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永宮未完 下級探索者編  作者: タカセ
新人仮面剣劇師と海上劇場
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美少女風化け物と新たなる被害者

 地を強く蹴ったケイスは極端な前傾姿勢で身を低くしつつ、細かなステップで不規則に左右に飛び地を這うような軌跡を描き、ガナドの周囲を飛び回り隙をうかがう。


 対するガナドは不動。腰だめに構えた戦斧槌も微動だにせず、まとわりつく小蠅など意にも介さぬ。


 それは360°どの方向からどのタイミングで切り込もうと、いかなる体勢からかも確実にケイスを打ち落とすことが可能な万能不破の構え。


 あと半歩、いや髪の毛一本分でも踏みいればそこは死地。


 電光石火の雷撃のごとき戦斧か、それとも横殴りの槌による破砕の一撃か、はたまた柄頭による身体を貫くほどの突きか。


 卓越した才を持つケイスだから読める回避不能防御不能の無敵陣がそこには形成されている。


 強い。


 背筋が凍るような警戒感と共に感嘆を覚えケイスの心は弾む。


 攻め入れる隙は無し。かといって手が無いとこまねいているのはケイスの性に合わず。


 右手に掴む羽の剣を逆手に握り直しながら、身体をひねって隠した左手で腰ベルトから投擲ナイフを指の間に挟んで二本抜刀。



(邑源流双龍黒鶫!)



 ガナドの視界正面に降り立つと同時に、地面を擦るように腕を振り短剣を超低空で投擲。


 一対の矢をもって放つ邑源流弓術の無音高速技である黒鶫は、矢の周りを闘気で囲み、空気を切り裂くのでは無く、空気を押しのけ矢の向かう先に真空を産み出し撃ち出す高等技術。


 ケイスはその術理を投擲術に応用し、さらにケイス独自の異なる龍の闘気を乗せることで同時着弾時に石垣崩しとまではいかずとも、小規模な闘気爆発を起こす破壊技へと昇華させている。

 

 しかしこれはあくまで牽制。


 投擲から間髪入れず逆手に握った羽の剣の刀身をばね状に形状変化させ、地面に突き立てたわませて即座に解除。元の形に戻ろうとする爆発的な弾力を推進力へと。


 自らの脚力による微調整も併せて跳んだケイスは、投擲した投擲ナイフと寸分の狂いもない同速度を得てガナドの頭上から攻撃を仕掛ける。


 上下の角度をつけた一人三点同時攻撃という曲芸じみた攻撃を前にガナドが動く。


 ケイスでさえかろうじて目で追える超高速の戦斧の一降りが突き立つと同時に、地面が沸き立つように隆起。巨大な石壁が一瞬でケイスの眼前に発生し視界を塞ぐ。



(魔力反応無し。純粋な闘気技!)



 魔力を感知できないケイスの代わりに、周辺の熱量や魔力を常に警戒しているノエラレイドの警告から状況を把握。


 岩の破断予測を武具による一撃で自在に形状を操る、ドワーフ族固有攻防一体の闘技法によって生み出されたのは純粋な自然物。手持ちの対魔術武器による解除や対抗防御は無効。



(熱探査!)



 赤龍鱗により、石壁の向こう側で、凶悪的速度で膨大に上昇する熱量を探知。ガナドが空気が沸き立つほどの超速の一撃を壁に向かって叩きつけようとしていた。


 その予測威力は壁越しの貫通攻撃なんて生やさしい物では無い。


 巨大な石壁を一撃で砕き千の弾丸と変え、一つ一つが致命的な散弾をばらく千撃必殺の暴虐なる広範囲攻撃。


 壁を蹴って回避する余裕無し。


 羽の剣による重心変化による軌道変更をもっても半身がずたずたに切り裂かれる。


 こちらから先に壁を撃ち込む時間も無く、今の体勢からでは羽の剣の重量増加能力を持ってしても打ち負ける。


 ならば……


 轟音と共に石壁が砕け無数の石つぶてが、至近距離からケイスへと襲いかかる。


 羽の剣を突き出しつつ再度形状変化。今回は威力よりも速度重視。

 

 最も手近に迫った石礫を三つ羽の剣でつかみ取り、強靱な手首による返しと刹那の瞬間で行う再度の形状変化で飛来した速度を遙かに上回る速さで跳ね返す。



(邑源流轟風道!)



