75話「誕生日会」
週末の【Rose】は、普段より明らかに賑やかだった。
樹里、陽菜、零、神谷、中井、佐藤、凛、彩花、柚希、そして黒澤部長。
佐藤が声をかけた面々が、揃って店に入ってくる。
美園はカウンター越しに目を丸くした。
『……何、この人数』
陽菜が手を挙げて明るく言う。
『誕生日おめでとう。美園さん』
一瞬、店内が止まったあと、バラバラと「おめでとうございます」が重なる。
美園は明らかに照れていた。
『いや、別に……そういうの、いいのに』
言いながらも、口元は緩んでいる。
嫌そうな顔ではなかった。
部長が「美園さん、今年も綺麗だな!」と調子に乗り、樹里が「部長、ほどほどに」と制する。
零は端の方で「自分、何か手伝いします」と立ち、中井は陽菜の隣で終始緊張していた。
======= メインの流れに入る。
佐藤が前に出て、少し大きな箱を差し出した。
「みんなからの、プレゼントです」
蓋を開けると、ホールケーキ。
シンプルで、過度に華美ではない。
美園は短く息を吐いて、受け取った。
『……ありがとう。悪くないね』
そこで佐藤は、もう一度懐から小さな箱を出した。
「それと、これは僕から……」
中を開けると、細めのネックレス。
派手すぎない、落ち着いたデザイン。
空気が、また少し止まる。
樹里が小さくため息をつき、陽菜が真顔で呟く。
『重たっ……』
凛が「なかなかですね……」と引き気味に言い、柚希も「攻めますね、佐藤くん」と一歩下がる。
彩花は面白そうに見ていて、神谷は「お前、そこまで用意したのか」と小声で呆れていた。
だが、美園だけは違った。
彼女は箱を見つめたあと、素直に笑った。
『嬉しい。佐藤くん、ありがとう』
そして、自然に続けた。
『ねえ、つけてくれる?』
佐藤の動きが止まる。
「え……あ、はい……!」
彼は震える手でネックレスを受け取り、美園の後ろに回った。
留め金を留める指先が、明らかに緊張している。
つけ終わると、美園は鏡越しに軽く首を傾げて見せた。
『どう?』
「に、似合ってます……!」
佐藤は心の中で、大きくガッツポーズをしていた。
それを見ていた面々は、それぞれ小さく息を吐く。
陽菜が肩をすくめる。
『……まあ、美園さんが嬉しいなら、結果オーライだね』
樹里も短くうなずいた。
『本人が受け取るなら、いい』
部長が「よし、じゃあ乾杯だ!」と声を上げ、店内に笑いが戻る。
美園は首元のネックレスに一度だけ触れてから、いつもの顔で言った。
『さあ、注文は? 誕生日でも、タダにはしないよ』
みんなで笑いながら、グラスを上げた。
その夜の【Rose】は、久しぶりの大声と、小さな照れくささで満ちていた。




