【18話】遊びのプロ達による地図
ターナがいつ襲撃してくるかとヒヤヒヤし続けて数日。むこうもそろそろ諦めた頃合いかな。
ようやく落ち着いて作業できる。
全く、精神統一しないとできない作業だというのに。
街歩きのときに聞こえてきた感じ、子ども達は随分と遠くまで行って、宝石を隠してきてくれたらしい。
いやぁ、助かるな。
自分でも忘れているだろう地域も確認できて、一石二鳥とはこのことだ。
ペンを持つ前にレコードプレーヤーを止める。雨音が流れるこれは寝る時には必須だが、今は邪魔だった。
改めて椅子に座り、ペンを持つ。
深呼吸を何度かして、僕が創り出した風元素を辿り、周りを把握する……つもりだったけど。
………だいぶ大変だな?
配った宝石がさすがに多すぎたかも。
通りごとに辿っていけば大丈夫だろうか。
改めて風元素を辿り、宝石につけた気泡を弾いて、周りを探る。
湧水通りは、飛行船の中。花色地域に向かう機体の中かな。
あとはここ図書館?多分、搗色地域のところの図書館だな。
紺青地域の奥の地域にもあるな。留紺地域だっけ?遠いのによく行ったなぁ。
滝水通りは……、薄花桜地域よりの大水車の下かな。
藤納戸地域の吊り橋ね。
滝水通り・清流通り間の地下通路もある?
え、どうやって見つけたんだここ。後で確認、チェックマークと。
清流通りは、やっぱり白藍地域多いなぁ。まぁここは前に調査したから「済」と。
あとは、通りの手前から13番目の家の台所、オーブンの中。
大河通りは……うわぁ、多いな。ターナが劇場だの美術館だの、宝石を隠しやすい建物ばかり作るから。
うーん、これは水浅葱地域の劇場かぁ?
感じる情報量は多いが、焦らず一つ一つ処理をしていく。隠された場所や建物、子ども達が隠し場所として選んだ場所の傾向なんかも地図に書き込む。
あとは電灯、池、川、階段下、橋の欄干、ボート中。はいはいはいはい……
んふふ。
こうやって地図を作るの懐かしいな。
******
肩を叩かれた。
「よっ!シオン。ちゃんと調査してきたか?」
「セル兄さん!もちろんだよ!ラファーガ通りの駄菓子屋なんだけど、4時から4時30分の間は店主のばあちゃんがいなくて、チョロそうだったよ。」
「そもそもあのばあさん、店番しててもしょっちゅう寝てるから余裕だよな。」
「ね!今度行こうよ。」
内容が内容なだけに、コソコソと耳打ちしながら話す。
こういう友達と遊ぶことでしか得られない快感が、スカスカな自分の心を埋めてくれる。だから悪いことでも止められないし、止めたくない。
「それにしても、今回かっぱらう店はシオン家の領地内だけどいいのか?親に怒られたりするんじゃないの?」
「大丈夫だよ。どうせ親なんて、僕のこと見てないし。」
なんで親のことなんて話すかな。さっさとこの話終わってくれないかな。
「そう?あっそうだ!俺らさ、女装しちゃえば分からないんじゃね?」
「ぜぇーーったい、嫌!何が「あっそうだ!」なの!?」
「見られても、まさか俺らだとは思われないっしょ。」
「正体バレた時が最悪だよ!盗みがバレるより嫌だ!」
「しょうがないな。変装程度にするか。」
「それもなんか嫌!というか女装の話の後だと不安!」
「なんだぁ?イヤイヤ期か?」
「イヤイヤ期って言うな。」
「まっ、シオンのためにも俺らのためにも、見つからないようにコソコソとやろうぜ。」
「もう。……まっ、完璧な作戦立ててやろうぜ。」
ウヒヒヒヒと笑い合いながら、集合場所に向かう。
蔦で隠れた階段を登り、川沿いの細い道を通れば、いつものように埃を被った扉が迎えてくれた。
綺麗に拭われた手すりを回せば、見た目によらずスムーズに扉が開く。
「エタンセル・テフラ殿、フォーゲル侯御子息。いらっしゃーい!」
