【7話】シオンの隠れ家
独歩と別れてから彼の視線をしばらく背中に感じていたが、人混みに紛れて歩いているうちに消えた。普段より随分低い背丈の今、街の全てが大きく感じるし、あんなに幼く感じていた子ども達にも仲間意識が湧いてくる。これはこれでいいものだ。
周りは子ども達が遊んでいる。サッカーしている子、危なっかしくパルクールの真似事をしている子、ドッヂボールしている子。そんな中で、明らかに素材のいい服とローファーは子ども達の中では浮いていたが、みんな遊びに夢中で誰も気にしていなかった。
「いらっしゃいませー」
急に出窓から手が出てきてカーテンがめくられる。
「ほら、私声かけたじゃん。次は声かけてよ。」
「えーそのまま話せばいいじゃん」
まずは自分より小さい人間にターゲットを絞ったのだろうか。やっぱり遊ぶだけでも学びはあるとしみじみ思う。
「あの、こんにちは。お守りどうですか?」
「お守り?」
「私たちミサンガ作ってて、ほら最近幽霊が出るみたいな噂があるじゃないですか!だから作ってみたんですよ。もちろん遊びなんですけど!」
照れて、口ごもりながら話す女の子たちは紙箱を差し出してきた。覗き込むとカラフルなミサンガが十本ほど入っている。編み目が荒いものから比較的整っているものまであり、箱の中で上達していった様子が伝わる。
「綺麗なミサンガがたくさんだね。着けてると逆に幽霊も欲しがっちゃいそうだね」
褒めれば、女の子たちの目は落ち着きなく泳ぎ始める。
「もし欲しいのがあったら、貰っていっていいよ。」
「貰っていいの?嬉しいな。どれにしよう」
なんでもいいというのはこういう時にも困るものだなとしみじみ思う。この子達は他の子達にも声をかけるのだろうか。もし残ったら可哀想かな。
「これ貰ってもいい?」
黄色と緑色の2色が使われたミサンガを手に取った。編み目の粒は一番揃っていない。
「僕の目の色と似てて気に入っちゃった。1つくださいな。」
最初に声をかけた子が作ったのだろうか。選ばれたミサンガを見て顔を緩ませた。
「まいどありがとうございます!」
お辞儀と同時にハラっとカーテンが閉まり、中から良かったね!売れたーと聞こえてくる。そんな声を聞き流しながら、また歩き出す。ミサンガをポケットに仕舞いながら、好きなことをしている子ども達を眺める。あの女の子達は何を思ってお店屋さんごっこをしているのだろうか。自作の物が他人に売れたという満足感が欲しいのだろうか。
向こうの子たちはなぜパルクールをしているのだろう。自分なら、高い場所を見ても飛び降りたいと思わない。
でも自分が思わないことをやるから他人は面白いし、子どもは常識を知らないからこそ、突拍子もないことをやり始めて、見ていてもっと面白い。
好き勝手している子ども達をゆっくり見ていたいのだが、ポケットに入っているボタンがゆっくりさせてくれない。子ども達を眺めて楽しむのはまた今度にしようと足早に家に向かう。去り際にパルクールの少年たちにかけられていた保護を外す。あのお節介がかけたのだろうが、怪我をすることで学べることもあるというのがシオンの自論である。
子ども達の姿が途絶えたところで、シオンは坂を下った。
いくつかの路地を曲がり、ひーふーみー、9つめの建物に入る。
本棚の隙間を抜け、石階段を上る。
子どもの姿では通れない川に差しかかると、身体を細かい粒子へ変え、大人の姿に戻った。飛び石を渡り、錆びた階段を上っていく。
ようやく辿り着いた部屋には、薬品の匂いが充満していた。
薄暗い中、乱雑に上着を放り出し、明かりもつけずに引き出しを引っ張り出す。2段目と3段目を引き抜き、奥の板をスライドさせるとベールが今日も無事にあった。ベールの裾には歯車の模様が編み込まれている。見る角度によって様々な色が現れ手が込んでいるのが見て取れる。
「嫌だなぁ」
ベールを見るたびに、悲しさと戸惑いが襲ってくる。もう10年以上は経っているのに。
ベールに風をぶつける。でも風がベールを通り抜けることはない。これは解析して分かったことだ。でもこれ以上はわからない。でも今日はボタンがあった。ベールと同じく歯車が刻まれたボタン。
汚いそれを拭ってからベールに当ててみる。何も起こらない。包んでみる。何も起こらない。風を当ててみる。何も起こらない。
「……なんなんだよ、もぉぉぉ!」
ターナにも見せれば何か分かることがあるかもしれない。でも絶対この模様を見せればこの世界に余計なことをする。あの世界からこちらがどう見えているか分からない現状で余計なことをしてほしくない。
メディは余計なことをしすぎなのだ。




