第九話
数日前の降雪がまるで嘘だったかのように、結婚式当日は晴れやかな空模様だった。
イヤリングを見つけたサクさんと小野寺は、止まっていた分を挽回するために急いで結婚式の準備を進めた。
そのおかげであの日以降、私は二人と会話できずにいたが、挙式が始まる前に、小野寺と話せる機会をもらった。
「無事に式を始められそうでよかったよ」
「あぁ……そうだな……」
ただ、小野寺は妙にそわついていたので、私はどうかしたのか尋ねた。
「ユキさんって人は来ているか」
「いや、さっき見た時点ではいなかったかな」
もとより、サクさんとユキさんは疎遠になっていた。確かに、式にユキさんが来てくれれば、サクさんは思い残すことなくこの街から去ることが出来るかもしれないが、会うことばかりが最善とは限らない。
ユキさんとしては、この前二人に伝えたメッセージがすべてだったのだろう。
私は小野寺に気にする必要はないと伝えた。小野寺も彼なりに飲み込んでくれたようだ。
「それに、イヤリングが見つかったんだ。それを大事にして、また時間があれば帰ってくれば良い」
「そうだな……そうだった。見つけてくれてありがとう」
「たまたまだ。この前言ったとおり、見つけてくれたのはユキさんだよ」
「そうだな。でも、それを届けてくれたのはお前だ。本当にありがとう」
小野寺は微笑みながら私に言った。
まもなく式が始まるので、私は小野寺の控室から出た。そのときも、ほんの少し浮かない顔をしていた。
自分の都合に合わせて街を出ていくことになったと思っていそうだな。気にする必要なんてないのに。
その後、新郎側に参加していた同窓生と会話しながら入場まで待った。
挙式は教会で行われた。教会なので中は白を基調とした色合いで、木の長椅子ひとつにつき三名、両側それぞれ三十名ほど座れそうな規模だった。
ゲストが全員座り、静かに待っていると、神父と司会進行が入場してきて、挙式が始まった。
挙式は問題なく進んだ。面白かった点は、しいて言うならば小野寺が緊張で身体が強張っていたところくらいだろうか。いや茶化すつもりはない。微笑ましいというような具合だ。二人はとても幸せそうだった。緊張しているところも含め、とても良い式だった。
挙式後、アフターのブーケトスや集合写真の撮影も終わり、皆が拍手をしながら二人にお祝いの言葉を投げた。
私も静かに拍手をしていると、両手に冷たい点が触れた。空を見上げたが、泳いでいる雲はわずかで、太陽は相変わらず私たちを見守っていた。
「雨……いや、霰か?」
おでこに冷たい感触が伝わった。私以外のゲストも気がついていた。
「ここ最近の天気を考えりゃあおかしくないか……」
「お狐様が見ているようで、縁起が良いわねぇ」
私の隣にいた、サクさんの親族らしき人が言った。それで私は狐の嫁入りを思い出した。
狐の嫁入りという怪異がある。夜に火の玉が見える現象と、今日見たいな晴れの日に雨が降る現象を指すのだが、全国的に伝わっているのと同時に、地方によって子細が異なる伝承だ。
「狐ヶ崎市では、結婚式やおめでたい式の日に天気雨が降ることを、お狐様からの祝言だと捉えているのよ」
サクさんの親族が説明してくれた。もしやと思い、周囲を見渡すと、教会外の雑木林に白い狐が一匹こちらを伺っていた。
サクさんに告げようとしたら、彼女の方が先に叫んだ。
「ユキイィィーーーーーーーーッッッ!!」
サクさんは白い狐に気が付いていない。空に向かって叫んでいた。
困惑しているゲストたちを置いて、サクさんは大声で叫ぶ。
「ありがとう!!私、絶対に幸せになるから!!」
サクさんは大声で誓った。隣にいた小野寺と共に、大粒の涙を流しながらだったが、晴れやかな顔をしていた。
サクさんの耳元には、二人の友情の証が、太陽の光を受けて輝いていた。
啝賀絡太です。
龍維伝の怪異や怪異人種という定義、舞台をもっと活かしたいと思い、種浦メイが生まれました。
種浦メイは怪異人種犯罪対策機関の本部調査員です。
本文も書いたとおり、彼は特別な遺伝もなければ、怪異に染められているわけでもない、普通の人間です。
もともと、プロトタイプの物語がありましたが、それよりも今回の話の方が筆が乗りやすそうだったので、試しに書いてみようと思いました。
プロトタイプの物語も、あらすじは気に入ってるのでいつか書きたいですね。
今回の話は「狐の嫁入り」から考えました。
僕の中で狐の嫁入りは、天気雨の別の呼び方ってイメージがありました。調べたら天気雨以外でも狐の嫁入りという場合があるようですね。
調べてる時に、茨城県龍ケ崎市にある女化神社を知り、また茨城県には雪女の逸話もあるようだったので、それなら雪女と狐の間に生まれた子をキーパーソンとしようと思いました。
その結果、元となった逸話や舞台はあまり活かせてないことになってしまいました……
今回の舞台は筑波山や牛久市、龍ヶ崎市が元となってましたが、それらもごちゃ混ぜにして狐ヶ崎市という架空の街になりました。
ただまぁ、実在する街である必要はなかったので、かえって架空の街にして良かったかもしれませんね。
考えるのは大変でしたが、楽しかったです。
また種浦メイくんの話が書きたいですね。その時はまたよろしくお願いします。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
また次の作品で。
啝賀絡太でした。




