【13話】隠すセンス、あり寄りのあり
ようやく、ようやく、隠し場所があらかた決まった次の日。
「それじゃ、今日は渦潮広場行ってからの飛行船のルートで行くぞ!」
航輝を先頭に、独歩達は宝石隠しを開始した。
「なぁ、ブルーサンダーの奴らに会ったらどうする?」
「そんな分かりやすいところに隠してんのー?とか煽っといてやれ」
「あれー?お顔が真っ青ですねー!さすが「ブルーさんだ」とかどうよ。」
「超天才」
前方でゲラゲラと笑っている湊達を見ながら、独歩と一澄は後方で話に華を咲かせていた。
「澄くん、飛行船乗ったことある?」
「ない。現実で飛行機ならママとパパと乗ったことあるよ」
「自分は飛行機も乗ったことないや」
「僕が乗ったときはね、飛行機と「アルセナール」がコラボしててね、ティエラー選手の写真が大きく貼ってあったよ!」
「えっ、いいなぁ!見てみたかった!」
「しかもね、コラボグッズでサッカーボールとアルセナールのチームマークがプリントされたペンとね、ティエラー選手のうちわ貰った」
「羨ましい…!ティエラー選手、もう引退してるからグッズとかレアなのに!」
「ふふん、いいでしょー」
こうしてのんびりおしゃべりできるの嬉しい。今日はポカポカしていて、いい気分だ。
「そういえばさ、飛行船ってどこから乗れるんだろうね?」
「確かに。僕、知らないや」
「湧水通りを通って行くとある」
前にいたメンバーが急に振り返って教えてくれた。
「湧水通り?行ったことないな」
「僕も。よく知ってるね」
「湧水通りは女子が多いだろ?だから湊によく連れて行かれるんだよ。1人で行くの恥ずかしいから一緒に行ってくれって」
「えっ、それって!恥ずかしいってことは!」
「静かに!内緒な。湊に知られたら殴られそう」
「うふふ、分かった!内緒ね!」
なんか、2人だけで盛り上がってる……なんだ?
「湊くんがどうしたの?」
「えー!独歩ちゃん分かってない感じ?鈍いですなぁ!」
一澄がとにかく楽しそうだ。
「俺らの基地の裏に街灯が真ん中に立っている橋があるだろ?あそこを俺らはナンパ橋って呼んでるんだよ。湧水通りと滝水通りを繋ぐ橋だからな。カレカノが欲しいやつは、みんなナンパ橋に集まる。今度一澄も行くか?」
「ちょっと遠くから覗いてみたい!行くのは怖いけど……」
「よし!今度連れて行ってやる!一澄をナンパ橋メンバーに追加してやる」
「僕はナンパできないよぉ」
「独歩も行くか?」
「え、あの、僕は遠慮しとこうかな…。なんか、緊張するし…」
「独歩はもっとグイグイ行かなきゃダメだ!そんなんじゃ高校生になっても彼女できないぞ!」
「う……ん。」
どうせ、高校生にもなれませんよーだ。
「お、もう少しで渦潮広場だ」
前から、「宝石ちゃんと持ってきたか?」「…あっ!忘れた!」「ばっかやろう!!」「うっそぴょーん」などと聞こえてくる。
「なんでいつもあの3人って喧嘩してるんだろうね?」
「喧嘩をチップ付けて買ってやるのが漢なんだって!航輝くんが言ってた!」
一澄が目を輝かしている。
まぁ、たしかに喧嘩ってかっこいい。憧れる。
自分も喧嘩してみたら、誰かが目を輝かせてくれるのかな?
