第37話 白澤ミコトは同級生!?
三人はロビーの隅にある休憩スペースへ移動した。
自販機と長机、簡単なソファがあるだけの場所。
探索帰りの探索者が、飲み物を飲んだり端末を見たりしている。
その一角に腰を下ろす。
戦闘の熱気はまだ抜けていない。
でも、さっきまでの緊張とは少し違う。
今は、今後の話をするための時間だ。
ほのかが紙コップの飲み物を片手で掴みながら、話を切り出した。
「じゃ、改めて自己紹介いこっか」
ミコトはこくりと頷いた。
小さな背筋をぴんと伸ばす。
「白澤ミコトです」
「県立○○高校、一年です」
「…え」
しずくとほのかが、ほぼ同時に声を漏らした。
ミコトがびくっとする。
「…あ、あの」
ほのかが思わず身を乗り出す。
「うちの高校じゃん!?」
しずくも、前髪の奥でぱちぱち瞬きをした。
「同じ…」
ミコトは小さく頷く。
「…はい」
しばし沈黙。
それから、ほのかが額を押さえた。
「なにそれ、うちの高校探索者多くない?一応進学校だよね」
しずくは心の中で、ほんとにと思った。
自分、ほのか、ミコト。
同じ高校一年が三人。
しかも全員、探索者。
ほのかがそのまま、ミコトに尋ねる。
「で、クラスは?」
「一組です」
「あ、違うんだ」
ほのかが納得したように頷く。
「うちら三組だもんね」
しずくも小さく頷いた。
同じ学校なのに気づかなかったのは、そのせいでもある。
クラスが違えば、校内で顔を合わせる機会なんて意外と少ない。
でも、それだけじゃない気もした。
ミコトは体が小さいし、目立つようでいて、本人はたぶんかなり静かに過ごしているタイプだ。
ミコトは少しだけためらってから、付け足した。
「…あと、理系コースなので…授業の移動とかも、あまり重ならなくて」
「理系コース?」
ほのかが少しだけ目を丸くする。
女子高生で理系というだけで珍しい、という空気が少しだけ流れた。
ミコトは小さく頷いた。
「…はい」
しずくも、少しだけ驚いた。
県立○○高校は進学校だ。
文系理系で雰囲気もかなり違う。
しかも、女子で理系に行く子はそこまで多くない。
だから余計に、同じ学年でも接点が薄かったのだろう。
その時、ほのかが「あっ」と声を上げた。
何か引っかかった顔。
「ちょっと待って」
ミコトを見る。
「白澤ミコトって、その白澤ミコト?」
「…え?」
今度はミコトが目を瞬く番だった。
ほのかは少し前のめりになる。
「入学式の新入生代表、やってなかった?」
しずくも、そこでようやく記憶の奥が繋がった。
入学式の壇上。
小さな女子生徒。
でも、声だけはやけに通っていた。
ミコトは少しだけ気まずそうに目を逸らした。
「…やりました」
ほのかが机を軽く叩く。
「やっぱり、あれミコトちゃんだったの!?」
しずくも、前髪の奥で目を大きくした。
たしかに、言われてみれば雰囲気が似ている。
小柄で、でも姿勢がすごく良かった。
あの時は遠かったし、まさか今こうして同じテーブルを囲むことになるとは思わなかったから、繋がらなかっただけだ。
ほのかはさらに目を細める。
「ひょっとして、首席?」
ミコトの肩がぴくっと揺れる。
「…たぶん、そうです」
ほのかが思わず笑う。
「いや、すご…」
しずくも、心の中でかなり驚いていた。
小学生みたいに見えて、神社の娘で、マジシャンで、しかも理系コースで首席っぽい。
情報量が多い。
しずくは、なんとなく納得もした。
この子の言葉に芯があった理由。
怖くても、ちゃんと報告すると言えた理由。
そういうものが、少しだけ分かった気がする。
ミコトは少しだけ縮こまりながら続ける。
「職は、マジシャンです」
「うん」
「得意属性は…聖です」
ほのかが小さく口笛を吹きそうになる。
「聖属性かぁ、レアじゃん」
ミコトは少しだけ照れたように視線を落とした。
