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今年の営業成績を総括する営業会議の間じゅう、僕は会議室の壁にかかった時計ばかりを気にしていた。九時半から始まった会議は、荻野目という新人の営業成績の悪さとその発表のたどたどしさを、他の営業マン達が延々と締め上げたため予想以上に長引き、十一時を回っていた。
待っています。夢じゃなく、現実で――。そう彼女が約束した、翌週の火曜日だった。
あの夢以来、彼女は夢に出てきていなかったが、あの夢の中で彼女がした約束は、僕の頭に明確にこびりついていた。夢に出てくる女に現実で会うなど、ありえないことだと思う一方で、もし万が一、彼女が新宿駅で本当に待っていたら、一度でいいから会いたい、と、僕は思わずにはいられなかった。
十一時半過ぎになって、ようやく会議は終わった。僕たち営業マンは会議室を出て、自分たちのデスクに着いた。僕はパソコンを立ち上げた。しかし立ち上げただけで何をするわけでもなく、ただパソコンの画面の右下に表示されている時計が進んで行くのに、釘付けになっていた。時計は少しずつ、しかし着実に進んでいく。会社から新宿駅までは、約十分。今ならまだ、約束に間に合う。
僕は意を決し、パソコンをロックして閉じ、立ちあがった。
「ちょっと・・・」
周りで働いている営業マンや営業事務員にそう呟き、歩き出そうとすると、
「飯っすか?俺もいいですか?」
上原という、いかにも営業向きなひとなつっこい性格をした四年目の営業マンが、間髪入れず声をかけてきた。
「いや、何・・・飯食いながら、ちょっと予算のことを考えたいから、また今度な」
「そうなんすか?わかりました」
なんとか上原の誘いを断ると、そう言った手前、食事をする店でいかにも仕事をしそうに見せかけるため、鞄を持ってオフィスを出た。
(あの夢が妄想だってことを、確認するだけだ。そう、ちょっと見てみるだけだ、自分がまともだってことを確認するために)そんなことを心の中で呟きながら、新宿駅まで早足で歩いた。
人人人・・・新宿駅は人であふれかえっていた。巨大な迷路のような駅構内を縫い歩き、中央東口改札へ向かう。改札の前に着いた。僕は立ち止まって、ぐるりと辺りを見渡した。すると、改札の真ん前にある太く四角い柱に寄りかかるようにして、彼女が、人ごみの中すらりと立っていた。