 暴虐に対抗するは暴虐。


 超音速で撃ちかえした3つの石礫が発生させた凶悪無比な超極所ダウンバーストが、周囲の石礫を吹き飛び飛散させ、その一部はガナドへと襲いかかる。


 激しい轟音をがなり立て石礫の破砕音が鳴り響く。


 しかし強固なドワーフ王の鎧にたいして、いくら速度を持とうが所詮はただの石ころ。この程度雨粒どころか埃がついた程度の物でしかなく、傷の一つもつけられない。


 鎧以上に健在なのはガナド当人。


 脆弱な生物ならば地面に縫い付けられ押しつぶされるほどの禍津風に晒されようとも、ドワーフ王の動きに迷いは見えず。


 風を吹き飛ばす強力な槌面を向けた振り払い攻撃を繰り出す。


 狙いはケイスの頭部。


 まともに受ければ叩きつぶすを通り越して頭が消し飛ぶ。


 羽の剣を迫る戦斧槌に打ち下ろすが、一瞬で押し負けはじき返されそうになる。


 だがそれは計算のうち。


 軽量化マントを発動させつつ、羽の剣を複数形状変化して戦斧槌に輪のように巻き付き固定すると同時に根元をくの字に折り曲げ跳ね上げる。


 身軽となったケイスの身体は羽の剣の跳ね上がりとガナドの一撃の勢いを喰らい、羽の剣を掴んだまま、戦斧槌の柄を中心点にしてぐるりと半回転する形で致命的な一撃をかろうじて回避。



(最大加重! 任せる!)



