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3-3

三月上旬の、空が薄暗く曇って肌寒い日曜日のことだった。彼女と僕は横浜にやってきていた。


 中華街でランチをし、大桟橋、山下公園を散策して赤レンガ倉庫を観光した。それからみなとみらいの遊園地で、観覧車に乗った。


 観覧車のゴンドラの窓からは、横浜の港が見渡せた。海を埋め立てて出来たことが明白に分かる、コンクリートでできた人工的で直線的な海岸。そこに泊まっている巨大な客船。その左手に、曇り空を反射した鈍色の海が広がり、その先にベイブリッジが見える。窓の真下に目を転じると、遊園地のジェットコースターのレールが、腸のようにぐるぐると渦巻いている。


 彼女はそれらの景色に子供のようにはしゃぎかけ、しかし僕の見ている手前恥ずかしいのか、自分を抑え顔だけ上気させて、うれしそうに窓の外を眺めている。僕は風景よりそんな彼女を観ているほうが楽しく、向かいに座った彼女を見つめて、乗っているゴンドラが頂点のあたりに来た頃、ふっと、言ってしまおうかと唐突に思った。


「あのさ」


「はい?」


 彼女は僕に横顔を向けて窓の外の風景を見たまま、返事だけした。


「奥さんと別れようと思うんだ」


驚いて、反射的にこちらを向いた。鳩が豆鉄砲を食らったような、というのはこんなのを言うんだろうな、という顔をしていた。


「今度、話してみる。だから、離婚したら、改めて俺と付き合ってくれないかな。結婚を前提に」


 彼女は驚いた顔をしたまま僕の言うことを聞いていたが、やがて花開くように笑顔になって、両頬にえくぼを浮かべ、


「はい」


少し震えた声で言った。


 その時、空から小さな雨粒が一粒落ちてきて、僕たちの乗るゴンドラの窓に、音も無く落ちた。一滴落ちると、続いて二滴、三滴と窓を濡らし、それに気づいた僕は、思わず、


「雨だ」


彼女も雨に気づいたらしく、


「本当ですね。傘、持ってこなかったなあ。・・・せっかくこんな、いい時なのに。タイミング悪い」


そう言いながら、窓についた雨粒に触れるかのように、窓の内側から雨粒のところを指でなぜるのだった。


 僕はせっかくの彼女への告白を、天気に邪魔されたような気がして、少し嫌な気分になって外を見た。雨はだんだん強くなるようだった。その雨を降らせるどんよりとした曇り空が、どこか不吉に僕たちを見下ろしていた。

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