【19話】あの風野郎。
目の前には陽の光を浴びて輝くステーキ5枚。
湯気と共に美味しそうな香りが立ち昇る、幸せな光景。
しかしターナはそれらを目元を緩ませて見るのではなく、座った目で見ていた。
「宝石100個どころか、500個も創らせて。挙げ句の果てに、紙ばら撒いて散らかして。私に片付けさせて?舐め切ってるわよね、あの風野郎。」
街を歩けば子ども達が楽しそうにしていたから手は出なかったものの、あいつが笑いながら歩いているのを見るたびに腑が煮えくりかえっていた。
あぁ、肌に悪い。シワができる。
こういう時は一旦食べて、気持ちを沈めるしかない。
ナプキンをいそいそと膝にかける。
……そういえば、私の領域である大河通りに紙を多めにばら撒いてきたわよね。
目が勝手にひくついてきた。
……ダメね。事あるごとにストレス源を思い出してしまう。
気を取り直して、ステーキを切り、ティーカップいっぱいに注いだソースにつけた。
味は濃いめ。量は多め。
実家を出てよかった。好きに食べられる。
あんなお行儀のいい食事なんてストレス飛ばないわよ。
また新たに実家というストレスが生まれそうな中、こちらに来てから知ってしまった罪の味を存分に味わう。
あの臆病者が急に始めた宝石探し。
怪しい。怪しすぎる。
今まで、1人や2人単位でちょっかいをかけることはあっても、こんな大胆に何かを仕掛けることはなかった。
いつもいつも楽しむだけ楽しんで、大事なことには踏み込まない傍観者があの男でしょう。
急に現したこの積極性。
気持ち悪いわね。
探りたいけれど、会話を煙に巻くことが本業のあいつに対しては分が悪い。
私もこのユートピア内を探る?子ども達に聞き込みに行く?
でも、土属性の私が探っている間に風属性のあいつが調べ尽くす。
子ども達が事情なんて分かっているはずがない。
手詰まりね。
噛み締めたステーキに味が無いことに気がついた。
考え込み過ぎて、味わうことを放棄していたらしい。
もったいない。
今はしっかり味わって、ストレスと共に胃に流し込みましょう。
今日はソースとして、グレイビーソースにマスタードソース、レモンバターと塩を用意した。
ステーキはソースを食べるための媒介に過ぎない。
とにかく味付け。
味付けとは演出。
役者が素晴らしい舞台は役者に感心するけど、楽しいのは演出も素晴らしい舞台だろう。
ステーキを食すと舞台を見ることはイコールなのだ。
そういえば、学園で「淑女の舞台の見方」というあくびが出る授業があったけれど、その教科書にはこの理論が書かれていなかった。当時も不満しかなかったわね。
1枚目、最後の一口を口に入れる。
美味しいわね。
お肉って無限に食べれるわ。
口をさっぱりさせたくて、紅茶を飲む。少し冷めてしまったが、一気に飲み干すにはちょうどよかった。
頬をぬるい風が撫でる。
水中だからあまり気温に変化はないものの、日差しは強い。今日もテラスで食事をするには少し強い日差しだった。まだまだ暑い季節は続く。今度アイスティーでも作ってみようかしらなんて思いながら、2杯目をカップに注いだ。
ゴーーーーッ
バタバタバタバタッッッ
ナプキンがいきなり飛んできて、ターナの顔を叩きながら彼方に飛んでいった。
いきなりの突風で髪も乱れる。
は?
突然の出来事に脳がフリーズした。
ゴーーーーーッ
また、突風が吹いた。
紙が1枚落ちてきた。
[優勝は 最強バスターズ Congratulations!]
周りを見れば、ヒラヒラと紙が雪のように落ちてくる。
唖然としていると、また1枚ターナの元に紙が落ちてきた。
[ターナ お疲れ様!]
額に青筋が立つ。
手の中の紙はみるみるうちに茶色くなり、ボソボソの状態に腐っていった。
なんだったかしら。
女の子たちが楽しそうに話していたやつ。
………あぁ、そうそう。あんの、MBTI愚か者が。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この話で2章が終わり、次回から3章に入ります!
よかったら、これまでの話もぜひ読んでみてください!