ずっと話しながら歩いていたら、広場に着いた。
「よーし、まずは1つ。宝石を入れるぞ」
へーい。などと、気が抜けた返事が上がったところで、湊が宝石を入れた。
宝石が渦潮に巻き込まれて、ぐるんぐるんと回りながら沈んでいく。
結構早い渦だな。何回か来ているのに、全然知らなかった。渦をじーっと見ていると、自分の意識も巻き込まれて吸われていくようだ。無意識に見続けてしまう。
「独歩ちゃん?もう行くってよ」
一澄に声をかけられた。プチンと吸い込まれていた意識が途切れ、一澄と目があった。
「独歩ちゃん?」
「ごめん、ごめん!なんか渦見てたら夢中になっちゃって」
「分かる!なんか目が寄り目になっちゃうよね」
「たしかになってたかも」
「ねぇ、ねぇ、じりちゃん。あの街灯の上とかに隠すのはどう?」
聖の服の裾を引き、街灯のてっぺんを指差すメンバー。結構高いから大変そうだ。
「うーん、難しくね?さすがにやめと――」
「じりちゃんならできるって!頑張れ!」
すかさず湊が茶化しに入った。
「ねぇ、なんであの2人あんなに喧嘩してるの?なんか最近喧嘩の頻度高いよね?」
「高いよね」
「湊は気になる子が2人いたんだけど、そのうちの1人が聖のことが好きって判明したらしい」
「あらー……でも聖くんかっこいいもんね。いつも僕のこと助けてくれる」
「複雑だねぇ」
独歩も聖のとは結構話せる。怒ってこないから怖くない。
「てっぺんだぞ?何メートルあるのか分かんねーの?」
「えー、登らないのー」
「じゃあお前は登れるのかよ!泳げない上に登れないとかありえねーよな!」
「やってやるよ!お前はあっちの街灯登れ!俺がこの街灯に登る!」
「なんでお前がこっちなんだよ!」
この前社会の授業で、商品がたくさん流通すると経済が発展するって言っていた。2人の喧嘩が品物だったら、今頃経済が良くなっているんだろうなとしみじみ思う。
「フライングするなよ!」
「お前もな」
「2人ともうるせーぞ。いくよー。よーい、スタート」
航輝の若干やる気のない号令で2人が登っていく。両者とも裸足になっていて準備万端だった。
初めの2、3回は上に登れていたものの、街灯の太さがあるため、なかなか上に行きづらい。
メンバーがそれぞれを応援している。聖への声援の方が多い気もする。
「一澄くんはどっち応援する?」
「僕はどっちでもいいや。航輝くん登っていないし。独歩ちゃんは?」
「僕は聖くんかなー。」
とは言いつつ、湊に見つかったら後が怖いため、なかなか口は開けられない。
「えー、なんか猿が2匹いるんだけど!」
「ファイアードラゴンズは猿までメンバーにしてるんですかー!人手不足?」
独歩の背後から、笑いを含んだ声が聞こえてきた。
「あれー、家なしブルーサンダーが何の用ですかー?家探し?俺ら不動産屋じゃないんですけどー!」
湊が真っ先に応対する。やっぱり湊は悪口を言うのが天職だ。
「顔色が悪いのはなんでですかー!家がないから?寒いから?それとも俺らに「最強」の称号を取られるのが怖いから?」
「「顔色ブルーさんだー!」」
湊と聖、2人の声の大きさが今日初めて役だった。航輝、聖、湊の3人はドヤ顔している。見れば一澄もドヤっていた。
「こんな雑魚に構ってないで行こうぜ」
「えー!逃げるの?ダセー」
「俺らに服従する恐怖に震えていてくださーい」
―――
「あいつらも噴水に隠すのかな?俺らの宝石見つからない?」
「大丈夫でしょ。しかも自分達が隠したところを探さないと思う。」
「確かにー!」
湧水通りに入り、やっとブルーサンダーの野次が聞こえないところまで来た。
「ああいうのはな、負け犬の遠吠えって言うんだ。よく覚えておけよ。」
聖が9歳のメンバーに教え込んでいる。
「あと、どうせあいつらは宝石を見つけられない。そういう目を節穴って言うんだ。よく覚えておけよ。」
湊も追加で教え込む。
「ねぇ、独歩ちゃんあの2人って仲良いの?悪いの?」
「いいか、一澄。ああいうのを、同じ穴のムジナって言うんだ。よく覚えておけよ。」