「やめろって、それ!」
「なんだぁ?俺まで改まって言われるの、むず痒いな。」
毎度毎度からかわれるのが定番になってしまった。
僕に対して一回も恭しい態度なんて取ったことないくせに。
「今回は、フォーゲル領での盗みということで!御子息には何かとご教授いただければと!」
「やめてくれ、その言い方……!鳥肌が立つ!」
「まぁまぁ、その辺にして。もう揃ってるし、みんなで情報提供しあおう。」
「あっ、僕、家からフォーゲル領の地図持ってきた。」
「さすがぁ!」
「親父の部屋への出入りがここ最近で一番緊張した。誰かに見られるわけにはいかないし。僕スパイになったかと思ったよ。」
「風属性なんだから、姿を消せばいいじゃん。姿を変えるときは一度粒子になるでしょ。」
「まだ成人前だから安定してないんですぅ。もし風が暴走して窓とか割ったら目も当てられないでしょ。」
「シオン、俺らの中じゃ力有り余ってる方だもんな。」
「お前ら、話もそこそこにして地図作り始めよう。みんなが持ってきた情報をどんどん書き込んでくれ。」
やっぱりこのメンツをまとめられるのはセル兄さんしかいないよな。頼りになるしかっこいいけど、自ら進んでこいつらをまとめようとするのはちょっと理解できない。僕には絶対無理。
「ラファーガ通りの駄菓子屋のおばちゃんチョロいらしい。」
「それ、僕と兄さんも来るときに話してた。」
「俺も聞いた。」
「なんかここまで噂されてると、ばあちゃん大丈夫かって心配になってくるんだけど。」
セル兄さんが駄菓子屋に星3つ書き込む。
「あと、第2大通りのガスト通りにある文具屋も盗みやすいらしい。棚の影とか場所によっては店主の目が届かないって。」
「アウラ通りの農具店もやりやすいって。」
「農具取ってどうするんだよ。」
各々持ってきた情報を次々書き込んでいく。
「うーん……。何か足りないんだよな。」
「何が足りないんだよ。情報は今書いていってるだろ。」
「いや、情報じゃなくて、ビジュアル?」
「ビジュアル?えー、ここにフォーゲル家の方がいるのに領地の形にでも文句ですかぁ?シオン、こいつ他所から土地ぶんどって、領地の形変えろって。」
「えー、なに?ハートの形にでもしたらいいの?」
「違うよぉ。そんなことじゃなくて、うーん。あっ、これだ!」
「土地をぶんどるのがそんなことだっ………お前ぇぇぇ!何やってるんだよ!」
地図の上にデカデカと[悪童集会獲物マップ]と書かれた。
「これだよ!こういう地図には大きく題名を書かないと!」
「アホ!誰が盗みの目安を書き込んだ地図に名前を書くんだよ!どうするの!悪童集会って見られて特定させたら!というか、獲物マップってなんだよ!」
「獲物マップ。生々しいですなぁ。」
「そんなのんびり言ってる場合か。」
「さすがにヤバいか。」
「セル兄さんもそんなのんびりしてる場合じゃないって!早く消さなきゃ!塗りつぶせぇぇぇ!」
急いでマジックで塗りつぶし、見えなくなったはいいものの、机にインクが移ってしまった。元アトリエらしかったこの家に相応しい繊細な作りの机だったのに。
もー、こいつら本当にアホ。
耐えきれず笑ってしまった。
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盗みなんてどえらいことを計画した地図に相応しくない塗りつぶしと、汚れてしまった机を思い出せば今でも笑えてくる。
あれから随分状況も僕自身も変わったと思ったけど、やっていることは同じだと思うと不思議な気持ちにだ。
せめて、この地図は子ども達を守るという良いことに使って、あのばあちゃんへの贖罪としよう。
ええっと、渓流通りは……。