 逆さになる視界の中、ガナドを真正面に捉えたケイスはありったけの闘気を羽の剣に瞬時に撃ち込む。


 生み出した超重量が、戦斧槌もろともガナドの動きを僅かな時だが押さえつける。 


 羽の剣から手を放して、激しい勢いのまま両足で無理矢理に衝撃を殺して地面に着地。腰のポーチへ右手を突っ込み、十剣から刺突特化形状を抜刀。


 同時に左手で腰ベルトからも錐形状の刺突短剣を三本抜刀。


 今の装備では流れの中で繰り出す通常攻撃では、頑強なドワーフ王の鎧へダメージを与えるのは不可能。


 大技を用いれば可能だが、それを繰り出すほどの隙と時間を与えてくれる相手ではない。


 ならばその隙と時間は自ら生み出すのみ。


 熱探知で感じとった全身鎧の関節部の僅かな可動部分。そこへ楔を打ち込むように刺突剣を叩き込み動きを抑制。大技への時間を稼ぐ。


 微かな勝ち筋を見いだそうとするケイスだが、己の見通しの甘さに即座に気づかされる。


 ガナドが柄頭の一部を動かし戦斧槌の柄を引っ張り、刺斬兼用となった細身の隠し剣を抜刀。


 鞘となった戦斧槌を手放したガナドが攻撃態勢へとスムーズに移行する。


 関節部を正確に狙わなければならないケイスよりも、斬撃か刺突どちらも一撃必殺であろうガナドの方が遙かに早い。


 まともな攻撃は通用しない。遙かに格上の相手。


 ただ何もせず負けるのはケイスの流儀ではない。


 相手の虚を突く為の奥の手の変則技を即座に二つ選択。


 同時使用準備は初めてだがここは精神世界。ちょうど良い鍛錬だとケイスは気軽に覚悟を決める。


 精神が死を受け入れれば、現実と変わらず魂が死ぬというのに二つの奥の手を発動させる覚悟を決めたケイスは僅かに身体を動かした。










 一つ一つの攻撃を叩きつぶしながらも、わずか数手で隠し武器まで繰り出すことになったガナドは、敵対者に対してある種の憐憫を覚えていた。


 上級探索者である自分とこれほど渡り合える才能の持ち主が赤龍の呪いに捕らわれ、正気を失った竜人になるとは。


 これだけの才覚。味方であればどれほど頼もしい存在に成長したことか……


 だからこそここで殺す。殺してやらねばならない。


 龍の呪いによって意思を失い同胞殺しになってしまった者達は果断に即時屠る。


 暗黒期を終わらせようとする探索者達は誰もが殺し、殺される覚悟を持って戦場へと赴く。


 その生き様をこれ以上は汚させ為に。


 この龍憑きを倒したとしても、次の瞬間には不気味に静観したまま佇んでいる赤龍によって自分は打ち倒されるかもしれない。


 上級探索者としての力を解放するための神印宝物も持たない状態では、龍に抗うことなど出来ず確定した未来。


 だが探索者として、エーグフォラン国王として最後の最後まで戦い続ける。それこそがガナドの矜持にして誇りだ。


 必要以上の苦しみを与えず、確実に屠る。


 必殺の意思を宿した剣をガナドが横一線で振り抜く。


 正確無比に薙いだ剣の一降りによって龍憑きの首が高くはね跳ぶ。


 静かに切り落とすつもりであったのだが、龍憑きがとっさに防御しようとしたのか一瞬遅れて上がってきた手が己の首を跳ね上げていたようだ。 


 しかしこれで終わりでは無い。心臓こそ魔力を生みだし身体へと循環させる重要器官。首をはねた程度では忌まわしき龍の魔力から完全に解放はできない。頭部を再生し完全なる竜人へと変貌する者さえいるほど。


 首をはね心臓をつぶして初めて龍憑きを完全に屠ることが出来る。


 一切のためらいなく慈悲の一撃をガナドは打ち込む。打ち込んだ。打ち込んだはずだった。



「なっ!?」



 心臓をあっさりと突き破るだけの力を込めたはずだが、切っ先が返すのはまるで鋼鉄のような手応え。


 これ以上は髪の毛一本分も先に進ませぬと語るように拒否する肉体へと、くるくると回りながらその主が。首が帰還する。


 引き寄せられるように寸分の狂いも無くぴたりと首が着地すると同時に、身の毛もよだつほどの強力な闘気が切っ先から伝わり始める。


 そこで初めてガナドは初めて違和感に気づく。


 首をはねたはずなのに全くといって良いほど血が噴き出していなかったと。



「鼓動返し!」



 鈴のような凛とした声が響き渡ると共に、爆発的な闘気の奔流がガナドに叩き込まれ、押し返された切っ先の威力に負け剣を取り落とす。


 心臓をぎゅっと絞られるような恐怖と、魂が凍えるような悪寒がその全身を凍り付かせ、指先一本動かせず、目をつぶることさえ出来ない。


 生物としての根源的恐怖。


 この感覚には覚えがある。戦場で何度も響き渡り、そのたびに誰もが足をすくめ、窒息死したり狂死した者もいたほどの死音。


 紛れもない龍の咆哮だ。竜人には決して出来ないはずのこの世の最強存在である龍が放つ怒りの怒号だ。


 

「お爺さま! 決めるぞ! 邑源一刀流水面破月!」



 一瞬だけ息を整えた化け物が地面から大剣を拾い上げ大上段に構える。


 その気迫と構えからそれが一撃の必殺だとガナドに悟らせる。


 悟らせる?


 気づく。違和感に。


 龍の咆哮は思考さえ止める。本来の龍の咆哮は考えることさえ許さない絶対の恐怖を与える。


 それなのに自分は分析し頭の中で考えを張り巡らしている。


 ならばこれは完全な咆哮ではない。


 ならば抗え!

 

 ならば打ち破れ!


 探索者であるならば!



「な、なめるなっ!」



 裂帛の気合いと共に己の闘気を全身へと張り巡らせたガナドは拘束を無理矢理振り払い、振り下ろされた大剣を装甲曲面で受け流しながら、一歩前に踏み込んだ渾身の体当たりを化け物へとぶち込む。


 思った以上に軽い手応えと共に理解不能な化け物は吹き飛び、ごろごろと転がりしばらくして大の字になってぐたっと伸びる。


 荒ぶる心臓の鼓動と激しく乱れる息を整えながらも、ガナドは取り落としていた剣を拾い戦斧槌へと戻して、倒れたままへの化け物へと最大警戒を向けるが。



「さて嬢。満足したか。どうあがいても今の嬢ではこの武人に一太刀も入れられぬと俺は思うがまだやるのか?」



 今まで沈黙を保っていた赤龍が呆れ混じりに倒れ伏した化け物へと問いかける。


 その声はガナドが知る赤龍達の憎悪と怒りに満ちた咆哮では無く、理性的な落ち着いた声色だった。



「うむ。精神世界とはいえ久しぶりに全力で剣を振るえた大満足だ。しかし切り戻しからの鼓動返しはまだ闘気量が足りぬな。拘束効果が思ったように発揮できなかった。だがそれを抜きにしてもお強い。うむ。さすがは噂に名高いドワーフ王ガナド・エーグフォラン殿だ」



