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第48話 静かな遺品、下品な宝箱

ホブゴブリンが光になって消えたあと、床に残ったのは大きめの魔石と、分厚い皮や骨片のような素材だった。


そして、もう一つ。

ころり、と小さなものが転がる。

しずくがしゃがみ込んで拾い上げると、それはお守りだった。


使い込まれた布に、簡素な金具がはめ込まれている。

派手さはない。

けれど、手に取った瞬間妙に重みを感じる。


システムウィンドウが静かに開いた。


【レアドロップ 戦士のお守り】


死地に赴く戦士に、仲間たちが贈ったお守り。

力と耐久の基礎ステータスアップ(小)、HP上昇(中)。


「…お守り」


しずくが小さく呟く。


ほのかも、ミコトも覗き込む。

ただの強化アクセサリー、という感じではなかった。


さっき倒したホブゴブリン。

あの武術、あの粘り。

最後に見せた、小さな笑み。


それらが、このお守りと不思議なくらい自然に重なった。


仲間がいたのかもしれない。

守りたいものがあったのかもしれない。

あるいは、ただ戦う者として、見送られたのかもしれない。


もちろん、本当のところは分からない。

でもこのお守りには、たしかにそういう何かが宿っている気がした。


しずくは、お守りをそっと握る。


ローグライクの装備じゃない。

普通のレアドロップだ。


それでも、そこに物語があるように感じられる。


「…通常のレアでも、こういうのあるんだね」


ほのかがぽつりと言う。


ミコトも、静かに頷いた。


「ダンジョンって、たまにそういうがあるつて言いますね」


その言葉が、寝ぐらの薄暗い空気に不思議と馴染んだ。


配信コメント欄も、いつもより少しだけ静かだった。


『なんか…いいな』

『ホブゴブリン、ただの強敵じゃなかったんだな』

『こういうの弱い』

『最後の笑み思い出してちょっとしんどい』

『戦士のお守りって名前がもうずるい』


しばらくして、ほのかが顔を上げる。


「…あれ?」


気配察知を広げたのだろう。

眉が少しだけ寄る。


「どうしたの」


しずくが聞くと、ほのかは首を傾げた。


「ゴブリンの気配、ほとんどない」


「…さっきまで、少しはあった」


ミコトもそう言って、周囲を見回す。

たしかに、寝ぐらの奥にまだ散っていた小さな反応が、今は妙に薄い。


「ひょっとして」


ほのかが機弩を肩に掛け直す。


「ホブゴブリンが負けたの見て、引いたのかも」


ミコトは少し考えてから頷いた。


「ありえます。あの個体を恐れていたなら、なおさら」


どちらにしろ、今がチャンスだ。

ほのかの目が、にやりと細くなる。


「宝箱、行けるね」


しずくも小さく頷いた。


配信コメントも、しんみりした空気から一気に戻ってくる。


『宝箱タイム!』

『切り替え早いなw』

『でも今なら行ける』

『ホブゴブリン後のボーナスステージか?』

『いや絶対なにかあるだろ』


三人は寝ぐらのさらに奥へ進む。


そこは、今までより少し広い空間になっていた。

天井も高い。

岩肌は黒く煤け、床にはぼろぼろの道具や壊れた器、木片、骨片が散乱している。


いかにもゴブリンの巣穴らしい、汚く雑然とした最奥。


そして、その中央にあった。


宝箱。


木製に金属の補強が入った、いかにも宝箱という姿。

こんな場所に、不自然なほどきれいに置かれている。


けれど、全員すぐに違和感に気づいた。

宝箱の周りだけ、何もない。


散乱した道具も、汚れも、骨もない。

まるでそこだけ避けて空間が開けているみたいだった。


しかも。


「…石畳ですね、ここだけ」


ミコトが呟く。


寝ぐら全体は土と岩がむき出しなのに、宝箱の周囲だけ不自然に整った石畳になっていた。

もう隠す気がない。

全力で罠です、と宝箱そのものが主張しているようだった。


「逆に清々しいね」


ほのかが軽く息を吐く。


「ここまで来ると、どうぞ疑ってくださいって感じ」


しずくも、前髪の奥でじっと箱を見る。


「…怪しい」


配信コメント欄も一斉にざわつく。


『怪しすぎるw』

『逆に怖い』

『どう見ても罠です』

『でもこういうの開けたくなるんだよな』

『宝箱くん、もう少し隠す努力して』


ミコトが一歩前へ出た。


「調べます」


【魔力調律】


ミコトの瞳が少しだけ細まる。

宝箱の周囲、石畳、空気の流れ、箱そのもの。

じっと見つめる。


ほのかとしずくは、その間に周囲を警戒した。


やがて、ミコトが小さく首を傾げる。


「罠らしきものは、ありません」


「え」


ほのかが目を瞬く。


「ほんとに?」


「少なくとも、床に仕込まれた魔力式トラップや、発動系の術式は見えません」


それなら安全とは、誰も思わなかった。


しずくが、宝箱を見たまま聞く。


「じゃあ、なにかな…」


ミコトは少しだけ唇を引き結ぶ。


「ただ…」


その声がわずかに低くなる。


「なんらかの、生体反応が箱からあります」


「生体反応?」


ほのかが、思いっきり嫌そうな顔をした。


「それ宝箱じゃなくない?」


ミコトが小さく頷く。


「たぶん、そうです」


ほのかは、その場でしゃがみ込むと、床から小石を一つ拾った。


「とりあえず」


軽く重さを確かめる。


「投げてみよ」


しずくが思わず口に出す。


「…雑」


「こういう時は雑でいいの」


ほのかはそう言って、小石を宝箱へ放った。

小石が箱の蓋に当たったその瞬間、宝箱が突然開いた。


中には金貨も宝石もない。

代わりに、鋭い歯がびっしり並んでいた。

長い舌が、ぬるりと伸びる。


「うわっ!」


ほのかが飛び退く。

ミコトも息を呑む。

しずくが杖を構え直す。


「ミミック!」


宝箱のふりをして、獲物を待っていた魔物。

それが、ゆっくりと舌を揺らしながら、三人を見ていた。


配信コメント欄が一気に荒れる。


『ミミックだああああ!!』

『やっぱりwww』

『生体反応の正体それかよ!』

『宝箱じゃなくて口だった』

『嫌すぎる』

『ほのかの雑確認、正解すぎる』

『これ開けてたら終わってたやつ』

『二層、ほんと性格悪いな!?』


ミミックは、ただ口を開いているだけなのに不気味だった。

歯の並びが変に人間じみていて、箱の木目と肉の境目が曖昧で、どこまでが箱でどこからが生き物なのか、一目では分からない。


ぬらりと揺れる舌先が、まるで「さあ近づけ」と誘っているみたいで。

しずくは、ぞわりと背中が粟立つのを感じた。


ホブゴブリンとはまた別の、理屈じゃない嫌さだった。


「これ、生理的嫌悪感やばいね」


ほのかが心底嫌そうな声を出す。


「わかる」


しずくも、すぐに頷いた。


ミコトは杖を構えたまま、小さく息を吸う。


「宝箱じゃなくて、ミミックだったんですね」


その呟きが、逆にいちばん怖かった。


寝ぐらの最奥。

戦士の余韻がまだ消えない場所で。

三人の前に現れた次の敵は、あまりにもダンジョンらしい悪意そのものだった。

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