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永宮未完 下級探索者編  作者: タカセ
新人仮面剣劇師と海上劇場
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剣士とドワーフ王

 第15次悪夢の島攻略戦。

 

 南方大陸統一帝国ルクセライゼン、ドワーフ国家エーグフォランを中心に編成された連合艦隊は、多大な犠牲を払った14の敗戦の末についに島への上陸を果たす。


 火山島全体が迷宮化した金の上位迷宮を駆け抜け、飛び交う龍を数えきれぬほどたたき落とし、殺しつくし、中心部の火口へと攻めかかるのみでなく、そこに巣くう迷宮主火龍ナーラグワイズへと致命傷を与えることに成功したが、まだ勝利は遠かった。



「火口からの圧が強い! ガナド王!  奴の再生速度は!?」



 島の周囲に展開した6隻の魔術補助艦を基点に島全体を覆うほどの大きさの積層型魔法陣を背負い火口直上に浮かぶはルクセライゼン皇帝ベザルート。


 青氷で出来たルクセライゼン四宝の一つである鎧を纏うベザルートは周囲の海から巻き上げた海水を束ねる大魔術【水龍撃】を火口へと間断なく撃ち込み続け、あふれ出そうとする溶岩流を押し戻しながら、火口内で孤軍奮闘する盟友であるドワーフ王へと通信魔術を飛ばす。



「しぶとすぎる! 心臓から派生した転血石は未だ健在! 溶岩からの熱を取り込んだ龍体生成の方が若干早い! ベィの字! もう一度対龍魔術砲撃は打ち込めるか!?」



 灼熱の溶岩湖に飛び込み僅かな粘度の違いを足場として飛び移りながら、耐熱強化された大戦斧槌を縦横無尽に振り回すエーグフォラン国王ガナドは、再生を図ろうとするナーラグワイズが生み出す炎で織り込まれた仮初めの肉体を砕き続きつつ、忌々しそうに吐き捨てる。


 巨大魔具である対龍魔術砲弾は、周囲を書き換える龍の魔力を僅かの間だけはじき中和するドワーフ謹製対魔力外殻と、火龍へと致命的な一撃を与えるルクセライゼン皇族達による青龍魔力を注入した転血石弾頭の二層構造となる。


 龍の魔力に抗い、滅ぼすほどの威力を得るために大型化重量過多になり、高位飛翔魔術を用いても致命的に弾側が遅いのが欠点だ。


 ガナドが近接戦闘でナーラグワイズの頭を押さえ、ベザルートが大魔術により束縛して、ようやく打ち込んだ10発の砲撃は効果抜群。


 百万の勇者達に絶望を与え続けた難攻不落の巨大火龍ナーラグワイズの肉体をほぼ消滅させた。


 それでもごく僅か、ほんの僅かだが殲滅までは届かず、魔力発生の源である心臓から生み出された転血石は未だ無傷。


 火口溶岩湖へと落下したナーラグワイズの意思を宿した転血石は周囲の熱を喰らい、即座に龍体を再生を始める。



「すまん! この戦で虎の子の魔力弾をこれ以上消費しては成功確率が格段に落ちる! 決死隊が全滅しかねない!」



 大海戦なれどあくまで悪夢の島攻略は前哨戦。本命は狼牙上空を覆い尽くす火龍群への対龍魔術砲弾による殲滅魔法陣生成。


 魔術砲弾を基点とし狼牙都市部を覆い尽くす積層型魔法陣を生成。単発よりも威力を数十倍以上に跳ね上げる儀式魔法陣生成こそが、連合艦隊に託された絶対作戦目標。


 しかしナーラグワイズが健在のうちは狼牙への遠距離砲撃は行えない。


 金の迷宮である悪夢の島周辺海域に満ちるナーラグワイズの魔力により外殻の防御効果大幅に軽減してしまい、狼牙に到達したときには望んでいた威力や積層型魔法陣生成効果は発揮できないからだ。


