」


ほのかが、いかにも楽しそうに笑った。


「いいね。稼ぎ場っぽい」


「稼ぎ場だけど、初心者殺しでもあるわよ」


「はーい」


返事だけは軽い。

けれど、その横でミコトはもう考えていた。


「小部屋が複数…なら、迂回路や横槍に注意ですね」


「…うん」


しずくも頷く。


寝ぐらとは違う怖さだ。

ホブゴブリンみたいな大物がいるというより、ゴブリンの嫌らしさが詰まっていそうな場所。


でも、左腕の銀盾はいままでよりしっくり来る。

ミコトの杖も、見るからに魔力の通りが良さそうだ。

ほのかの新しいジャケットも、この間までよりずっと安心感がある。


受付のお姉さんが、三人の顔を見て少しだけ笑う。


「行くなら、今日はそっちでもいいかもね」


ほのかが、ちらっと二人を見る。


「どうする?」


ミコトは杖を握り直した。


「ありです」


しずくも左腕の盾に軽く触れなが頷く。


「…新しい盾、試したい」


「じゃあ今日は、ゴブリンラボ探索で」


受付のお姉さんが端末を操作して申請を通す。


「はい、気をつけて」


それから、少しだけ悪い顔で付け足した。


「変な発明品、持ち帰ってきても驚かないから」


「その前振りやめてください」


ほのかが言うと、お姉さんが吹き出す。


しずくは、そのやり取りを聞きながら少しだけ思った。


寝ぐらを越えて、次はラボ。

二層だけでも、ずいぶん顔が違う。


でも今は、前より少しだけ心強い。

新しい盾、新しい杖、新しいジャケット。


そして、変わらず隣にいる二人。


三人は並んでゲートへ向かう。


どんなゴブリンの研究成果が飛び出してくるのか。

少し怖くて、少し楽しみだった。



ゲートを潜ると、いつものシステムウィンドウが開いた。


【本日の型、ガンナー型】


器用と敏捷に大きな補正が入る。

支給装備は、79式機弩と20発入りマガジン。

防具支給はなし。代わりに初級ポーションが二つ。


しずくは、手の中に現れた79式を軽く構えた。


久しぶりの感触だ。

けれど、今日は前とは違う。


左腕には、太田工房から戻ってきた銀盾。

縁にうっすらと蒼い光を宿し、中央には円形のミスリルが静かに鎮座している。


視聴者コメントも、いつもより装備の話題で賑わっていた。


『新盾きた!』

『ミコト杖も強化済みだし今日は楽しみ』

『三人とも装備更新回だ』

『ラボとか絶対ろくでもない』

『変なゴブリン兵器くるぞ』


ほのかが前を歩きながら、肩越しに笑う。


「今日は新装備お披露目会兼、稼ぎ回ね」


「…現実的」


「大事でしょ、お金」


その言い方があまりにほのからしくて、しずくは少しだけ口元を緩めた。


ラボへ向かう途中、最初に現れたのはゴブリン四匹の集団だった。

弓持ちが二。

粗末な短剣持ちが二。


通路の先で、汚い声を上げながら散開しようとする。

だが、その動きは寝ぐらで見た連中より少し雑だ。

おそらく、巡回か見張り。


「弓から落とすよ!」


ほのかの声。

同時に、矢が飛んだ。


しずくの左腕が、ほとんど無意識に動く。

銀盾が斜めに滑り込むように前へ出て、飛来した矢を受け流した。


甲高い金属音。

矢は真正面で止まるのではなく、すっと軌道を変えて脇の壁へ逸れていく。


しずく自身が、一番驚いた。

頭で考えるより少しだけ早く、綺麗に盾がそこへ来る。

まるで、本当に手の延長だ。


二本目の矢も来る。

今度はより自然に流せた。

銀盾がわずかに角度を変えただけで、矢は床へ転がる。


『盾やば』

『今の流し方きれいすぎ』

『新盾ほんと仕事してる』

『しずくの腕も上がってるなこれ』


「いいね、その盾!」


ほのかが叫ぶ。

その間に、正確な射撃で一匹の肩を撃ち抜く。


しずくは79式を構えた。

以前よりも構えに迷いがない。

盾と機弩の位置が喧嘩しない。


引き金を引く。


乾いた連射音。

弾丸がゴブリンの足元と胴を走り、前進を鈍らせる。


そこへ、ミコトが一歩前へ出た。

新しい杖の先端、球状のミスリルが淡く光る。


【光輪】


以前より、明らかに軌道が鋭い。

ぶれず、迷わず、一直線に飛んだ光輪は弓持ちゴブリンの喉元を裂き、そのまま大きな弧を描いて戻る。


戻りの一撃が、もう一匹の弓持ちの頬から首筋へ食い込んだ。


「…倒した」


ミコトが小さく呟く。

でも、その声には確かな手応えがあった。


弓持ちを一人で確殺できた。

それはかなり大きい。


しずくも、ほのかもすぐにそれを理解した。


「ミコト!それめちゃくちゃでかい!」


「はい!」


『光輪えっぐ』

『前より明らかに精度上がってる』

『ミコト杖強化の恩恵でかすぎる』

『弓持ち即処理ありがたい』


残る短剣持ち二匹が突っ込んでくる。

前に出たしずくの銀盾がその刃を受け流し、体勢を崩したところへほのかの機弩が叩き込まれる。


最後の一匹は、しずくの79式の近距離射撃で光になった。

四匹があっという間だった。


ほのかが、満足そうに息を吐く。


「新装備、ちゃんと強い」


ミコトも、杖を握りながら小さく頷く。


「前よりずっとやりやすいです」


しずくは左腕の盾に視線を落とした。

さっきまで工房で構えていたものが、もう実戦の中で働いている。


それが、少しだけ不思議で。

でも、ちゃんと嬉しかった。


「…いけそう」


しずくがぽつりと言うと、ほのかが笑う。


「今日はかなりいける日だと思う」


ミコトも静かに続ける。


「ラボの嫌らしさにも、前より対応できるはずです」


その言葉にしずくは小さく頷いた。


ゴブリンラボ。

名前からして不穏。

でも、今の自分たちなら少しはまともに踏み込める気がする。


三人は視線を合わせると、またゆっくりと奥へ歩き出した。


新しい装備の感触を確かめながら。

次に待つ、ゴブリンたちの研究成果へ向かって。

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