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5-2

そして火曜日の夜である。その日の夢は、それまでとは一転して彼女に視点を置かず、僕のマンションのリビングが舞台で、テーブルに座って夕食をとる僕自身の中にちゃんと意識があった。


僕の向かいには菜奈がいて、彼女がパートとして働く歯科クリニックでその日起きたことをかまびすしく話してくる。菜奈の話が、ミカちゃんという同僚の歯科衛生士の仕事のできなさぶりへの文句から、その日虫歯の治療に来た老人の患者の口臭についての愚痴に移った時、インターホンが鳴った。


「はあい」


 その返事がインターホンを鳴らした客に聞こえるはずもないのに、菜奈は機嫌よくそう声をあげると、席を立った。そしてインターホンの室内機のそばまで行き、それを注視すると、僕に、


「あれえ?友紀斗、オートロック鳴らなかったよねえ?」


とけげんそうに声をかけてきた。僕は「ああ」と気の無い返事を返した。菜奈は「まあいいや」と小さく呟き、とりあえずインターホンの通話ボタンを押した。


「はい」


「・・・・、・・・・」


「はい、はい」


 菜奈と、女性の訪問客のやり取りする声が聞こえる。


「友紀斗、お客さん。会社の人だって」


「ええ?」


会社の人、という言葉に僕は驚きと、既に発泡酒を飲んでしまったことへの気まずさを覚えながら、玄関へ向かった。


 テーブルの椅子にかけていたスーツのジャケットを羽織って、玄関の扉を開けた。すると、そこには青白い顔をした彼女が立っていた。


「ちょっと、あれ?どうしたの?」


 僕は驚き、また、菜奈に見られたらまずいという思いが、アルコールで火照った頭に一瞬で渦巻いた。


僕はドアを完全に開いて、混乱したまま、とにかくしゃべった。


「何か用?ていうか、どうしてここが分かったの?あれ?住所、教えてないよね」


玄関から聞こえる僕の声を不審に思ったのか、菜奈が僕の後ろにやってきて、「友紀斗?」と不安そうな声をあげた。僕は菜奈が来たことによって一気に焦り、


「ああ、なんでもない、ちょっと用があるみたいで」


一瞬菜奈を振り返り、そうわけの分からないことを言い、再び彼女のほうを向いた。そうしてどういうわけか怒りを帯びた口調になって、


「あのさあ、どうしてきたの?こういうの、困るって言ったよね?もう、俺たち、終わったんだよ」


と彼女に言った。


彼女はその時、何を考えているのか分からない、力のないぼんやりとした目で僕を見つめていた。そうして左手に持ったハンドバッグの口をその細長い指をした右手で開け、中からすらりと包丁を抜いた。包丁の切っ先を僕に向けると、そのまま一歩前に出て、体を僕に密着させながら、僕のわき腹を刺した。くちゃっという、肉が裂ける小さな音がした。


「あっ」


 僕の口から小さく声が漏れた。彼女は一瞬そのままの体勢で止まったが、次の瞬間、激しく右手を前後させて僕の腹を何回も何回も刺し始めた。


「うわああああああっ」


 刺しながら彼女は叫んだ。包丁が肉に刺さる音がする。くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃっ。


「ぎゃあああああああ」


僕も叫んだ。真っ赤な血が切り口から溢れ出て玄関の床に滴った。


「きゃああああっ、友紀斗おおおお」


菜奈の声も響き渡った。

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