 支援砲撃失敗は、今現在狼牙に向けて強行突破を行っている決死隊を見捨てることになる。


 数多の勇者達によって構成される決死隊は、人類最強の戦闘集団にして、暗黒時代の主赤龍王を屠るための最後の希望。



「ちっ! 双剣殿達が全滅したら、次の大量発生で押し返されかねぇか……ベィの字! 遺書は書いてあんだろうな! あのくそ龍を封印する付き合え!」



「委細承知! 既に攻勢限界ぎりぎりだ! 今期で決めきれなければ我らはトランドから駆逐されるやもしれぬ! やるしか無かろう!」



 半期に一度迷宮から大量発生するモンスター群によって、一進一退の攻防を繰り広げ既に百年以上。ついに龍王の首に手が届くところまでたどり着いたが、それでも余裕は無い。


 暗黒期の始まりで僅か数日で人類種は迷宮大陸トランドから駆逐されかけたのだ。


 トランドの陥落は人類が迷宮の大半を失うこと。それは迷宮を踏破して得られる天恵を失うことと同義。


 天恵が無くとも迷宮モンスターに挑める者は極少数。あふれかえるモンスターによって蹂躙される絶望の世界が扉を開くことになる。


 勝つか負けるか。


 人種は生き残れるか。


 今ここがこの場こそが乾坤一擲の刻。


 皇帝であろうとも、王であろうとも、探索者として命を使う正しい場所を、二人の英雄は見極めた。



「撃ち込め! ガナド王!」



 溶岩から立ち上がる致命的な熱や猛毒の大気からその身を護っていた青氷鎧がベザルートから分離して無数の鋭い氷釘へと変化し、激しく対流する溶岩湖へと流星となり降り注ぐ。



「おう! 金獅子ガナド最後の魔術鍛冶仕事! たっぷり味わえやトカゲ野郎!」 



 戦斧槌の柄をぐるりと回したガナドは、周囲に降り注いだ氷流星をハンマーではじき、巨大な転血石の周囲へと撃ち込みはじめる。


 星の一つ一つがガナドの神業的鍛冶技術によって、びたと狙い通りの位置に止まり、図形を描き出す。

 

 一瞬で撃ち描き出されたそれは絶対零度を生み出す氷結系最上位魔法陣。だがその図形はまだ形だけ。


 魔法陣が動き出すための魔力はまだそこには無い。



「始母ウェルカよ! 我に力を!」



 青龍魔力による遮断障壁を纏ったベザルートも溶岩湖に突入。基点となる青氷に手を当て渾身の魔力を一気に注ぎ込む。


 万物を停止させるほどの極低温が転血石に撃ち込まれた魔法陣を中心に発生。急速的に周囲の熱量を消失させ氷点下へと振り切り、周囲を岩石へと変化させながら、火山道の奥深くへと急速に沈み込んでいく。


 魔法陣に触れるベザルートは無論のこと、ガナドも急速に凍り付く岩石に周囲を取り囲まれ一緒に奈落へと引きずり落ちていく。いくら上級探索者といえど、生き残ることも帰還も不可能な死地へと。



「ぐっ! まだ抗うか! よかろう受けて立つ! ルクセライゼン四宝を侮るな!」

 


 しかしナーラグワイズの転血石は決死の封印攻撃にさえ抗い灼熱の魔力を放出し始める。


 手のひらが焼けただれる熱を受けながらも、ベルザードも魔力を最大限まで注ぎルクセライゼン四宝鎧で増幅させた冷気を放出しせめぎ合いとなる。


 肉体を失ったとはいえ純粋な龍相手。しかも氷結した岩石の外側には、絶え間なくわき出す溶岩流。


 若干ベザルートが押され気味だと気づいたガナドは力を振り絞り、凍り付いた周囲の岩石を砕き左手を解放。腰ベルトにつけていた時間凍結型緊急避難魔具をもぎ取る。


 倒しきれたか確認できないので使う気は無かったのだが、このままではじり貧で押し負けるだけだ。


 

「くそトカゲが往生際が悪すぎだ! 空間隔離型時間凍結型緊急避難魔具で一部を分離させるから発動の瞬間に最大魔力で押し込め! カウント0でいくぞ! 3.2.1.0!」



 カウントを数え終わると同時にガナドは魔具の発動スイッチを強く押し込む。


 発動した魔具の放つ淡い光が周囲に拡散しつい目を閉じたガナドの意識はそこでぶつんと途切れた……













「っ!? しつけぇなくそ龍が!」



 意識を取り戻した瞬間、龍の気配を察知し、ガナドは瞼を開きながら右手の戦斧槌で気配に向かって突っ込む。


 一瞬遅れて見開いた目に映るは深紅に燃える赤い鱗。まさに赤龍の証し。


 ガナドを喰らおうとしていたのか、一足飛びで届く距離に迫っていた龍の顔面に強烈な一撃を叩き込もうとしたが、不意にわき上がる強烈な戦意を感じ取ったガナドはとっさに頭上へと戦斧槌を打ち上げ防御態勢へと入る。


 激しい火花と共に豪腕豪脚を誇るガナドが一瞬たたらを踏むほどの強烈な衝撃と重さが叩き込まれ、戦斧槌がきしみしなる。


 巨大ゴーレムの拳にさえも耐えるほどの強靱さと粘りを持たせたはずの柄が折れるのではないかと冷や汗をかくほどの強撃。


 赤龍への警戒を続けながら、その視界に捉えたのは、並の剣にくらべ分厚く長くはあるが標準的な大剣が、受けた柄ごとぎりぎりと押しつぶそうとする光景だ。


 奇襲の一撃を完璧に受け止めたというのに、跳ね返すことも出来ずまともに動けないほどの超重量。


 見かけの刀身からは信じられないほどの重さを発揮し、それどころかどういう作用か加速度的に重さを増している。



「くそがっ!」

 