「おお、ムジナ兄弟……!」
思わず吹き出してしまった。なんかじわじわくる。
「やっぱりここら辺は女子が集まっているから、なんか可愛い色の家とか多いね。木とかにも飾り付けいっぱいだし。僕、そわそわしちゃう。」
確かに薄ピンクベージュの壁やらオーナメントやらがたくさんで、滝水通りとは雰囲気が全く違った。
「見て、あの女の子。すごいドレス着てる。靴のかかととか棒だよ。」
「豪華だねぇ」
よく分からないけど、花を逆さまにしたみたいな服を着ている。髪の毛も金髪だし。自分たちとは違う国から来たみたいだ。
「独歩、前見なよ」
ぼーっと見入っていたら、後ろのメンバーにせっつかれてしまった。
一行は角を曲がる。
「綺麗な人だったね」
「自分、あんな人初めて見た。」
やっぱり他のメンバーも見入った人が多かったようだ。みんなひそひそ話している。
ポーーー ポッポーー
「やばい!おい、走れ!もうすぐ出発しちゃう!」
汽笛が聞こえて来たがどうやら出発の合図らしい。
「急げー!!」
みんなで全力ダッシュする。
「んふふ」
「独歩ちゃんどうしたの?急に笑って」
「なんか、みんなで走ってたら笑えてきちゃった」
「そう?」
面白いことはなかったのに、どうしてか笑いが込み上げてくる。しかも厄介だ。笑いそうなのを自覚するともっと面白くなってくる。
笑いを我慢しながら全力ダッシュとか、今絶対変な顔してる。
「乗りまーす!乗ります!乗りますー!」
外に人がいるわけじゃないのに、航輝が大声でアピールしていた。
「ねぇ、あれって誰が操縦してるの?」
「……さぁ?」
航輝と聖が桟橋に辿り着いた。
「おい、早く走れ!」
みんなさらにスピードを上げて乗り込む。最近、体育のサッカーでダッシュしまくった成果が出た気がする。ホクホクだ。
飛行船が動きだし、ふわっと上空へ上がった。
浮き上がるときに左右に揺れる。
思わず近くの席に掴まる。初めて経験する揺れ方だった。窓を覗き込めばぐんぐんと上がり、街が小さくなっていく。
もし自分が巨人になったら、こんな風景が見られるのかな?きっと無敵で怖いものなんて無くなるに違いない。
羨ましいな、巨人。
「怖いね、すごくゆらゆらしてる。これ落ちちゃったりしないかな?」
「きっと大丈夫だよ!」
自分が巨人になったら妄想で頭がいっぱいの今、落ちたところでどうにでもなる気がした。
「よし、宝石どこに隠すか決めるぞ!」
「意外と隠し場所ないね」
「シンプルな部屋だしなぁ、しくったか?」
「もし隠すならシートの間とか、絨毯の下とか?」
「そんなのここに来たら、みんな探すだろ」
「じゃあお前ならどこに隠すんだよ!」
「お前よりはセンスがいい場所」
「だから、どこだよ」
周りが「茶番、茶番。」「今日何回目?もういいって。」とさすがに呆れ始めている。航輝も止まる気を見せず、隠し場所を探していた。
ピンポンパンポーン
びっくりした。急に木琴みたいな音が鳴った。
なんだなんだと探せば、前方上部の壁につけられた物が高速でくるくると回転している。
なんだあれ?とみんなで見ていれば、回転していた板が止まった。
[前方より金魚の大群。事故防止の為迂回]
……金魚の大群?事故防止の為ナンタラカンタラ。
「うわぁぁ」
最後が読まずにいたら、急に大きく左に揺れた。
足が取られて、転ぶ。
「痛っ」
一澄も転び、独歩に乗っかってきた。
「なになになに?今どうしたの?」
自分も聞きたい。今、どうなってるんだ。急に怖くなってくる。落ちないよね?大丈夫だよね?
周りもパニックになっている子が何人もいる。
近くのメンバーに助けを求めようと顔を上げたら、また揺れた。
なんだあれ。
窓の外が真っ赤になっている。
真っ赤なものが高速で過ぎ去っていく。
……いなくなった。
「なんだ今の?」
湊が窓に駆け寄り、頬をつけて診始めた。
「………魚だ!魚!尾びれある!ヒラヒラしてる!」
魚?魚?なんで?とみんなも駆け寄る。
独歩もつられて見てみれば、本当に魚だ。あれ、金魚?
