第七話
ぽつりと呟いてしまったので、ユキさんに聞こえているかわからなかった。
ユキさんの顔をうかがうと、彼女は何度も瞬きしていた。
信じられない様子だったので、経緯を詳しく説明した方が良いのかもしれない。
「私が大学生のころ、同級生に怪異がいた。もちろん、誰も彼女が怪異ということには気がついてなかったし私もその一人だった」
正確には、怪異によって生まれた人間の子供だっただろうか。今となってはもう確かめる方法がない。文字通り跡形もなく消えてしまったのだから。
だがそんなことはどうでもよかった。私が彼女に恋をしていたことがなによりも大事な事実だった。
「怪異は私たちの文化を知らないのが普通だ。かといって、最初から敵視するのは間違いだと私は思っている」
「わかり合えるというの?」
「君とサクさんはできただろう?」
ユキさんは俯いてしまった。私はユキさんの言葉を待ち続けた。風が吹いてなかったので、寒さをあまり感じなかった。
「私だってそう思っていた……けどサクちゃんは私よりも、人間の男を選んだのよ」
俯いたまま、ユキさんは話し始めた。
「私だって、サクちゃんの事が大好きだった。見ての通り私は人間じゃない。雪女と化け狐の間に生まれたの。山で生活するよう言われていた私にとって、数少ない同年代の友達だったのよ。
初めて見た時からずっと大好きだった。一緒に遊んだらきっと楽しいと思って、彼女に似た姿に化けれるよう頑張ったし、サクちゃんと同じことをした。真似っこでも楽しかったの。
遠くの学校?に行くって聞いたときは寂しかったわ。高校というのはよくわからないけど、今までみたいにサクちゃんと一緒に遊べるわけじゃないってことはよくわかったから……だから、私を忘れてほしくなくてこれを作ったの」
ユキさんの手には、雪結晶のイヤリングがあり、彼女はそれをじっと見ていた。
「あなたはその片方をサクさんにわたしていましたね?」
「お互いが片方を持つ。そうすれば忘れずにいる。いいおまじないでしょう……最も、あの子はそれでも人間の男を取ったのだけれど」
随分と俗な言い方をするな……なんて思ったが、口には出さなかった。だが、やはり犯人は間違っていないようだ。
「やはりあなたがサクさんのイヤリングを盗ったのですね?」
「…………あの日、サクちゃんは神社にひとりで来た。大人になってたけど、ひと目見て私はあの子だと気がついた。話しかけるために表に出ようとしたとき、サクちゃんが願い事を言ったの。
『結婚してここを旅立つ私たちをどうか見守ってください。遠く離れたユキの事も幸せになりますように』って。
わたしは過去の存在になって、サクちゃんは遠く離れた場所へ引っ越す……そしたら、忘れ去られてしまうと思ったわ。
決別のためにあの子はイヤリングを持ってきたのでしょう?それならいっそ、思い出は私だけで抱えてれば良いと思った……」
「だから、サクさんの持っていた方のイヤリングを奪った」
私が確認のために聞くと、ユキさんはゆっくりと頷いた。イヤリングはおそらく風に奪わせたのだろう。
怒りに任せてた動機だったのかも知らないが、寂しさや悲しさを紛らわせるための自衛にも思えた。
「ただユキさん、あなたはひとつ勘違いをしています。サクさんはあなたと別れたくてイヤリングを持ってきたわけじゃない。あなたとの思い出を振り返りにイヤリングを持ってきていたんです」
私の言葉を聞いてユキさんが顔をあげた。
「サクさんの旦那さん……小野寺ユウヤが言っていました。そのイヤリングを失くしてから、サクさんは酷く落ち込んで、なにも手をつけられずにいたと。
私があなたを訪ねたのは、小野寺からサクさんのイヤリングを探すよう頼まれたからでもあるんです。あの二人はあなたの思い出とともに行くつもりでした」
私の言葉を聞いたユキさんは、思い直すように目を閉じた。
ユキさんは私に近づき、私の手にイヤリングの片方を握らせた。
「あの子にもう一度それを渡してちょうだい。勝手に奪っておいて、わがままなお願いでしょう。けれど……」
「サクさんには、あなたが見つけてくれたと伝えます。その方が都合が良い」
私の提案にユキさんはありがとうと一言返してくれた。




