3-10.属性複合(ミクスティア)
第一ブロックの第二試合、ユリアス・エミリアのデュオは危うげなく勝利を掴み取った。王者の貫禄を見せつけるその戦いぶりに観客が沸くなか、試合はスケジュール通りに進行していく。 そして、第二ブロック、カイとレーナの試合が告げられた。
「――続いて第二ブロック、第四試合。
カイ・ランバート 、レーナ・ メルフェルペア
ゼノン・ルフェイン、リゼ・ヴィセリアペア
入場。」
大きな歓声のなか、レーナは一歩ずつ踏み締めるように闘技場の土を踏んだ。この試合には、彼女の全人生がかかっている。
(……絶対に負けられない。ここで醜態を晒せば、家の言いなりになるしかないのだから)
対峙するゼノンは、不遜な笑みを浮かべていた。燃え残った灰を思わせる、赤茶けた髪を乱暴にかき上げ、琥珀色の鋭い瞳でこちらを値踏みするように見下ろしている。
「やあ、レーナ嬢。君の境遇は耳に入っているよ。優秀なメルフェル家の血筋でありながら一属性しか持たない『凡才の令嬢』だとね。よくぞここまで勝ち上がってきたものだ。実に涙ぐましい努力だね。」
その言葉にレーナは一瞬唇を噛みしめるが、すぐにゼノンを睨みつける。
「ご同情、痛み入ります。……それほど不憫に思ってくださるなら、是非その凡才が頂点へ至るための、輝かしい踏み台になっていただけますか? 先輩。」
ゼノンの煽りに対し、レーナは一歩も引かずに言い放った。その毅然とした態度に、ゼノンは一瞬呆気にとられた後、肩を揺らして笑い始めた。
「ははは! 面白い、実に面白いよ。……リゼ、聞いたかい? 俺たちを『輝かしい踏み台』にするそうだ。」
隣に立つリゼは、艶のない砂色の長髪を揺らし、その灰色の瞳に退屈そうな色を浮かべていた。彼女は鎖型のアストラルを指先で弄び、ジャラリ、と不気味な金属音をその場に響かせる。
「ええ、威勢がいいのは結構なことだわ。……問題はそれがいつまで持つか、だけど。」
一方、レーナの隣に立つカイは、静かに、しかし激しい怒りをその身に宿していた。自分のことならまだしも、デュオパートナーであるレーナを馬鹿にされたことが許せなかった。
(レーナちゃんを馬鹿にしやがって……こいつらだけは、絶対にぶっ飛ばす)
カイの右拳に、これまで以上の魔力が収束されていく。 そして、運命の戦いの火蓋が切って落とされた。
「試合、開始!」
「先手必勝だ! ――フレア・バースト!」
カイが吼え、右拳から爆発的な熱量の炎を放つ。しかし、その前にリゼが平然と立ち塞がり、鎖型のアストラル『アマルガム・チェーン』を振るった。
「魔力の放出量が多い。でも、いいところはそれだけね。
――軟泥・壁」
鎖の軌道に合わせて出現したのは、ドロドロとした粘性を持つ、水と岩を練り合わせた泥の壁だ。カイの炎はその壁に触れた瞬間、ジュウと音を立てて飲み込まれ、霧散した。
「なっ……俺の炎が、消された!?」
「ただの泥じゃない……何よ、今の魔法は!」
驚愕するカイとレーナに対し、リゼは口角を吊り上げる。
「『属性複合』よ。私の持つ属性『水』と『岩』を、体内で練り合わせてから一つの術式として放つの。単なる水の壁よりも熱に強く、岩の壁よりも柔軟。……まあ、一属性しか持たないあなたたちには理解できないかもしれないけど…」
そう言い放つリゼの灰色の瞳には、獲物を追い詰めた愉悦が宿っていた。
「単一の属性しか持たないあなたたちは、自分の無才を恨んで、大人しくここで沈みなさい。」
指先で弄ばれるアマルガム・チェーンは、まるで意思を持つ蛇のようにうねり、逃げ場を奪う威圧感でレーナを射竦めた。