「独歩ちゃん!魚だよ!金魚だよね?大きいけど!すごっ!あんなの初めて見た!」
「自分も!初めて!えー!魚が空を泳いでる!」
機内が興奮でボルテージMAXになっている。
カラカラカラカラ
また、板が回転しだした。
[薄花桜地域 大滝前停留所 行]
今度は元に戻った。
なんだったんだ!今の!
「なんか、異世界にいるみたい!凄かったね!」
「ねっ!本当に!」
「見た?黒の金魚もいた!」
「えっ!そうなの?見れなかった」
不思議すぎて夢を見ているみたいだ。
まだメンバーのざわつきが止まらない。
カラカラカラカラ
[次は 薄花色停留所 お降りの方はベルを鳴らしてください]
「この飛行船って薄花桜行きだろ?次、薄花色だろ?終点、次の次じゃね?」
「確かに、それな?あれ、やばくね?」
「やばくね?」
「急げぇぇぇ!いい感じのところ探せ!」
今度は違う理由で大騒ぎだ。
今日は心臓がドキドキしたりワクワクしたりで、大忙しだ。なんか、楽しい。
「ねぇ、澄くん。あの行き先とか出る看板?みたいなやつの中とかどう思う?」
看板?は箱になっていて、中で板が回転できそうなくらいの奥行きがあった。
「いいんじゃない?見つからなそうだし、誰も見なさそう!」
「ねっ!入れる時はさ、放り込むだけでいいけど、探す時は手を入れなきゃだもんね。怖いから入れないと思う。」
「そこまで考えたか、お主。いいじゃん。航輝くんに言ってみなよ!褒めてくれるよ!」
「えっ、僕いくの?」
「もちろん。独歩ちゃんが考えたんだもん。」
「えー、一緒に行こうよ」
「航輝くんのところならいいよ」
正直、いい案だとは思う。
よし、よし、勇気を出すんだ。
ぎゅっと手を握りしめる。
「ねぇ、航輝くん!」
「どうした、一澄。いい案出たか?」
「うん、独歩ちゃんが考えてくれた!」
「よし、聞かせてみろ!」
もう一度、ぎゅっと手を握りしめる。
「あの、この看板の箱の中に入れちゃうのはどうかなって。中に放り込んじゃえば、探すの難しいと思うし……」
尻すぼみになってしまったけど、言えた!言えたぞ。
「なるほど?あり寄りのあり!」
パッと視界が明るくなる。
「ほんと!?」
表情筋が緩んで、全開の笑顔になっている自覚がある。
「良かったね、独歩ちゃん」
「うんっ!」
「なぁ、聖。独歩が考えてくれたぞ。あの表示の箱の中はどうかって。」
「おー、いいじゃん。でも、次の表示が変わる時の隙間を狙わないとな。」
「もうすぐ薄花色停留所だろ?その後、終点に表示が変わるはずだからそこ狙うか。」
「そうしよう」
自分の案で、どんどん話が進んでいる。
えへへ。
「よし!いい場所見つかったから、もう探さなくていいぞ」
「ほーい。」「どこ隠すのー?」
航輝が説明すれば、みんなが同意する。自分の案に。
えへへ。
表示が変わるのを今か今かと見つめていれば、表示の板が揺れた。
航輝が構える。
カラカラカ
今だ!
すかさず宝石を指で弾き入れる。
無事、中に入ってくれた。
カラカラカラ
うん!回っていても中の宝石は見えない。
良かった。自分の案は上手く行ったみたいだ。
無意識に止めていた息を吐く。
「オッケー。これで2個目な。残りも多いから、今度は2チームとかに分かれて隠さね?」
「いいけど、白藍地域は?」
「そこはみんなで行くって」
「てかさ、終点まで着いたらそこで降りるの?」
「いや、降りたら次の飛行船がもうないと思うからこれで戻る」
「なんで帰りも乗ってるのに、今急いで隠し場所探したの?」
「「「あっ」」」
ドッと一気に笑いが起きた。
独歩も一緒になって思いっきり笑う。
今日は楽しい日だな。




