第51話 ローグライクの醍醐味
ミミックが光になって消えた。
床に残ったのは、まず大きめの魔石。
それから、ぎらりと光る鋭い歯の束。
ミミックの素材だ。
さらに、拳大の蒼い鉱石がひとつ。
そして、小さな青い箱。
宝箱を模した魔物が残したにしては、皮肉みたいにちゃんとした箱だった。
しずくが、まだ少し痺れる腕でそれらを拾い上げる。
まず、蒼い鉱石。
光を受けて、内側から淡く輝いている。
青いのに冷たすぎず、どこか上品な色だった。
システムウィンドウが開く。
【通常レアドロップ ミスリル鉱石】
高純度のミスリル鉱石。
加工が難しいが、ミスリル製の武具は軽くて性能が高い。
「…ミスリル?」
しずくが思わず呟く。
ほのかが、ヒールを受けながら目を見開いた。
「え、うそ」
ミコトも、少しだけ声が弾む。
「当たりです」
配信コメント欄が一気に流れる。
『ミスリルきた!!』
『素材大当たり!』
『軽くて強い武具素材は神』
『売っても高いぞ!』
『これは普通に勝ち』
『寝ぐら攻略の報酬として強すぎる』
ほのかが、痛みに顔をしかめながらも笑った。
「やば、これだけで今日潜った価値あるかも」
ミコトが真面目に頷く。
「工房に持ち込めば、かなりいい装備になります…たぶん」
しずくは、ミスリル鉱石を見つめた。
ローグライクじゃない。
普通のレアドロップ。
でも、十分に当たりだった。
次に、青い箱を手に取る。
ほのかが、少しだけ身を乗り出す。
「それは?」
しずくが持ち上げると、意外と軽い。
表面はつるりとしていて、飾り気はない。
でも、普通の小箱とも少し違う、妙な不安定さがある。
システムウィンドウが開いた。
【ミミックの固定レアドロップ ミミックのびっくり箱】
何が出るかわからない謎の箱。
当たり外れが非常に大きい。
高性能な武器から、卵の殻まで千差万別。
ギャンブル気質の資産家が好んで買う。
沈黙の後、ほのかが呆けたように呟く。
「…なにそれ」
しずくも、同じ気持ちだった。
「びっくり箱?」
ミコトが、小さく読み上げると配信コメント欄が爆発する。
『きたあああ!!』
『ギャンブル箱!!』
『開けろ!!』
『いや売れ!!』
『卵の殻はひどいwww』
『高性能武器か卵の殻は振れ幅でかすぎる』
『これ絶対その場で開けるな案件』
ほのかが、にやりと笑う。
「夢あるじゃん」
「怖いですね」
ミコトも真顔で頷いた。
高性能な武器。
その言葉だけ見れば魅力的だ。
でも、その横に卵の殻と書いてある時点で、信用できない。
ほのかは、面白がるように青い箱を見た。
「これさ、開けるタイミング悩むやつだね」
ミコトが慎重に言葉探す。
「売るのも選択肢だと思います。ギャンブル好きの資産家が買うっていうなら、かなりの値段になるかも」
しずくは箱を見つめた。
何が出るかわからない、当たり外れが大きい。
ローグライクとは違う意味で、理不尽な箱だ。
「しずくのローグライクだけじゃなくて、普通のダンジョンもガチャ押し強くない?」
「…ほんとに」
しずくがぽつりと返すと、ミコトも少しだけ笑った。
三人は、魔石、ミミックの歯、ミスリル鉱石、そして青いびっくり箱を前に、少しの間そのまま立っていた。
激戦のあと。
酸で服は溶け、肩も痛い。
しずくも腕がだるい。
ミコトも魔力をかなり使っている。
それでも。
戦利品を見ると、少しだけ気持ちが上向く。
ほのかが機弩を肩にかけながら言った。
「今日はもう、帰還かな」
ミコトがほのかの傷を見て頷く。
「その方がいいです。神宮さんの酸の処置も、協会でちゃんと見てもらった方が…」
しずくも、小さく頷いた。
「…うん」
それから、青いびっくり箱を見て付け足した。
「これも、協会に見せた方がいいのかな?」
ほのかが吹き出す。
「それは通常レアだし、いいんじゃない?」
ミコトまで少し笑った。
視聴者コメントもまだ盛り上がっている。
『今日は神回』
『ミスリルまで出た』
『びっくり箱気になりすぎる』
『絶対その場で開けないで』
しずくは、青い箱を回収袋へそっとしまった。
軽いけど、妙に存在感がある。
何が出るかわからない箱。
それは少し、今の自分たちみたいだと思った。
開けてみたい気もする。
しずくは、ミスリル鉱石とびっくり箱を回収し終えると、小さく息を吐いた。
「…帰ろうか」
ほのかが頷く。
「今日は十分すぎるほど稼いだし、戦った」
ミコトも静かに杖を握り直す。
三人は、宝箱のあった最奥をあとにした。
背後には、壊れたゴブリンの寝ぐら。
前には、帰り道。
回収袋の中には、ミスリル鉱石とまだ何者でもない青い箱が、静かに揺れていた。
そして、三人が帰還ゲートをくぐった時だった。
しずくの背中で、棘付き棍棒が淡く光った。
「あ」
小さく声が漏れる。
次の瞬間、棍棒は粒子になって消えた。
ロック枠はもう埋まっている。
銀のバックラー。
銀兎のジャケット。
踊り子の双剣。
だから、消えるのは当たり前だ。
しずくは、少しだけその消えた場所を見た。
ミミック戦では、あれがなかったら危なかった。
たまたま引いた、たまたま役に立った。
そして、役目を終えたら消えた。
棘だらけで、見た目も物騒で。
正直、最初はあまり好きじゃなかった。
でも、最後にはちゃんと自分たちを助けてくれた。
しずくは、無意識に背中へ手を伸ばしかけて、そこで止めた。
もう、そこには何もない。
ほんの少しだけ、寂しい。
配信コメント欄にも、その消失を惜しむ声が流れた。
『棍棒消えた…』
『役目終えて消えるの、ローグライクすぎる』
『最後めっちゃ活躍したのに』
『いい武器だったな、棘付き棍棒』
『名前地味なのに仕事しすぎ』
『お別れ早いよ…』
「一期一会」
しずくがぽつりと呟く。
ほのかが隣で笑う。
「ローグライクって感じするね」
「うん」
しずくも小さく頷く。
強い装備を積み上げるだけじゃない。
その場限りの出会いで、生き延びる。
役に立って、消えて。
でも、ちゃんと記憶には残る。
そういうのも、たしかにローグライクなのかもしれなかった。
ゲートの向こう、いつものの光が三人を迎える。
しずくは前を向いた。
回収袋の中には、ミスリル鉱石とびっくり箱。
背中からは、棘付き棍棒だけがいなくなった。
それでも、今日持ち帰れたものは、決して少なくない。
強い素材、危ない箱。
三人の連携。
そして消えてしまった武器との、小さな別れまで。
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