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第一話

この物語はフィクションです。

 古くからの親友だった小野寺ユウヤから結婚式の招待を受けた私は、東京駅から約一時間列車に乗り、茨城県狐ヶ崎市に降り立った。


 小野寺とは小学校から高校までずっと同じ学校に通っていた。いわゆる腐れ縁というやつだった。


 高校卒業後はお互い別々の進路を歩んだため、疎遠になっていたが、そんな彼から結婚の話があった。


 めでたい話だったが、それと同時に相談したいことがあると神妙に言われた。


 狐ヶ崎駅の改札を抜けると、彼は入口の柱に寄りかかっていた。小野寺は私に気がつくと、笑顔で私の名前を呼んだ。


「種浦!久しぶりだなぁ、元気だったか?」


 小野寺は私に近寄り、肩を優しくたたきながら、ここまで来たことを労わってくれた。


 朗らかな顔だったが、目の下にはクマが見えた。


「ぼちぼちかな。君のほうこそ、結婚おめでとう。今は大変な時期なんじゃないかい?」


 私の問いに対し、小野寺はぎこちなく苦笑いをした。


「そうだな……来てもらって早々悪いんだが、話を聞いてくれるか?」


「他ならぬ君の頼みだ。もちろん聞くとも」


 彼のお願いに私は即答した。


 小野寺は今度こそ笑って私に礼を言った。


 結婚式が行われる一週間前、私が狐ヶ崎市へ早くに来た理由は二つある。そのうちの一つが小野寺からの相談だった。


 話は小野寺が知っている喫茶店で聞くことにした。狐の像が並ぶ通りを歩きながら、私たちは互いの近況を話すことにした。


 高校を卒業後、私は大学へ進学したが、小野寺はエンジニア職に就いた。


 とても忙しい日々だったが、少しずつ実力やキャリアを積み上げたらしい。海外への出張も何度かあったようだ。


「けれど、どうも今の職場は合わない……というより、なんか限界を感じてなぁ……やれることをやったような気がしたんだ。それで昔、世話になった先輩が立ち上げた会社で頑張る事にした」


「転職か……場所は今から近いのかい?」


「兵庫だ」


「兵庫!そりゃ遠いな」


「そうか?国内だからまだマシだろ」


「それもそうか」


 私は彼の言葉に納得した。確かに、海外に行くよりは大変じゃない。


 さて、順当にいけば、ここで私の近況を答える番になるわけだが、ちょうど目的のお店に到着したので一時中断となった。


 ランチタイムを過ぎた時間帯だったからか、店内には新聞を読む老人とパソコンをさわるスーツ姿の男性しかいなくて、ほかは空席だった。


 店員に四人用のソファ席を案内された私たちは、お互いが向かいあうように座った。


 ひと息ついて、私はブラックコーヒーを、小野寺はカフェラテを注文した。


「さて、次は種浦の番だぜ」


 店員が去ったあと、小野寺がおしぼりに手をつけながら言ってきた。


「最近どうなんだ?大学に行って、それから就職したところまでは覚えてるが……確か、どこかの雑誌のライターとかじゃなかったか?」


「あぁ、そこは辞めた」


「あら。そうだったの。それじゃあ今は?」


 当然、小野寺は気になるわけだが、私はどうも出し渋ってしまった。子供の頃、私たちが思い描いていた普通とは異なる仕事をしてるからだ。それも、なかなか答えるのが難しい。


 適切な例えがないか、思案を巡らせた。


「そうだな……困ってる物事があるとして、それの原因となる人や場所を調べて報告するような仕事をしているよ」


「探偵ってことか?」


「あぁ、そうだね。探偵かも」


 小野寺が提示した職名がわたしの中で容易く浸透していった。推理なんてしないのだが、調査するという仕事だけでいうなら、間違ってはいないだろう。


「それなら、俺の相談も別に大したものではないだろうな。相談したかったことは、俺の奥さんのことなんだ」


 小野寺はそれから、ゆっくりと話し始めた。私はテーブルに乗り出し、彼の話を聞いた。


 小野寺の奥さんになる彩花雨サクさんとは、この町に引っ越してから出会ったらしい。


 小野寺が成人してから趣味になったランニングで、毎週同じコースで出会っていたのがキッカケだったという。


「急に同じ場所で会うようになったから、最初はストーカーだと思ったらしい。初めて声かけられた時のことはまだ覚えてるよ……彼女、臆するどころか『なんすか?アタシに何かあるんすか?』って、ガンをつけてきやがった」


 小野寺はそれを微笑えみながら話していた。


 そんな顔をしながら振り返るものなのだろうかと思ったが、彼にとって当時を振り返るときに最も相応しい気持ちなのだろう。


 誤解をといた小野寺はサクさんと友人になったそうだ。それから一緒に走ったり、またある時は観光に連れて行ってもらったりもしたそうだ。そうしていくうちに、二人は親密な関係になり、交際することになった。


「一緒にいて心地いいと思った。そんなとき、会社の先輩からスカウトされた。さっきも言ったとおり、兵庫に引越すことになるが、俺はサクと離れたくなかった」


「それでプロポーズをしたんだな」


「あぁ、初めて会話をした場所で、いつも通りのランニングをした後、指輪を渡したよ。もっとエモくしろよと怒られたが、サクは指輪を受け取ってくれたよ」


 小野寺は少し照れくさそうに、けれど幸せそうに語っていた。


 その後も互いの両親に挨拶しに行き、結婚を認めてもらい、引っ越す準備と共に、狐ヶ崎で式を挙げる準備を進めていったそうだ。


「問題が起きたのは、今から五日前の出来事だ」


 小野寺は重苦しそうに話し始めた。


 五日前、サクさんが出かけた先でお気に入りのイヤリングを失くしてしまった。

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