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第二話

 昔、親友から貰った物だったようで、大事な時にはいつもつけていたらしい。


 勿論、結婚式でもそのイヤリングをつける予定だった。だがそれを紛失してしまい、彼女はひどく落ち込み、今は寝込んでしまっているそうだ。


「ドレスもイヤリングにあわせたものを借りる予定だったようでな……なんなら、式もどうでも良いと思ってしまっていそうなんだ」


 小野寺は両肘を立てて組んだ両手に額をあわせ、深いため息をついた。聞く限り、よほど思い入れのある物であるようだ。


「失くした場所に心当たりがないか、聞いてないのか?」


 私が聞くと、小野寺は首を横に振った。


「その日イヤリングを持ってどこかに出かけたそうだが、俺にはどうも話してくれん。探しに行こうとしたんだが、彼女が反対するんだ。一応、心当たりがある場所には行ったらしいが……」


 探しに行くと反対する……?


 大事なものならば、一緒に探してくれた方が良いのではないだろうか。それとも、行くのが危険な場所で失くした可能性があるとか……


 考えていると、ウェイトレスが飲み物を持ってきてくれた。


「そういえば、もうコーヒーをがぶ飲みしなくなったか?」


 小野寺がからかうように私に聞いた。


「もちろんだ……と言えればどんなに立派だったか。職業柄どうしても徹夜をしなければならない時があってな……あまり自身はないな」


「そうか、身体には気をつけろよ」


「あぁ、わかっている」


 私はテーブルに置かれたコーヒーを、ほんの少しだけ自分に近づけた。もう少し冷めてから飲むことにしよう。


「イヤリングか……小さな探し物になるなぁ」


「種浦さえ良ければ、明日の夕方、サクに会ってほしい。お前が探偵ってことを知れば、お前になら話してくれるかもしれない」


「そうだな……聞いてみることにしよう」


「ありがとう……!お前が親友で本当に良かった!」


「よせよ、そういうのはイヤリングが見つかってから言うもんだ」


「そ、そうだな……ははっ」


 恥ずかしそうに笑う小野寺は、どこか肩の荷が降りたようだった。


 彼は昔からこういうところがある。他人への感情移入が激しいというか、自分ごとに思いすぎるというか……まぁそれが小野寺の良いところでもあり、そんな小野寺に助けられた人もいた。


 私もその一人だ。だから今回の件はいわばその恩返しみたいなものだ。


 それから私たちは昔話に花を咲かせた。盛り上がっている時ほど時間は早く感じるもので、気がつけば外の景色が暗くなろうとしていた。


 気がつくと二時間ほど喋っていたらしい。私たちは店から出た。


「良い町だぜ、ここは」


 店を出たあと、小野寺がそんなことを言った。


「人同士がなるべく積極関わっていく。週末はクラブ活動が盛んだ。俺もそこで、同じ趣味の友達を作れた。犯罪も聞かないし、良い場所だよ」


 小野寺はしみじみと語った。


 人と関わるから縁ができて、悪い事への抑止力となっているのだろうか。


「狐の像がたまにあるな。駅で見かけたポスターのマスコットも狐モチーフだし、そもそも名前も狐ヶ崎市だったっけ」


「昔、人間の男性と狐の女性が結ばれた地だったそうだ。あの山も、狐山と言われてる」


 小野寺が示した方角に、山が聳え立っていた。3月下旬にも関わらずその山は白かった。


「ついこの間、雪が溶けたんだが、五日前からあの山だけ雪が降り出してな。立入禁止になったよ」


「……そう、か。あの山には神社もあっただろう。少し気になってたんだが……」


「神社は比較的低い位置にあるが、麓の入口から閉鎖されてるから、今回は諦めるんだな」


「そうだな……残念だ」


 わたしはぼそりと呟いた。


 しかし小野寺には言えないが、私は明日、狐山へ行くことになっている。理由はまさに、小野寺が言った件だ。


 春を迎えた直後の狐山に、局所的な降雪が続いた。その原因を調査するのが、今回、私に任された仕事だった。


「あの神社にいるお狐様が怒ってるんじゃないかとか、あそこにいる雪女がなにか嘆いていてるんじゃないかって言ってる人がいたな」


「小野寺はどう思う?本当だと思うか」


「えぇー……わからんなぁ。種浦はどうだ?」


「そうだな。私はそうなのかもしれないと思うよ」


「へぇ……そういうの信じるタチだったか?」


「まあな」


 私が答えた時、ちょうど私が泊まるホテルが見えてきたので、小野寺とは解散になった。


 小野寺と別れたあと、私は再び狐山を見た。


 幽霊や、オカルト、都市伝説、妖怪。


 あらゆる事に置いて人智をもって証明をする事が出来ない事象を「怪異」と括られるようになった。


 そう、奴らは存在する。いつからだったか、一般人の知らないところで、怪異は一般人を脅かすようになった。


 そして、怪異に染められた人間が現れるようになり、彼らを「怪異人種」と呼ぶようになった。


 怪異人種といっても、普通の人間のように暮らす者もいれば、私欲を満たすために暴れる奴もいる。なかには犯罪行為をする輩も……


 そんな怪異や怪異人種たちから人々を守る為に、この日本国では怪異人種犯罪対策機関(通称イビト隊)という組織が設立された。


 イビト隊本部調査隊調査員。それが私の本当の現職。


 私が狐ヶ崎市に来たもう一つの理由。


 それは、怪異や怪異人種が存在する疑いがある狐山に行き、調査することだった。


 もちろん、小野寺たちに明かすつもりはない。

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