 このままでは押し負けると判断したガナドは赤龍への警戒心を一瞬だけ捨て、横合いからの攻撃に対応する。


 膝の力を抜き精密な体裁きで撃ち込まれた重さを推進力へと、するりと抜けるように強撃の力をいなして、赤龍や謎の襲撃者と一気に距離を取り体勢を立て直し武器を構えながら、周辺状況をさっと確認する。


 硬くでこぼこした岩石の床が広がり、魔術光が使われているのか周囲はほのかに明るいが強い熱気と水蒸気が立ちこめており、遠くまでは見通せない。


 先ほど打ち合わせた武器の反響音が、ここは地下空間だと告げるが、沸き立つような高揚感や無限にあふれる力の流れも感じずにいるので、ここは迷宮内では無いと告げている。


 上級探索者としての力なくして、龍に挑むなど無謀にもほどがある。しかし今頼れるのは己の技量のみと覚悟を決めたガナドは、己に剣を向けてきた相手に獲物を向ける。


 赤龍をかばうようにその眼前に立つのは、超重量剣を無造作に持ちながら立つ子供のように小柄な体格の黒い外套と戦闘用とおぼしき仮面を身につけており、外観からは種族、性別不明。


 襲撃者が身につけている武具の様式はガナドが知る物とは若干違う。より進化した洗練されたと鍛冶師の勘が告げた。


 時間停止魔具から解放されたようだが、どのくらいの時間が経過したかは不明。


 だが目の前に立つ者は明確な敵だとガナドは判断する。 


 敵対者の額で赤く輝く赤い鱗が如実に語る。



「赤鱗の龍憑きか。人に災いをもたらす前に殺してやる……恨むなよ」



 それは赤龍王の呪いによって狂った証し。龍の手先となり死ぬまで戦い続ける竜人への変化の兆候だ。


 未だ龍王は討てずか……


 最悪の未来が心をよぎりながらも、戦士としての心に従いガナドは獲物を構えた。








 うむ。僥倖だ。


 警戒するガナドを前にケイスは無言のまま、仮面の下でにこやかに笑う。


 どうやらガナドは戦闘態勢のままの意識でいたせいか、ガナドに残留していた赤龍魔力を吸い取っていたノエラレイドを敵対龍と勘違いし、意識が戻った瞬間すぐに攻撃に出てた。


(嬢。距離を取って事情説明すればすむと思うのだが戦う気か?)



(諦めろノエラ殿。このバカ娘が、やる気のある強者を前にして我らの忠告を聞くはずも無い)


 ここはラフォスやノエラレイドによって構築された精神世界。

 

 攻撃されたところでこの空間の主人であるノエラレイドが距離を取ろうと思えば、いくらでも一瞬でとれるのだがケイスがそれを止めていた。


 ガナドが攻撃に出た瞬間に気づいたのだ。


 今なら怒られずに、伝説の英雄の一人であるドワーフ王と剣を交えられるのではないかと。



(ふむ。私は剣士だぞ。説明するより剣を交えた方が相手に伝わる。あと叔父様にはあとで説明するから、今はカイラとベルザードお爺さまの方に意識を向けさせておけ)




 意識が戻るまでガナド達に残っていた魔力の影響を最低限に押さえるために、空間を隔離しているので、ここで戦っていてもイドラスには気づかれることはない。


 後から言っても問題ない、怒られないロジックがケイスの中には出来ている。


 何せガナドから攻撃をしてきたのだ。


 ならば受けるのは剣士の嗜み。


 自分から斬りかかりはしたが、愛用の武具でもあるノエラレイドが攻撃されそうになったのだから、正当防衛だ。間違いない。


 しかもガナドはケイスのサークレットにはまる赤龍鱗をみて龍憑きだと思っているので、本気の殺意をみせている。


 つまりこちらも本気で無ければ失礼だ。


 迷宮では無いのでガナドは上級探索者としての力は使えないが、先ほどの攻撃をしのいだ腕を見るに卓越した技量に遜色は無し。


 どこまで今の自分の剣が通用するか?


 自分から誤解を解く気はさらさら無いケイスは、心の底からわくわくしながら斬りかかっていた。  

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― 新着の感想 ―
ニコニコ国際条約違反ラブリー怪獣〜っ!! 誰も見ていないからと救出されら過去の大英雄に斬りかかるのは流石としか言えない。 まぁ、時代背景的に正解の可能性も高いし、雪氏との違いを強調できるキチガイっぷり…
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