3-11.一属性の限界
ゼノンとリゼの猛攻が始まった。ゼノンが放つ「炎弾」と、リゼが放つ「水弾」が交互に襲い来る。
「カイ、私の後ろへ!――龍風・壁!」
レーナが弓を引き絞ると、二人の周囲に激しく渦巻く風の結界が展開され、火と水の弾丸を外側へと弾き飛ばしていく。
「ふん、守るだけならいくらでもできるか。だが、属性複合を扱えるのはリゼだけではないぞ」
ゼノンが右腕のガントレット型のアストラル『ブレイズ・ナックル』を構え、その奥底からどす黒い魔力を噴出させた。レーナは直感的に最大級の攻撃が来ることを理解する。
「龍風・集……」
周囲の風がレーナのアストラル『アークイラ』に集まり始める。レーナもまた自分の最大の風魔法で対抗しようとしていた。
「――爆風掌!」
その声とともにゼノンが空を殴りつけると、その拳から「炎」と「風」が混ざり合った巨大な爆炎の塊が射出される。
「――龍風・破!!」
レーナもアークイラに集約した魔法を解放する。
レーナが解き放った白銀の旋風が、迫りくる爆炎と真っ向から衝突し、闘技場を震わせる轟音と共に相殺された。観客席にもその衝撃波は伝わり、観ているものの背中をビリビリとしびれさせた。
――――――
「……驚いた。単一属性で、ここまでの出力を出すとはな。俺の爆炎掌が相殺されるとは思わなかった。」
ゼノンが次の一手へ移ろうとしたその時、背後にいたカイが、低く構えを変えた。
「……属性複合だか何だか知らねえが、俺の『炎』を忘れてんじゃねえぞ」
カイの全身から、これまでとは比較にならないほど高密度の魔力が溢れ出す。彼はひたすら、バケツに炎を詰め込むような地道な修練を繰り返してきた。その果てに辿り着いた、極限の密度。
「――圧壊炎!!」
放たれたのは、陽炎さえ生じさせないほどに収束された『蒼い炎』。それはカイ自身も意図しない程に精錬されたものだった。
「無駄よ!」
リゼが即座に再び『軟泥・壁』を展開する。破滅的な属性相性、本来ならば防ぎきれるはずだった。
しかし、その蒼炎がスライムの壁に触れた瞬間、それを蒸発させるどころか、物理的に焼き払って貫通した。
「なっ……!? スライムの壁が、焼かれた……!?」
「馬鹿な、属性相性を力業で上回ったというのか!」
想定外の威力に、ゼノンとリゼは驚愕する。蒼炎はゼノンを掠め、闘技場の外壁に巨大な焦げ跡を刻みつける。
「はぁ、はぁ……。くそ、コントロールがずれていなければ、今ので勝負あったはずなのに。」
肩で息をするカイ。あまりに集中力を要する高密度魔法に、カイの精神的疲労は一撃で限界を迎えていた。 ゼノンとリゼは冷や汗を拭い、表情を凍りつかせる。
「……認めよう、今の炎は脅威だった。だが、一属性をそこまで練り上げるには、あまりに燃費が悪すぎるようだな。」
ゼノンがリゼと視線を交わす。
「リゼ、終わらせるぞ!」
「ええ……もう反撃の余地は与えないわ!」
リゼが地面に両手を突き、レーナたちの至近距離に巨大な岩属性の防壁を急造した。
(壁……? 守りに入ったわけではなさそうだけど…)
レーナが訝しんだ瞬間、ゼノンがその岩壁に向けて、至近距離から「爆風」の魔力を叩き込んだ。
防衛のための壁を、攻撃の弾丸に変える連携。爆炎に押し出され、粉々に砕け散った超高速の岩石の破片が、回避不能の散弾となって二人を襲う。
「――爆流・破砕弾!」
「……っ、龍風が間に合わな……!」
広域に降り注ぐ、岩の質量と加速の爆流。多角的で不規則な軌道を描く破片を、レーナの風属性ではすべて弾き飛ばせない。
「レーナちゃん!!」
咄嗟にカイは、レーナを突き飛ばし、自らの体を盾にしてその破片を受け止める。
――パリンッ。 乾いた音とともに、カイのリミット・シールドが粉砕された。
『カイ・ランバートのバッジ破損。よって、ゼノン・リゼ組の勝利!』
「……あ……」
レーナは、地面に転がったカイのバッジの破片を、呆然と見つめていた。
「いい戦いだった。しかし悲しきかな、一属性では『限界』がある。そこまでの研鑽、工夫を積んで尚、他属性持ちの我々には届かないのだ。」
去り際のゼノンの言葉。カイが「蒼炎」という奇跡に近い一撃を見せてもなお、結果は変わらなかった。その事実が、レーナの心を深く、残酷に突き刺していた。




