表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/67

第54話 探索者エリアへようこそ

その日の放課後。

やって来た探索者エリアは、思っていた以上に活気があった。


普通のショッピングモールの一角のはずなのに、空気が少し違う。


私服の人ばかりだ。

けれど、どこか皆同じ匂いがする。


年配の人もいれば、大学生くらいの人もいる。

そして、しずく達みたいな高校生もちらほらいた。


「……多い」


しずくが小さく呟くと、ほのかが笑う。


「ちょっとテーマパーク感ある」


ミコトは人混みを縫うように歩きながら、小さく首を振った。


「ここ、週末はもっと多いですよ」


「うわぁ…平日でこれか」


ほのかが少しだけ引いた顔をする。


三人はまず、企業系の店が並ぶ区画へ来ていた。

看板が三つ、並んでいる。


三天堂、GASE、フローム。


どれも聞いたことはあった。

ニュースとか、配信とか協会の広告とかで。


でも、こうして実際に見ると印象が違う。


三天堂は、外観からして落ち着いていた。

白と深緑を基調にした店構えで、窓の向こうに並ぶ装備も無駄がない。


GASEは逆だ。

黒と黄色を基調にしていて、店頭ディスプレイも妙に尖っている。

「新機構」「次世代」「試験導入」みたいな単語が、そこら中に見える。


フロームはなんというか、格好良すぎた。

暗めの照明に、マネキンがいちいち決まっている。

防具なのに、妙に魅せる置き方をしている。

しかも、探索者という世間一般の呼び名ではなく、狩人と呼んでいるらしい。


ミコトが、各店舗を見ながら簡単に説明した。


「三天堂は、堅実な装備が多いですね。壊れにくくて、整備もしやすいです」


「うん、わかる」


ほのかが頷く。


「店の顔が、もうちゃんとしてますって感じ」


「GASEは…その…」


ミコトが少しだけ言いづらそうに視線を泳がせる。


「たまに、意味不明な物を出してきます」


「わかる」


今度はしずくも頷いた。


GASEの看板を見てるだけで、なんとなくわかる。

この会社、たぶん試作型ガンソードみたいなものを作りそうだ。


ミコトは続ける。


「でも、野心的ではあります。うまく噛み合えば強いです」


「ハズレ引くと怖そうだけどね」


ほのかが苦笑する。


「フロームは…」


ミコトが、最後の店を見た。


「ロマンにこだわる企業ですね」


それを聞いた瞬間、ほのかがちょっと笑った。


「ロマンにこだわる企業って、褒めてるのか微妙だなぁ」


「でも、人気はあります」

「強い装備も多いですし、何より見た目がいいので」


しずくはフロームの店頭を見た。


黒いジャケット、細身の軽鎧、赤い差し色。

全部、主人公っぽい気がする。


「…たしかに」


思わず漏れた言葉に、ほのかがこっちを見る。


「しずく、フローム好きそう?」


「…ちょっと好きかも」


「やっぱり」


ほのかが笑った。


「でも今日は、私のジャケット優先だからね」


観光に来たわけじゃない。

まずは、酸で焼けたほのかの防具の買い直しだ。


ほのかが三つの店を見比べながら、腕を組む。


「うーん…」

「無難で、そこそこ丈夫で、でも重すぎないやつ」


「でしたら、最初は三天堂がいいと思います」


ミコトが即答した。


「GASEは尖りすぎる可能性がありますし、フロームは予算が…」


「高い?」


「高いです」


「正直でよろしい」


ほのかがにっと笑った。


「じゃ、まず三天堂から行こっか」



店内へ入ると、空気まで少し整っていた。

静かすぎず、うるさすぎず。

店員さんの制服も落ち着いていて、棚の並びまできれいだ。


ほのかが、すぐに軽装ジャケットのコーナーへ向かう。


「お、これよさそう」


手に取ったのは、濃いグレーのジャケット。

一見ただの上着に見えるけれど、肘や肩、脇腹のあたりの生地が少し違う。


店員さんがすぐに来た。

三十代くらいの女性で、笑顔がやわらかい。


「軽装の探索者向けですね」


ほのかが頷く。


「ガンナーです。できれば動きやすいのを、でも最低限の防御性能は欲しいです」


「では、こちらのラインですね」


店員さんが迷いなく別の棚を示す。


「三天堂は衝撃や刺突、斬撃への基礎耐性を重視しています」

「突出した性能はありませんが、事故が起こりにくいですね」


事故しにくい。

その単語の生々しさに、探索者エリアっぽさを感じる。


ほのかは、何着か見比べている。

ミコトは素材表示を真面目に読んでいた。

しずく少し離れて、店の中を見回す。


堅実、たしかにそうだ。

でも、それは弱いって意味じゃない。

むしろ、生き残るための強さって感じがする。


「しずく」


ほのかが一着持って、振り向いた。


「これどう?」


黒に近いグレー、袖は細め。

胸元はすっきりしていて、ほのからしい。


「…いい」


私が言うと、ほのかは少し嬉しそうに笑った。


ミコトも頷く。


「神宮さんに、似合うと思います」


店員さんが、自然に付け加える。


「試着されますか?」


「します」


即答だった。

ほのかが試着室へ消えていくのを見送りながら、しずくは思う。

こうやって三人で装備を見て、相談して、似合うとか言ってるのも、なんだか変な感じだ。


でも、悪くない。

むしろ、かなりいい。


少しして、試着室のカーテンが開いた。


「どう?」


出てきたほのかは、ちゃんと探索者に見えた。


動きやすそうで、軽そうで、それでいて安っぽくない。

余計な装飾がないぶん、ほのかの軽快さに合っている。


「いいですね」


「…似合う」


ほのかが、ちょっと照れたように笑った。


「よし、第一候補」


その横で、店員さんが穏やかに提案して来た。


「ちなみに、そのモデルは基本性能重視ですが、追加加工でいずれかの耐性を一段上げることもできます」


ほのかの目の色が変わる。


「…詳しく聞いていいですか?」


店員さんが微笑む。


「加工内容と予算、納期も含めてご説明しますね」


しずくは、その様子を見ながら少しだけ口元を緩めた。

たぶん今日は、ただの買い物じゃ終わらない。


装備を見て、工房も回って、ミスリルの相談もして、びっくり箱の価値も探る。

やることは多い。

でも、三人なら、こういうのも少し楽しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