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第52話 戦利品と選択肢

そのまま三人は、受付へ精算に向かった。

リュックから、カウンターに戦利品を並べる。


ミミックの魔石、鋭い歯の束。

ホブゴブリンの魔石と素材。

ゴブリンやボア、その他細々したもの。

最後に、ミスリル鉱石と青いびっくり箱。


受付のお姉さんは、端末を操作しながら順番に入力していく。


「まず、ミミックの魔石ね」


画面を見ながら、少しだけ眉を上げた。


「これ、わりとレアだから結構いい値段つくよ」


ほのかが身を乗り出す。


「おお」


「あと、ホブゴブリンの魔石もゴブリン十匹分くらいの換算になるから」


「十匹分!」


ほのかの目がきらっと光る。

ミコトも、さすがに少し驚いた顔をした。


しずくは、前髪の奥で端末の数字を見つめる。

積み上がっていく金額が、ちょっと現実味がない。


それから、受付のお姉さんの視線がミスリル鉱石に移るなり、にやりと笑った。


「なんか、こういう普通の当たりだと安心感あるわね」


ほのかが吹き出す。


「わかる」


しずくも、ちょっとだけ同意したかった。

双剣とか、ガンソードとか、びっくり箱とか。

最近、変な当たりが多すぎた。


ミスリル鉱石はちゃんと嬉しい。

しかも、ちゃんと分かりやすく嬉しい。


受付のお姉さんは説明を続ける。


「協会での買取価格もかなり高いよ」


端末を見せる。

三人とも、少しだけ息を呑む。


「ただ」


お姉さんが指を立てる。


「これは売る以外にも選択肢あるからね。工房に持ち込んで武器や防具を新造してもいいし、今の装備の強化素材にしてもいい」


ミコトが、小さく頷く。


「ミスリル製は軽くて性能が高いですし」


ほのかがすぐに言う。


「売るか使うか、めっちゃ悩むやつだ」


しずくも思う。

銀盾とか、ジャケットとか。

強化できるなら、かなり大きい。


でも売れば、かなりのお金になる。

どっちも魅力的だ。


そして、最後にミミックのびっくり箱。


受付のお姉さんがそれを見て、少しだけ楽しそうに言った。


「で、問題児ね」


「問題児ですか」


ほのかが復唱する。


「これの買取価格は…三十万円」


「えっ」


しずくが声を漏らした。


ほのかも「うわ」と目を丸くする。

ミコトは、少しだけ真面目な顔になる。


「やっぱり、高いですね」


受付のお姉さんは頷いた。


「ギャンブル箱だからね、好きな人は好き」


「開けるか売るか」


三人の目が、じっと箱を見る。

三十万円。

でも、何が出るかわからない。


高性能な武器かもしれない。

卵の殻かもしれない。


その振れ幅がすごく嫌だし、すごく気になる。


受付のお姉さんが、にやっと笑う。


「ちなみに、協会はどっちでも止めないよ」


ほのかがすぐ反応する。


「今ここで開けるのは?」


「ロビーが荒れるからおすすめしない」


即答だった。

しずくは青い箱を見つめる。

重さは軽い。

でも、選択は重い。


売れば、確実に三十万円。

開ければ、夢か卵の殻。


ほのかが、ちらっとしずくを見る。


「しずく、どうする?」


ミコトも静かに待っている。

しずくは、前髪の奥で少しだけ考えた。


すぐには決められない。

これは、勢いで開ける箱じゃない気がした。


「…今日は、持ち帰る?」


ほのかが頷く。


「それがいいかも」


ミコトも同意する。


「落ち着いて考えた方がよさそうです」


受付のお姉さんも笑う。


「賢明な判断ね」


そう言いながら、精算明細をまとめて差し出した。

金額は、かなりいい。

三人で分けても、十分に大きい。


ほのかが、明細を見て小さく呟く。


「二層、夢あるなぁ」


しずくは、その言葉に小さく頷いた。

たしかに夢がある。

その夢は今、三人分になっている。


受付を離れる時、しずくは回収袋の中の青い箱をそっと撫でた。

びっくり箱、まだ閉じたままの未来。

それを開けるのは、もう少し先でもいい気がした。


とりあえず、ミスリル鉱石とミミックのびっくり箱は保留になった。

どれも即決するには重すぎる。

三人とも、それは同じ意見だった。


ひと仕事終えた三人は、そのままロビー隅の休憩スペースへ移動した。

