表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/48

第30話 見捨てない理由

ミコトは、少しだけ息を吸った。


さっきまでの、おどおどした感じはなかった。

声は小さいままなのに、不思議と揺れていない。


「…助けたいと、思います」


しずくが、思わずミコトを見る。


ミコトは、あの男二人をまっすぐ見ていた。

囮にされて、置き去りにされた相手を。


でも、その瞳は濁っていない。


「ここで見捨てたら」


ミコトは静かに続ける。


「私も、彼らと同じです」


その言葉は、思っていたよりずっと強かった。


ほのかが、少しだけ目を丸くする。

しずくの胸の奥も、きゅっと熱くなった。


ミコトは、そこでほんの少しだけ口元を歪めた。

小さな、でも確かな意地悪さをのせた表情。


「それに…」


視線を、罠にはまった男二人へ戻す。


「きちんと協会へ報告するにしても、彼らの身柄は必要ですから」


しずくは、思わず瞬きをした。

ほのかが、ふっと吹き出しそうになるのをこらえる。


「いいね」


小声で言う。


「それ、好き」


ミコトは少しだけ耳を赤くしたけれど、目は逸らさなかった。

ほのかはすぐに戦闘の顔へ戻る。


「じゃ、助ける方向で」


脇道の奥、小部屋をもう一度見る。


四匹のゴブリン。

罠にはまった男二人。

狭い空間。


正面から飛び込めば、男たちを巻き込む可能性がある。


ほのかが小さく指を折る。


「作戦、前の二匹をしずくが止める」


「…うん」


「後ろの二匹は、双剣で散らして私が撃つ」


しずくが頷くきながら、ほのかに尋ねた。


「…ミコトちゃんは?」


ミコトは、少しだけ迷ってから答えた。


「…足止め系の魔法なら、使えます」


ほのかの目が光る。


「じゃ、ゴブリンの動きが止まった一瞬で、罠にはまってる二人を壁側に転がして。巻き込み防止」


ミコトがこくりと頷く。


「できます」


しずくは銀盾を構えた。

ロングソードを握り直す。


狭い部屋だ。

でも、狭いなら前を塞ぎやすい。


ほのかが最後に確認する。


「優先順位はゴブリン、男二人は後回し。分かった?」


「…うん」


「はい」


二人の返事を聞いて、ほのかがにやっと笑う。


「よし」


その笑みは、少しだけ獰猛だった。


「悪い大人は、あとで協会に怒られてもらおう」


しずくは小さく息を吸った。

ミコトも、ローブの袖の奥で指先を光らせる。


小部屋の中では、ゴブリンの一匹が槍を持ち上げていた。

男の一人が、それを見て顔を引きつらせる。


もう、時間はない。

ほのかが、双剣の柄に触れながら囁く。


「三、二、一」


次の瞬間、銀の刃が闇を裂いて踊り始めた。

男二人に完全に意識を向けていたゴブリンたちは、しずくたちの奇襲に対応できなかった。


最初に飛び込んだのは、銀の線。


踊り子の双剣が、低い天井の下を滑るように舞った。

一匹目の喉元を裂き、返す刃で二匹目の目を潰す。


「ギッ!?」


遅れて、ほのかの機弩が火を吹く。

石斧を持ったゴブリンの額、槍持ちの肩口。


崩れたところへ、しずくが銀盾を前に踏み込む。

狭い小部屋の入口、そこを塞ぐように立つ。


ロングソードが横に走った。


まだ、何が起きたか理解していないゴブリンの胴を裂く。

返す動きで、もう一匹の手首を打つ。


棍棒が床に落ちた。

ミコトの指先から、遅れて淡い光が走る。


「足、止めます…!」


床に薄い魔法陣が広がり、残ったゴブリンの足元を絡め取った。

一瞬、ほんの一瞬だけ。

でも、その一瞬で十分だった。


戻ってきた双剣が、そのゴブリンの首を切る。

ほのかの弾が、最後の個体の頭を撃ち抜いた。


三匹がなすすべなく、光になって消える。

罠にはまっていた男二人が、呆然としながらこちらを見ていた。


助かった、という顔より先に。

何が起きた?という顔だった。


でも、ゴブリンはただでは終わらなかった。

最後の一匹が、喉を裂かれながらも、肺の奥から無理やり声を絞り出す。


「キィィィィッ!」


高く、耳を刺すような警戒音。

寝ぐら全体へ響く。


ここに敵がいる、仲間を呼ぶ叫び。


「…やば」


ほのかの顔が変わる。

寝ぐらの奥が、ざわっと動いた。


奥の通路。

さらにその向こう。

あちこちから、足音。叫び声。汚い金属音。


空気が慌ただしくなる。


「ギャッ!」

「ギギッ!」

「グァ!」


しずくの背筋が冷えた。

来る。

しかも、一匹二匹じゃない。


ドロップが光り始めていた。

魔石。素材。

もしかしたら、また何か当たりが落ちているかもしれない。


でも、そんなものを拾っている時間はない。


「回収は捨てる!」


ほのかが即断した。


しずくも、すぐに頷く。


「…うん!」


ほのかはそのまま、罠にはまっている男二人の足元へしゃがみ込む。


「じっとして!」


「お、おい、助け」


「うるさい、足切るよりマシでしょ!」


金属の顎に手をかける。

器用だ。慣れている。

関節の仕組みを読むみたいに、力を逃がしていく。


一つ目のトラバサミが外れる。

男が痛みに顔を歪めながらも、なんとか足を引き抜く。


続けて、二つ目。


こっちは食い込みが深い。

ほのかは歯を食いしばって、てこの原理みたいに無理やり開いた。


「…っ、はぁ!」


二つ目も外れた。

その間に、寝ぐらの奥から足音が近づいてくる。


一つ、二つ、三つどころじゃない。


しずくは銀盾を構え直し、小部屋の入口へ立つ。

ロングソードを低く。

マジックブロウの魔力が、じわりと刃をなぞる。


ミコトがその後ろへ寄る。

男二人は、ようやく状況を理解したのか、顔を青くしていた。


「ご、ゴブリンが…来る…」


「当たり前でしょ!」


ほのかが吐き捨てるように言う。


それから、しずくを見る。


「しずく! 一回ここで止める!」


「…うん!」


「ミコトちゃん、後ろから足止め系! 狭いからまとめていけるはず!」


「はい!」


「男二人は自力で立って! 今度は本当に見捨てるよ!」


その言い方に、男たちは何も言い返せなかった。

寝ぐらの通路の奥、暗がりの向こうに赤い目がいくつも灯る。


ゴブリンたちだ。

小部屋の入口へ、怒り狂ったように押し寄せてくる。


しずくは、小さく息を吸った。

狭い…でも、狭いなら塞げる。


「…ここ、通さない」


銀盾を前へ、ロングソードを構える。

ほのかが機弩をリロードし、備える。

ミコトの指先に魔力が集まる。


そして、ゴブリンたちの先頭が、暗がりから飛び出してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