73話「ランチ」
約束どおり、零・柚希・凛の三人でランチに行った。
会社近くの小さな定食屋。
前回の京都の話で盛り上がり、席についてからも会話は途切れない。
『京都のあの店、また行きたいっすね』
零が言うと、柚希がすぐにうなずく。
「行きたい。写真、まだ見返してる」
凛が「私もです。あのソフトクリーム、美味しかった」と続ける。
普通の、三人の昼休みだった。
だが、柚希の視線は、時々零の方で少し長くなる。
零が笑ったとき。
話題を振ってくれたとき。
自分の話をちゃんと聞いてくれるとき。
(……この子、なんかいいな)
最初は「話しやすい友達」だと思っていた。
でも、胸の奥が少しだけ熱い。
前の田村のときとは、質が違う。
焦りや不安より、ただそばにいたい感じ。
柚希は自分の気持ちに、まだ名前をつけていない。
ただ、零の話している横顔を見てしまう自分がいた。
一方、凛はそれを見て取っていた。
(……柚希さん、零ちゃん見てる)
露骨ではない。
でも、明らかに目が優しい。
凛は何も言わず、自然に話題を振った。
「零ちゃん、今度は二人でも行けます? 柚希さん、今度の休み空いてるみたいですし」
「え」
柚希が少し慌て、零が首を傾げる。
『自分は空いてるっすけど……いいんすか』
「いいですよ。私は次の次で」
凛は穏やかに笑った。
応援する気満々だった。
柚希は「じゃあ……また」と小さく答え、零は「連絡待ってるっす」と普通に返した。
零はまだ気づいていない。
柚希は、自分の気持ちが何なのか、はっきりし始めていた。
帰りの道、凛が柚希にだけ聞こえる声で言う。
「いいと思いますよ。零ちゃん」
柚希の顔が、真っ赤になる。
「ま、まだ何も……」
「でも、顔に出てます」
凛はそれ以上言わず、先に歩き出した。
柚希は後ろから零の小さな背中を見ながら、心の中で認めた。
(……好き、なのかも)
夏の終わりのランチは、静かに次の季節を連れてきていた。




