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彼女の夢はそれで終わりではなかった。その日の夜から、彼女が僕のマンションにやって来る夢を、僕は再び見るようになったのである。それはやはり彼女がアパートでテレビを観ているところから始まった。
彼女が一人ソファに座ってテレビを観ていると、
ピンポン
とインターホンが鳴る。彼女はそれに応対するため玄関へ向かう。部屋へ戻ってくると、小ぶりなダンボール箱を脇に抱えていた。彼女はその箱をソファの前のテーブルに置いた。それを開けると、緩衝材に包まれた、金具のついた木の板のようなものが現れた。どうやら工具のカンナのようである。宅配便で頼んでいたらしい。
彼女はカンナを包装していたダンボール箱と緩衝材を片付けてしまうと、クローゼットから大きめのショルダーバッグを取り出した。それから台所へ行ったり部屋の物入れを漁ったりして、包丁と結束バンドを数本取り出して、カンナと一緒にショルダーバッグへ詰め込んだ。そうして荷造りが済んでしまうと、テレビを消してアパートを出た。
それから先は僕が前の週に毎日連続して見た夢の内容と、ほとんど同じである。彼女はアパートから高円寺駅へ向かい、電車を乗り継いで僕のマンションまでやって来た。その、彼女がアパートでテレビを観ていたところから、僕のマンションへやって来るところまでを、僕は水曜日の夜から翌週の月曜日の夜まで、六分割して夢に見たのである。
再び火曜日の夜がやってきた。その日の夢は、前の週の火曜日と同じく、僕のマンションのリビングへ舞台を移した。僕は菜奈と夕食をとっている。するとインターホンが鳴る。「はあい」菜奈がのん気に声をあげてインターホンに出る。そうして今回は僕を呼ばずに自分で玄関へ向かった。夢の中の僕は何も不審がらずに食事を続けている。すると、
「きゃあああっ」
菜奈の叫び声が聞こえてきた。僕はぎくりとし、慌てて玄関へ向かった。すると玄関口に彼女がいて、包丁をこちらに向けていた。その手前に、その彼女の姿を見て立ちすくんでいる菜奈の背中が見える。彼女は息を荒らげて、キッと僕と菜奈を睨みつけていた。
それから数分後、僕と菜奈は彼女に脅されて結束バンドで両手両脚を縛られ、菜奈はテーブルの椅子に座らされ、僕はなぜかトランクス一枚でソファに仰向けに寝かせられていた。
僕たちを縛り上げると、彼女はショルダーバッグに包丁をしまい、カンナを取り出した。そしてバッグはテーブルの上に置き、右手にカンナだけ持って僕のそばまでやってきた。そうして僕の顔を見下ろすと、
「いっぱい、あると思うんですよ。人間の体に、カンナをかけるところって。だからいいなと思って、カンナ、三千円で買ったんです。いいでしょう?本当、ごめんなさい、奥さんにも悪いと思ってます、でももう、こうでもする他・・・どうしようもないんです、気持ちが」
と言った。僕は恐怖に震えながら、
「何を言ってるのか、よくわからないな。とにかく、こんなことやめてくれ。やめよう。ね?今なら、警察に言ったりしないで済ませるからさ。とにかく話し合おう・・・」
と、彼女を説得しようとした。
「話し合おう?」
彼女は僕の言葉尻を捕らえて鋭く言った。
「話し合おう、って?あなたの方が、もう話すことはないって感じで、一方的に電話切ったんじゃないですか。もういい、もういいです」
そう早口でまくしたてながら、ソファのそばにしゃがみこみ、僕の左の太ももの付け根に、カンナを押し当ててきた。カンナの刃の冷たさが、僕の太ももに伝わった。
「ちょっと、え?何するん・・・」
僕がそう言うと、彼女は、
「一回目、ほおおおおうら!」
と叫び、出しぬけに僕の太ももの付け根から膝頭まで、一気にカンナをかけた。しゅーっ、と気持ちのいい音がした。毛の並んだ僕の太ももの皮が、ぴゅるるるる、と薄くスライスされてカンナの穴から出てきた。皮はカンナの穴から出ると、すぐにカツオ節のようにくるくると丸まった。太ももの、皮が剥がれた部分は、一瞬ハムのようなピンク色をしていたが、すぐ血が滲んで赤に染まった。鋭い、激しい痛みがその部分を襲った。
「ぎゃああああっ」
たまらず僕は叫んだ。
「友紀斗おおおお」
菜奈の叫び声も聞こえてきた。




