第62話 装備強化完了
太田が次に差し出した杖を見て、ミコトは小さく息を呑んだ。
元の試作杖の形は残っている。
けれど、先端はまるで別物だった。
杖の頂部には、球状のミスリルがはめ込まれていた。
蒼銀の光を静かに宿した、小さな月みたいな球体。
そして、そこから細く伸ばされたミスリルの線が四本。
蔓のようにも見えるのに、無駄なくまっすぐに杖の表面を這っている。
握り手の少し上あたりまで伸び、そこで自然に木の芯へ溶け込むように止まっていた。
派手ではない。
けれど、明らかに魔力を通すための形だとわかる。
「きれいです」
ミコトが、ほとんど無意識に呟く。
ほのかも横から覗き込む。
「うわ、なんかすごい魔法使いの杖って感じがする」
しずくも、小さく頷く。
「…うん、上手く言えないけどすごい」
太田は、そんな三人の反応を見てからミコトに顎で示した。
「とりあえず、手に取ってみろ」
ミコトが少し緊張した顔で杖を手にした。
ゆっくりと、両手で包むように持つ。
その瞬間、ミコトの肩がほんの少し揺れた。
「…あ」
しずくが、その小さな変化に気づく。
ミコトの表情が、驚きから少しずつ集中する顔へ変わっていく。
太田が腕を組んだままミコトを見る。
「魔力が前より自然に流れるはずだ、感じてみろ」
ミコトは、目を閉じた。
杖を握る手に意識を落とす。
呼吸を整える。
【魔力調律】で、自分の中の流れを見る。
「すごい、今までよりも魔力の流れがもっと繊細に分かります」
はっきりと言葉を形に変えてから、ミコトが目を開く。
「前より、魔力が途中で散りません」
太田が軽く頷く。
「四本の流路で、手元から先端までの魔力の道筋を固定した」
「雑に流しても前よりマシになるし、お前みたいに細かく扱えるならもっと差が出る」
ミコトは、杖を少し持ち替えた。
握る角度を変え、先端へ意識を向ける。
「軽いのに、軽すぎない」
「すみません、上手く説明できません」
「芯は木のままだ。全部ミスリルにしてねぇからな」
太田が答える。
「お前の出力なら、まずは流しやすさを優先した方がいい」
ミコトは、こくりと頷いた。
それから、少しだけ遠慮がちに太田の方へ視線を投げた。
「試してみても、いいですか」
「外ならな」
太田が顎で工房の脇にある試し場を示した。
四人で外へ出る。
工房の裏手、小さな試し撃ち用のスペース。
簡単な的と、魔力反応を見るための金属板が立てられている。
ほのかのテンションが目に見えて上がっている。
「おー、いいね雰囲気ある」
しずくは、左腕の新しい銀盾を抱えたままミコトの後ろに立った。
ミコトが的の前に立って、大きく深く息を吸った。
静かに杖を構える。
先端のミスリル球が、陽の光を受けて淡く光る。
【光輪】
聖なる輪が放たれた時、しずくは思わず目を見開いた。
発動が速くなっている。
さらに、前よりも発射時の揺れが少ない。
軌道がぶれず、まっすぐ飛んだ輪は的を切り裂きいた。
そのまま綺麗に円を描いて戻ってくる。
戻りも安定している。
最初から往復で設計されているみたいな自然さだ。
ミコト自身が、一番驚いた顔をしていた。
「発動までの流れがスムーズです」
「それに、制御がしやすくなっています」
「太田さん、この杖すごいです!」
「行きと帰りで、魔力の乱れが減ってる」
「だから光輪の形が崩れにくい」
ほのかが右こぶしを突き上げながら、笑顔をこぼした。
「これ、二回当てるのもっとやりやすくなるやつじゃん!」
「ええ、あまり意識せずともいけると思います」
ミコトの声も、少しだけ弾んでいた。
次に、ミコトは杖を軽く持ち直して小さく呟く。
【ヒール】
今度はしずくの腕へ、淡い光が流れてくる。
優しい光だ。
でも、前より芯がある。
回復の熱が、まっすぐ届く感じがした。
ミコトが驚いたように、目を瞬く。
「魔力の消費が少なくなってます」
「流れが整えば、無駄も減る」
太田が短く返した。
「いい仕上がりですね」
「当たり前だ」
太田はそう言ったけれど、声には少しだけ自信が混じっていた。
ミコトは、杖を胸の前で抱えるみたいに抱きしめる。
すごく嬉しそうなのに、言葉が追いついていない顔。
それがなんだか、少し新鮮だった。
ほのかが、にっと笑う。
「ミコト、今すごい顔してる」
「…え?」
「めちゃくちゃ気に入ってる顔」
ミコトの耳が少し赤くなる。
「気に入りました」
素直だった。
しずくも、小さく笑う。
「前より、ちゃんと魔力が届く感じがします」
その言い方が、ミコトらしかった。
強くなったではなく、届く。
回復も、拘束も、光輪も。
全部が、前よりもう少し正確に届くのだろう。
「盾も杖も流れを整えた」
「どっちもお前らの戦い方を強くするための強化だ」
ミコトが太田へ向かって、軽く頭を下げる。
「色々とありがとうございました」
しずくは、左腕の盾を見た。
それから、ミコトの新しい杖を見る。
一時的に、自分たちの手を離れた装備。
それが今、ちゃんと自分たちのための形になって戻ってきた。
強くなった。
派手にレベルが上がったわけじゃない。
でも確かに一段、先へ進んだ。
しずくは、少しだけ胸が熱くなるのを感じながら小さく呟いた。
「…ミスリルで強化できてよかった」
ミコトも、杖を抱えたままこくりと頷く。
ほのかが、二人の肩を抱きながら笑った。
「よし!これでまたダンジョンへ潜れる!」
太田はそんな三人を見て、ぶっきらぼうに言った。
「壊すなよ」
沈黙のあと、ほのかが吹き出す。
「それ、職人の一番本音っぽいですね」
「当たり前だ」
太田は鼻を鳴らした。
「壊したら、また持ってこい」
その言い方は乱暴なのに、どこか頼もしかった。
しずくは左腕の盾を軽く構え、ミコトは杖を握り直す。
二人の装備は、もう前とは少し違って見えた。
「よし!いまから協会へいくよ!」
「新装備のお試しだ!」
ほのかが、軽く駆け出しながら振り返る。
しずくとミコトは、顔を見合わせると笑いながら頷き会った。
新しい相棒を軽く撫でると、しずくは工房を後にした。
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