探索帰りの人たちがちらほらいるけれど、少し奥の席なら落ち着いて話せる。


ほのかは紙コップのスポドリを一気に半分くらい飲んでから、大きく息を吐いた。


「はー生き返る」


その姿を見て、しずくは改めてほのかの服へ目をやった。

酸で焼けたジャケット。

脇腹のあたりは布が溶け、肩口も一部ぼろぼろだ。

応急処置で傷はだいぶ落ち着いているけど、装備としてはもう厳しい。


ミコトもその視線に気づいたのか、小さく頷く。


「やっぱり、買い直しは必要ですね」


ほのかが、自分のジャケットをつまんで苦笑した。


「これで、次潜るのは普通に怖い」


そこで、ミコトが少しだけ姿勢を正した。


「あの」


しずくとほのかが顔を上げる。

ミコトは、少しだけ遠慮がち提案した。


「明日、ショッピングモールに行きませんか?」


「モール?」


ほのかが首を傾げる。


「モール内に、探索者エリアがあるんです」


それを聞いた瞬間、ほのかの目が少し光った。


「あるある、聞いたことある」


ミコトは続ける。


「個人の工房もありますし、企業のお店も多いです。武器、防具、消耗品、アクセサリー、素材の査定窓口まで、一通り揃ってます」


しずくは前髪の奥で少し目を瞬かせた。

探索者エリア。

なんだか、急に冒険者の街みたいな響きだ。


ミコトは、ほのかのジャケットをちらりと見る。


「どちらにしろ、神宮さんの装備は買い直しが必要ですし」


そして、しずくの回収袋の方へ視線を向ける。


「ミスリル鉱石も、びっくり箱も、相談先の候補は見ておいた方がいいと思います」


ほのかが、紙コップを持ったまま頷いた。


ジャケットは急ぎで必要。

ミスリル鉱石は売るのか、使うのか。

びっくり箱も、開けるにしても売るにしても相場感は知りたい。


しずくも小さく頷く。


「…行きたい」


その言葉に、ミコトが少しだけほっとしたように笑う。

ほのかが、そんな二人を見ながら腕を組む。


「しずくの装備は、ローグライクで固定な訳だけどさ」

「インナーとかは消えないよね」

「そっちのほうを更新して、底上げしようか」


それは、しずくにも少し刺さった。

ローグライク装備は強い。

でも、毎日都合よく欲しい型になるとは限らない。

通常装備の底上げは、きっと大事だ。


ミコトも続く。


「わたしも、杖を見たいです。いまの杖、協会レンタルなので」


「おっ」


ほのかが指を折る。


「私はジャケット買い直し。ミコト杖。しずくはインナー類。で、ミスリルとびっくり箱の相談」


それから満足そうに頷く。


「めっちゃ目的ある」


しずくは、少しだけ胸が高鳴るのを感じた。


友達とショッピングモール。

探索者エリア。


普通の買い物とは違う。

それでも、みんなで出かける予定には違いない。


少し前の自分なら、それだけで緊張して断っていたかもしれない。

でも今は。


「楽しそう」


ぽつりと漏れた本音に、ほのかがにやっと笑う。


「でしょ?」


ミコトも、少しだけ嬉しそうに言った。


「たぶん、普通の雑貨屋さんとかもありますから」


「え」


しずくが少し目を瞬く。


「探索者エリアだけじゃなくて、それ以外は普通のモールなので」


ほのかが、すかさず食いついた。


「じゃあ帰りに甘いもの食べれるじゃん」


「それが本命?」


しずくが言うと、ほのかが笑った。


「半分くらい」


ミコトも、小さく笑う。

しずくは、その流れを見て少しだけ口元を緩める。


探索者エリア。

工房や企業ショップ。

そして、帰りに甘いもの。


高校生らしいような、探索者らしいような。

そのどっちも混ざった予定が、妙に今の三人らしかった。


ほのかがスマホを取り出す。


「明日、学校終わったらそのまま行く?」


ミコトが頷くと、しずくも頷いた。

予定が、また増える。


ダンジョンのための予定。

でも、それだけじゃない予定。


しずくは、自分の回収袋の中のミスリル鉱石と青いびっくり箱を思い浮かべた。


明日は、それらに少しだけ現実的な値段や使い道がつくのかもしれない。


でも、それ以上に。

三人でモールへ行く、ということ自体がしずくには少しだけ眩しかった。

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