「レベルは、3です」
「おっ」
ほのかが頷く。
「じゃあ、そんなに離れてないね」
しずくも頷いた。
今、自分とほのかは4。ミコトは3。
一緒に潜るには十分近い。
ほのかが、次という顔で促す。
「固有スキルは?」
ミコトは少しだけ真面目な顔になる。
「【魔力調律】です」
「魔力調律?」
しずくが小さく繰り返す。
ミコトは説明した。
「魔力の流れを視認できるようになります」
「見えるの?」
ほのかが食いつく。
「…はい。自分のも、相手のも、魔法の流れも、なんとなく」
それだけでもかなりすごい。
ミコトは続ける。
「そのおかげで、繊細な制御がしやすいです。あと、スキルレベルに応じて、消費MPが減ります」
ほのかが素直に感心した。
「つよ」
しずくも同じ感想だった。
聖属性のマジシャンで、しかも制御特化。
回復も拘束も、かなり器用に扱えそうだ。
「魔法はどんなものがあるの?」
ミコトは、今度はすらすら答えた。
「まずは攻撃魔法ですが、【光輪】」
少しだけ手で輪を描く。
「光の輪を放つ聖属性攻撃魔法です。ブーメランみたいに往復するので、位置を調整すれば二回当てられます」
「おお」
ほのかが目を輝かせる。
「それ、地味にずるい」
ミコトは少しだけ頬を赤くしつつ、次を言う。
「【ヒール】聖属性回復魔法です。一人のHPを回復させます。回復量は魔力依存です」
しずくは、さっきの撤退戦を思い出した。
「…助かった」
ミコトが少しだけ笑う。
「追いつかなかったですけど…」
「でも、なかったらもっとやばかったじゃん」
ミコトはその言葉に、少しだけ肩の力を抜いた。
「最後は【ホーリーバインド】です」
「拘束?」
「はい。聖なる紐が対象に絡みついて、動きを邪魔します」
ほのかが、にやっと笑った。
「いいね」
指を折りながら整理する。
「前衛しずく、後衛ガンナーの私。で、回復と拘束と聖属性火力のミコトちゃん」
それから、しずくを見る。
「バランスよくない?」
しずくは、少し考えてから頷いた。
「…いい」
かなり、いい。
しずくが前に立つ。
ほのかが射線を取り、双剣と機弩で削る。
ミコトが回復し、拘束し、往復する光輪で補助火力を出す。
しかも、聖属性。
吸血蝙蝠みたいな敵にも刺さるだろうし、今後アンデッドっぽい相手が出ても強い。
ほのかが楽しそうに笑った。
「しかも全員高校一年」
ミコトが小さく言う。
「…同じ学校って、ちょっと安心します」
その言葉に、しずくの胸が少しだけあたたかくなった。
自分だけじゃない、ほのかだけでもない。
同じ学校の、同じ一年が三人。
それは妙に、不思議で心強かった。
ほのかが次の話題を振る。
「でさ、学校ではどうする?」
ミコトがきょとんとする。
「どうする…とは?」
「探索者のこと、バラすか隠すか」
ミコトは少し考えてから答えた。
「…できれば、あんまり目立ちたくないです」
しずくが、心の底から同意した。
「…わかる」
ほのかが吹き出した。
「しずくはそうだよね」
しずくは少しだけ頬が熱くなる。
ほのかは、でもすぐに真面目な顔に戻った。
「じゃ、学校では基本内緒ね。探索者関係の話は、協会かファミレス」
ミコトが小さく頷く。
「はい」
しずくも頷いた。
「…うん」
ほのかが満足そうに、飲み物を一口飲む。
「よし、これで三人の基本情報はオッケー」
それから、少しだけ悪い顔で笑った。
「次は、しずくのローグライク講座かな」
ミコトが首を傾げる。
「…ローグライク?」
しずくは、少しだけ身構えた。
また説明するのか。
でも、もう前よりはましだ。
今度は仲間に話す説明だ。
そう思うと、少しだけ言葉が出しやすかった。
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