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第103話 蒼機弩ザリガリオン

ザリガニの巨体が、光の粒子になって消えていく。

灰色の甲殻も、巨大な鋏も、池から這い出てきた門番のような威圧感も、少しずつほどけて夜空へ溶けていった。


あとに残ったのは、大きな魔石。

それから、ザリガニの鋏や甲殻片のような素材。


そして、もう一つ。

メタリックな蒼い光沢を放つ、見慣れない軽機弩だった。


「出た」


ほのかが、真っ先に反応した。

さっきまで肩で息をしていたのに、武器を見た瞬間に目の色が変わっている。


「これ、絶対ローグライクドロップだよね?」


しずくが近づくと、やはりシステムウィンドウが開いた。


【ローグライクドロップ:蒼機弩 ザリガリオン】


ザリガニの鋏の形状を模した軽機弩。

銃身が鋏のように二本に分かれており、発射時にガシャガシャと可動するギミック付き。

内部で弾丸を魔力により変質させる効果がある。

この機弩から放たれる弾丸は、必ず特殊な水冷弾となり、さらに貫通効果を持つ。

イメージとしては、圧縮した水弾が高速で射出されるものと思えばよい。


強靭な甲殻素材で作られているため、反動軽減能力が高い。

また、レバー切り替えにより特殊弾【ハサミ弾】を放つことができる。

ハサミ弾は使用者の魔力を消費して精製され、着弾した箇所を切断する効果がある。


パーツごとに分離が容易であり、ばらせば携行性も悪くない。

慣れれば、瞬時に組み立てることができる。


三人は、しばらく無言でその説明を読んだ。

沈黙を破り、最初に声を出したのはほのかだった。


「…ザリガリオン」


妙な間があった。


「名前、ちょっとふざけてない?」


しずくも小さく頷いた。


「…ザリガニ、だから?」


「いや、わかるよ。わかるけどさ。なんかこう、もう少し格好つける方向なかった?」


「でも、蒼機弩は格好いいです」


ミコトは顎に手を当て、満更でもなさそうな声を出した。


「蒼機弩ザリガリオン…うん。フルで言うと、ちょっとありかも」


「…ありなんだ」


ほのかはしゃがみ込み、その軽機弩を手に取る。


見た目はかなり独特だった。


全体は蒼みがかった金属光沢。

銃身は二本に分かれていて、たしかにザリガニの鋏を模している。

持ち手の近くには小さなレバーがあり、おそらく通常弾とハサミ弾を切り替える機構なのだろう。


試しに構えてみると、見た目よりずっと手に馴染んだ。


「…軽い」


ほのかが、少し驚いたように自然に呟いていた。


「いや、軽いっていうか、重さの割に構えやすい。これ、反動軽減かなり強いと思う」


ミコトも横から覗き込む。


「水冷弾に貫通効果、三層の敵が柔らかい皮膚を持つカエルもどきなら、かなり有効かもしれませんね」


「しかもハサミ弾ってのがいいよね、強そうだし」


そう言いながら、ほのかがレバーを軽く動かす。

機械音と共に、銃身がわずかに開閉した。


「うわ、ほんとに鋏みたいに動く」


コメント欄も一気に盛り上がりを見せた。


『ザリガリオンwww』

『名前好き』

『ギミック武器きた!』

『水冷弾+貫通は普通に強い』

『ほのか用じゃん』

『ハサミ弾やばそう』

『ザリガニ倒してザリガニ武器ドロップするのローグライク感ある』

『銃身ガシャガシャするの絶対ロマン枠』

『ザリガリオン、声に出したくなる日本語』


ほのかはコメントを見て、少しだけ得意げに笑った。


「視聴者も分かってるね。これはロマンある」


「実用性も高いと思いますよ」


いつもは冷静なミコトの声が、少しだけ高い。


「通常弾が自動で水冷弾に変質するなら、弾薬の種類に左右されません。水属性寄りの攻撃になるなら、火に弱い敵にも使えるかもしれませんし、貫通効果があるなら硬い外殻の隙間を通すこともできます」


