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第八話

 山を下りながら、ユキさんに道を案内してもらった。


「この先に行けば参拝道に戻るわ」


 ユキさんが指した先には第二の鍵で開く大きな門がそびえたっていた。この門も、私が報告書を出して事が収まればいずれ撤去されるのだろう。


 私はここまで案内してくれたユキさんにお礼を言った。


「構わないわ。落ちたのは私のせいでもあるし……そういえば、さっきあなたの後ろにいた人はどうするの?」


 ユキさんが聞いているのは、おそらく町田前くんのことだろう。


 緊急用の信号弾を上空に放てばきっと見つかると思うが、すぐに町田前くんの声が聞こえた。


「種浦さーーん!!!ご無事ですかーー!!!」


 持ち味の大きな声が、山中に響く。


「ユキさん、あなたが良ければ、彼のことは許してほしい。人は正体不明なものに対して恐れをいだく。彼はそれを少しでも解消したいだけらしいんだ」


「……それはいいけれど」


 ユキさんは何回か瞬きをした。


「どうかしましたか?」


「……いえ、あなたって、息苦しそうね。あの人たちと私たち、双方の肩を持つのは大変でしょう?」


 ユキさんは困り眉をしながら微笑んだ。


 双方の肩を持っているつもりはないが、強く否定するほどでもなかった。


 人間にも怪異にも話せばわかる場合があるうちは、私は対話を求めようとは思っているのは確かだ。調べるのが私の仕事なのだから。


「私も、もう少し人間のことをちゃんと見ようと思うわ。あそこで叫んでいる人も含めてね」


「ぜひそうしてください。登山客があなたにお会いしたそうでしたよ」


「あぁ、あのお供え物……私も、ありがとうって伝えたいな」


「いいことだと思います」


 町田前くんのもとへ戻るため背を向けると、最後にユキさんが声をかけてきた。


「ねぇ、もう一つお願いしても良い?サクちゃんに伝えてほしいの。あなたたちもどうか幸せにって……都合が良いかもしれないけれど……」


「お安い御用ですよ」


 私はユキさんのお願いを聞き、町田前くんの声がする方へ向かった。


「申し訳ございませんでした!お怪我は!」


「まぁ、大した怪我はしてないよ」


 慌てている町田前くんに私は笑いながら答えた。


「しかし断り無く尾行するのは賢い行動とは思えないな」


「それは……怪異が種浦さんを襲いかねないと思い……対応が間に合わなくなってからでは遅いと思ったので」


「危険な怪異かどうか調べるのが我々調査班の仕事だ。脅威への対応方法等は理解している、見くびられては困るな」


「見くびってなど!…………いえ、申し訳ございません」


 彼は少し感情的に声を荒げたが、歯切れ悪かった。暴走気味だった自覚はあるらしい。


「まぁ私も、もう少しその塩梅を君に伝えておけばよかったな。心配してくれてありがとう」


 私が町田前くんに告げると、彼は顔を上げた。強張っていた顔が少し緩くなったので良かった。


「それで、今回の件はいかがいたしましょうか」


「それなら大丈夫だ。やがて雪もやんで、入山制限も解禁されるだろう」


「……わかりました」


 私の言葉に町田前くんは納得してくれたようだ。


「あの方と話たんですね。ありがとうございます。それにしても、対話でおさめられたって凄いですね!」


 町田前くんが大げさに私のことを称賛するので、そんなことないと私は否定した。


 あとは私の仕事だ。調べたことをまとめ、上司に報告する。プライバシーを隠し、脅威なしと書けば良い。


 中西さんと再会後、そのまま解散となった。ちょうど小野寺から連絡があったのだ。私はその足で二人にイヤリングを届けることにした。


 驚いたのは、小野寺が私以上に服を汚していたことだ。なにがあったのか聞くと、小野寺は恥ずかしそうに答えた。


「いやぁ、もしかしたら湖の方で落としたのかもと思って探していたら……足を滑らせて落ちちまった」


「もう!怪我がなくてよかったわよ」


 怒っているサクさんに対し、小野寺は何度も謝っていた。彼に山で失くしたことを打ち明けなかったのは、正解だったろう。


 私はサクさんにイヤリングをわたした。


「凄いな!もう見つけたのか!」


「ユキさんと名乗る人が拾ってくれてました」


「ユキが?」


 聞き返したサクさんに、私は頷いた。


「やっぱり──」


 サクさんが小さな声でなにか呟いていたようだが、私や小野寺は聞き取れなかった。


「ユキ、怒っていましたか?」


 サクさんの問いに、私は首を横に振って答えた。


「あなたがユキさんの幸せを願ったように、ユキさんもお二人にお幸せにと言っていましたよ」

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