8話「レントゲン」
健康診断の日程が発表された朝。
営業部に一枚の紙が回ってきた。
「今年から胸部レントゲン検査を実施します。撮影時は上半身裸になっていただきます」
その一文を読んだ瞬間、樹里の手が止まった。
陽菜も同じ紙を見て、顔の血の気が引いていくのが自分でもわかった。
『……上裸?』
陽菜が小さく呟き、樹里が低い声で言う。
『終わった』
二人は顔を見合わせた。
背中には、Rose girls時代に入れたタトゥーが残っている。
薔薇の刺繍をモチーフにした、決して小さくないものだ。
これを見られたら、ただでは済まない。
その日の昼休み。
二人は誰もいない廊下の隅で、緊急会議を開いた。
『どうする』
陽菜が焦った声で聞き、樹里が額に手を当てる。
『隠せる方法はあるのか』
『インナーで誤魔化せないかな』
『上裸だと言っている』
『じゃあどうすんの! バレたら終わりだよ!?』
樹里はしばらく黙っていたが、短く息を吐いた。
『……まずは担当者に確認する。それ以外に手はない』
午後、樹里は冷静な顔で健康診断の担当者に確認を取った。
結果は——。
「インナーシャツを着用したままで大丈夫ですよ。上は脱がなくて結構ですので」
その言葉を聞いた瞬間、陽菜は膝から力が抜けそうになった。
樹里も、表情は崩さないまま、わずかに肩の力を抜いた。
帰り際、二人は並んで歩きながら、初めて本音を漏らした。
『……死ぬかと思った』
陽菜が言い、樹里が低く返す。
『二度とこんな検査をするな』
『あたしに言われても。会社がするんだよ』
『させるな』
二人はそれ以上何も言わず、夕暮れの道を黙って歩いた。
背中の薔薇は、今日も静かに隠れている。




