第49話 最奥の擬態者
ミミックが、さらに大きく口を開けた。
宝箱の内側いっぱいに、びっしりと並んだ鋭い歯。
その異様な光景に、しずくの背筋がぞっとする。
次の瞬間、歯が弾けるように飛んだ。
まるでマシンガンの掃射。
白い牙が、弾丸みたいに一直線へ放たれる。
「っ!」
しずくは咄嗟に銀盾を前に出した。
盾が歯をなんとか弾く、軌道が逸れる。
衝撃は細かく、でも凶悪に腕へ伝わってくる。
一発一発は矢より小さい。
だが、数が多い。
配信コメント欄が一気に荒れた。
『歯、飛ばしてくるの!?』
『ミミックきしょすぎる!!』
『宝箱の攻撃方法じゃねえだろ!』
『盾なかったら終わってる!』
『しずく防げえええ!!』
ほのかは、咄嗟に床を蹴って横へ転がった。
「うわっ、やばっ!」
髪をかすめて歯が飛ぶ。
頬の横を一本、白い線が抜けていった。
ミコトは、両手を前に出す。
「障壁!」
淡い聖光の壁が展開される。
けれど、ほんの一瞬遅れた。
数本の歯が、ローブとジャケットを貫く。
「っ、ぁ!」
ミコトの肩に、白い牙が突き刺さった。
うっすらと赤が滲む。
「ミコト!」
ほのかが叫ぶ。
ミコトは顔を歪めながらも、倒れない。
でも痛みで片膝をつく。
しずくは、銀盾で弾き床に落ちた歯を見た。
白くて長い。
まるで骨の針みたいだ。
そのまま、視線をミミックへ向ける。
ミミックの口の中。
さっき掃射で飛ばしたはずの歯が、もう生え始めている。
「…再生するの」
しずくの声が低くなる。
ほのかも、転がった姿勢のまま顔を引きつらせた。
「弾切れ待ちできないやつじゃん!」
ミミックは舌を揺らしながら、楽しそうに顎を鳴らした。
宝箱の姿のままなのに、そこだけ生き物みたいにいやらしい。
視聴者コメントも悲鳴混じりだ。
『最悪だぁぁぁ』
『口の中が補充されてるの無理』
『気持ち悪すぎる!!』
『ミコトちゃん被弾した!』
『これ長引くと危ないやつだ』
ミコトが肩を押さえながら、息を詰める。
「だ、大丈夫、浅いです」
大丈夫じゃない。
でも、気丈に言っている。
しずくは、さらにに前へ出た。
「…ミコト下がって、私の後ろに」
「でも…」
「下がって」
今度は、少しだけ強い声で言えた。
ミコトは痛みに顔を歪めながらも、こくりと頷いて一歩下がる。
ほのかも起き上がり、機弩を構え直す。
「口を開かせる前に潰したいけど…」
「歯、飛ばす前提の敵だよね」
しずくが小さく言う。
ミミックの強みは、口の中の砲台。
しかも再生する。
「ほのか、口の中を叩く」
ほのかが目を細める。
「開いた瞬間に?」
しずくが頷く。
「…うん」
ミコトが、肩の傷を押さえたまま口を開く。
「ホーリーバインドなら、箱の蓋ごと…いけるかも」
ほのかの目が光る。
「なるほど」
しずくもすぐに理解した。
完全に閉じさせるのは無理でも、開く動きを一瞬止める。
その間に、口の中へ火力を叩き込む。
ほのかが素早く指示を飛ばす。
「ミコト、次に開いた瞬間バインド」
「はい」
「しずくはマジックアロー、口の中に連射」
「…うん」
「私は双剣と機弩で追撃」
ミミックが、再び顎を開き始める。
歯が揃い、舌がうねる。
次の掃射が来る。
ほのかがミミックを睨み付ける。
「今度はこっちのターンだ」
しずくは、杖の先をまっすぐミミックへ向けた。
ミコトの指先に、聖光が絡みつく。
三人の呼吸が、一つに合う。
そして、ミミックの口が再び大きく開いた。
びっしりと並んだ歯。
舌の奥、暗い喉。
その瞬間を、ミコトは逃さなかった。
【ホーリーバインド】
聖なる紐が、箱の上下へ走る。
蓋と胴を無理やり引き留めるように絡みつき、ミミックの口を開いたまま固定した。
「今です!」
【マジックアロー五連】
しずくの杖先から、光の矢が連続で放たれる。
一発、二発、三発、四発、五発。
狙う先は、全部口の中だ。
光の矢が、喉の奥へ吸い込まれるように突き刺さる。
視聴者コメントが跳ねる。
『入った!!』
『口の中だ!』
『そこが弱点か!』
『しずく連射えらい!』
『ミコトちゃんのバインド神!!』
ほのかも同時に動いていた。
【ダンシングソード】
銀の双剣が、ひとりでに踊るように飛ぶ。
片方はミミックの側面を裂き、もう片方は開いた口の縁を切り上げる。
その間に、ほのか自身は機弩を構え引き金を引き絞った。
フルオートでの連射。
弾丸が開かれた口の中へ、容赦なく叩き込まれる。
「ギィィィィッ!」
ミミックが、初めてまともな悲鳴を上げた。
口を閉じようとする。
だが、バインドが邪魔をする。
閉じきれない隙間から、光と弾丸がなおも内部をえぐる。
たまらず、ミミックはその場で大きく跳ねた。
箱の姿のまま床を転がり回る。
口を半開きにしたまま、石畳の上を七転八倒。
角を床にぶつけ、側面を壁に打ちつけ、ぴょんと跳ねてまた転がる。
中々にシュールだった。
『転がったwww』
『ミミック大暴れ』
『絵面がひどい』
『さっきまで怖かったのに急に面白い』
『でも普通に危ないからなこれ!』
「…なんか、すごい」
しずくが思わず呟く。
「ちょっとかわいく見えてくるのやめて!」
ほのかが叫ぶ。
「わかります」
ミコトまで小さく同意した。
でも、かわいく見えたのは一瞬だけだ。
転がり回るたびに、ミミックの口の端から黒っぽい液が飛び散る。
箱の表面には亀裂が増え、内側の肉のようなものが見え始めていた。
しずくは、杖を握り直した。
「…まだ、動く」
ほのかも、機弩のマガジンを交換しながら確認する。
「でも効いてる」
ミコトが、肩を押さえたまま息を整える。
「次、もう一回開いたら…今度こそ決められます」
ミミックは転がるのをやめると、少し離れた場所でぐらりと止まった。
箱の蓋が、ぎしぎしと揺れる。
口を閉じたいのに、内部の損傷でうまく噛み合わないらしい。
その姿は、さっきまでの不気味さより、どこか無様だった。
けれど、ミミックはぴたりと動きを止めた。
三人が身構える。
壊れたふりか。
それとも、本当に限界か。
静寂の中で、ミミックの蓋がわずかに持ち上がる。
そして、奥から見えたのは歯ではなく、赤黒い舌だった。
「まだ来る!」
ほのかが叫ぶ。
しずくは銀盾を構える。
ミコトの指先にまた聖光が集まる。
三人の視線が、壊れかけた箱へ集中する。
宝箱のふりをした魔物は、まだ諦めていなかった。
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