【4話】独歩、1人時間デビュー
なんでここは夢の世界なのに言った言葉を戻せないんだろう。定職としてタイムトラベラーとかないかな。
でも何言ったって引くことはできない。重い感情を引きずりながら渦潮広場まで出た。よく知らないが、航輝たちから幽霊は白藍地域に出ると言われた。あそこは特に面白いものがないし、木しか生えていないから独歩たちもほとんど行かない。確か清流通りを通るはず。
これで行かなかったら、何もなかったら、ファイアードラゴンズにいられなくなるかも。なんか360度怖い。足は進まず独歩は広場にある噴水の縁にのっそり腰掛ける。爪先をパタパタ動かしてみる。貧乏ゆすりしてみる。ちょっと滝水通りを振り返ってみる。……分かってはいたけど何も起きなかった。
重い腰を上げ、仕方なく清流通りに入る。
下り坂に身を任せ、足先行で歩く。切り立った道の下に目を向ければ、緑がかった川がある。それに沿って家が並んでいた。みんな揃ってベージュの壁に赤茶色の屋根。巨人になって端からガーーーっと薙ぎ倒したい。
自分はこんなに強いんだぞって。
そんな妄想しながら輝く新緑に目を細めていれば、重い感情と距離ができたように感じられた。
古そうな眼鏡橋を越える。木と木の間に掛けるくらい大きなハンモックに寝転ぶ想像、川に身を任せ流れて行った方が早いかなんて冗談を考え、現実世界から思考が飛んでいく。
現実の景色を目で映しているだけだった独歩の目の前にいきなり現れた分かれ道。
片方はきつく曲がり右側に道を伸ばし、もう一方は川に沿った今まで通りの道だった。もちろん曲がった道を行く。こういう時は分からない方に行く方がワクワクする。どこに着くか分からないが、頭が妄想で満杯の今、さらなる刺激を求めていた。独歩が途中にある家をこっそり覗き見したりして歩いていると、だんだん木々が被さるように茂っているのに気がついた。トンネルみたい。緑の葉が艶々と輝き、自分にまでその生命力をお裾分けしてくれそうな感覚がある。
ここも、もう夏だ。夏はあまり好きじゃない。
暑いし、夏休みがあるし。
しかも今年は夏が嫌いになりそうだ。
今まで軽かった足も、現実を思い出し、少し重くなる。そんな独歩の心に反応したのか、トンネルのようだった木々がより鬱蒼としてきた。幹に蔦がまとわりつき、道にまで這い出ている。高さに余裕はあるのになんとなく屈んで歩いていくと、一気に白色が目に飛び込んできた。
気持ちを吹き飛ばす爽快な白だ。
尻尾のように垂れ下がった花が隙間なく咲いている。白い花の向こうにはコバルトブルーの湖。反対には花の勢いに負けじと森が広がっていた。
湖があるところとも言ってたと思うし、多分ここな気がする。
独歩は正直幽霊を信じている……ところもある。夜寝る時、手を胸の上に置くと金縛りにあうと聞いたから置けないし、押し入れの隙間から視線を感じる気がするし、お風呂場でもついつい振り返ってしまう。だから幽霊探しなんて本当にしたくない。
でも何かしないと……なにかそれらしいモノを見つけて帰れば大丈夫かな。
迷ったがとりあえずなにか探すことにした。ささっと帰りたい。
今頃みんなが何をしているのか、自分を気にかけてくれているか気になる。
でも、なんでなのか戻りたくない気持ちもあった。
ぬるい風が頬を撫でる。森に足を踏み入れると、足が沈み込むほどに土が柔らかかった。足踏みしてみたら、踏む感覚が薄く新鮮だった。
独歩は学校以外で友達と遊ばないから、外で遊んだことがあまりない。面白くてドンドンと踏みつけながら、木や岩の後ろを見て回る。木の右にバツ印があった。どこかで熊が木に印をつけるとこうなると聞いたことがある。このキノコは食べられるのだろうか。長い丸太に腰掛けてコロコロと揺れてみた。林間学校以来に受ける刺激にワクワクしながら、幽霊そっちのけで歩いていた。そうだ!カブトムシがいるかもしれない。樹液が出ていそうな、皮の溝が深い木や湿った場所を探してまわる。カブトムシって昼間いないとかあるっけと聞いた気がしなくもない情報を頭に浮かべながら、地面が湿っていそうな石もひっくり返す。草の根も掻き分けてみる。鈍い光沢が目に入ってきた。え、これ!薄暗い中、目を凝らすとカブトムシではなかった。丸くて、灰色で、なんだろう?土まみれだし一部緑で直に触りたくはないな。枝を拾いひっくり返す。突起がついていた。突起の穴に枝をひっかけ、下から覗き込むと模様が描かれている。分かりづらいけれどタイヤに見えなくもない。誰かの落とし物だろうか。
独歩は思いついた。これを幽霊の人間が落とした物とすればいいじゃないか。天啓、天才、妙案。満足感に満ちながら顔を上げる。
「お兄ちゃん、何してるの?」