 赤龍の問いかけに対して、からからと実に楽しそうに笑い声を返した化け物がむくりと起き上がると仮面を外し素顔をみせる。


 艶のある黒髪に幼くとも気品と美貌を感じさせる極上の美少女は、見ほれるようなにこにことした笑顔でガナドを褒め称える。


 首をはねられ心臓を突き破られそうになりながらも戦いを挑んできた化け物の素顔が、まだ幼い少女である事以上に、ガナドを驚愕させる事実がそこにあった。


 大英雄双剣フォールセン・シュバイツァーに付き従う、主人と同じ二つ名を持つ双剣が一人邑源雪とうり二つであるからだ。 



「……双剣の雪殿、じゃねぇな……幼いうえに、戦い方が異常すぎんぞ」



「うむ。本来ならば私の真名は隠さねばならぬのだが、ベザルートお爺さまも関わるからなガナド殿には真名を名乗ろう。私はケイネリアスノー・レディアス・ルクセライゼン。ベザルートお爺さまの孫の孫になるぞ。ケイスと呼んでくれ」



「……はっ!? ……ベィの字の子孫だ!? いやいやまてまてその顔でなんでそっちだよ!? 思い出してみたらさっき邑源一刀流なんとかって言ってただろ。しかもルクセライゼンを名乗るって事はルクセライゼンの正当皇女かおまえ!?」



 しばし呆然としたガナドは、少女の名乗った名乗りやその意味に気づくが、脳は理解が追いつかない。


 どこからどう見ても南方のルクセライゼン系の容姿では無く、今では希少な東方王国系の容姿だからというのもあるが、あの人外じみた戦い方は大国の皇女がしていいものではなく、出来るはずも無い類いの物だ。



「父様はルクセライゼン現皇帝だが、私は存在しないことになっているから秘密にしてもらおう。あと私のお婆さまは双剣の一人邑源華陽。今はカヨウ・レディアスという名乗っておられる。だから雪殿は私の大叔母様であるから似通った容姿になるのも致し方あるまい」



「……聞けば聞くほど、状況が意味不明になる。どういうことだ?」

 


「うむ。ガナド殿達の活躍した時代から百年以上が過ぎている混乱するのも当然だ。よい鍛錬をしてくれた礼だ。私に答えられることなら何でも答えてやろう。何が知りたいのだ?」



「ひゃ、百年単位かよ……さらっと洒落にならない情報を伝えてくれるな……頼むから」



 予想以上の時間経過に混乱の極みに達したガナドの驚愕している様を前にしても、全く気にも止めた様子が皆無な化け物が最上級の笑顔を浮かべていると、



「ドワーフ王。因縁がある赤龍である俺からの助言は受け入れがたいであろうが忠告させてくれ。ここから少し離れた精神空間に、嬢の保護者と貴殿と一緒に救助された嬢の先祖がいる。彼らと合流してから話を聞いた方が良い。嬢に任せていると時間がかかる上に、貴殿が精神的に潰れるやもしれん、何せ我ら龍からしても、嬢はおかしいと断言できる存在だ」



 目の前の美少女風化け物よりも、遙かに建設的で優しさと労りを感じる声で仇敵であるはずの赤龍から提案がなされる。



「そうさせてもらうぜ……龍と話していたほうが落ち着く日が来るなんぞ想像もしたことねぇぞ。くそが」



 訳がわからなすぎる状況にやけくそ気味に毒づくぐらいしか、今のガナドがやれることはなかった。


 ケイスによる新たなる被害者がまた一人……

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― 新着の感想 ―
100年前でもダメだったかぁw 後はひいひいお爺様がどんな人にもよるが、孫バカか胃痛+かのどちらかでしょう。 まぁケイスだけだけでなく父皇帝も裏でだいぶヤバいことやってますが。
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