「さっきこれが欲しかったよ」


ほのかがしみじみと言った。


「巨大ザリガニ戦でザリガリオンが落ちるなら、巨大ザリガニ戦前にザリガリオンをください」


「…それは、ローグライクだから」


しずくが言うと、ほのかは深く頷いた。


「理不尽も含めてローグライク」


しずくは、ザリガリオンを見つめた。

これは明らかに、ほのか向きの武器だ。


射撃武器である軽機弩。

貫通効果と特殊弾、携行性も悪くない。


しずく自身が使うより、ほのかに持ってもらった方が間違いなく強い。


「…ほのか、使う?」


「使いたい!」


即答だったが、ほのかは少しだけ遠慮するようにしずくを見る。


「でも、ローグライクドロップだよね。ロック枠、大丈夫?」


しずくは少し考えた。

ロック枠は五つ。


銀盾、銀兎ジャケット、踊り子の双剣、大鋏剣。

そして、このザリガリオン。


「…ぎりぎり」


「ほんとに?」


「うん」


しずくはシステムウィンドウを開き、ロック枠を確認した。

残りは一つ、迷う必要はない。


「ロックする」


【蒼機弩 ザリガリオンをロックしました】


表示が出ると、ほのかの顔がぱっと明るくなった。


「ありがとう、しずく!」


「…使うのは、ほのかだから」


「うん。大事に使う」


ほのかはザリガリオンを軽く構え、それから説明通りに一部パーツを外してみた。

意外なほど簡単に分解できる。

鋏型の銃身部分、魔力変質機構らしき中央部、グリップとストック。


「おお…」


ほのかの目が輝く。


「これ、慣れたら本当に一瞬で組めるかも」


ミコトが少しだけ微笑んだ。


「神宮さん、こういうギミック武器好きそうですね」


「好き!」


迷いのない声。


「こういう意味わかんないけど実用性ある武器、すごく好き」


「意味わかんないは、褒め言葉なんですか?」


「探索者装備ではだいたい褒め言葉」


「…そうなんですか」


ミコトは少しだけ納得しきれていない顔をした。


しずくは、大きな魔石と素材を回収しながら、もう一度礼拝堂の方を見た。

巨大ザリガニを倒し、道は開いた。

けれど、まだ礼拝堂の中には入っていない。


入口でこれだ、中には何が待っているのか。


星明かりの庭園は、戦いが終わったあとも静かだった。

池の水面はまた穏やかになり、左手の白い花畑では、風もないのに花びらが少しだけ揺れている。


ミコトが杖を握り直した。


「魔力の流れは、今のところ大きな異常なしです。ただ…礼拝堂の方から、かなり濃い魔力を感じます」


ほのかも、ザリガリオンを組み直しながら頷く。


「じゃあ、ここからが本番かぁ」


コメント欄も、さっきまでの武器ドロップの盛り上がりから、少しずつ緊張へ戻っていく。


『礼拝堂まだ入ってないんだよな』

『初手ザリガニでこれか』

『ザリガリオンは熱いけど、無理するなよ』

『三層、雰囲気怖すぎる』

『白い花畑が逆に不気味』

『月ない夜空ってのも気になる』

『入口でこれなら中どうなってんの』


しずくは、修理された銀兎ジャケットの前を軽く押さえた。


大丈夫、そう自分に言い聞かせる。


傷は塞がっている。

装備もあるし、仲間もいる。


それでも、無理はしない。

今日は初回偵察だ。


しずくは大鋏剣を背負い直し、銀盾を構えた。


「…行こう」


ほのかが、ザリガリオンを肩に担ぐようにして笑った。


「うん。新武器の試し撃ちもしたいしね」


「試し撃ちは、安全な状況でお願いします」


ミコトがすぐ釘を刺す。


「わかってるって」


「本当ですか?」


「八割くらい」


「十割でお願いします」


しずくは、少しだけ笑った。

そのやり取りのおかげで、少しだけ緊張がほぐれる。


三人は、巨大ザリガニが消えた道を進んだ。

星々の光に照らされた庭園の奥、厳な礼拝堂の扉が静かに三人を待っていた。

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