70話「当たって砕けろ」
京都旅行のあと、神谷と佐藤は以前より話しやすくなっていた。
同室だったこともあり、社内でも自然と二人で飲みに行く関係になる。
その夜も、会社の近くの居酒屋で二人きりだった。
佐藤がビールを一杯空けてから、切り出した。
「先輩……美園さんと、もっと仲良くなりたいんです。
でも、近づき方がわからなくて」
神谷が箸を止める。
「美園さんか」
「店では話せるんです。でも、そこで終わりって感じで。
連絡先も聞いてないし、次にいつ行くかも曖昧で」
神谷は少し考えてから、意外なほどはっきり言った。
「男なら、当たって砕けろ。
まずは連絡先を交換しろ。そこからしか始まらない」
佐藤が目を丸くする。
「先輩らしくないです……」
「自分でもそう思う。でも、悩んでるだけなら何も変わらない。美園さんにそう言われた」
佐藤は真剣な顔でうなずいた。
「わかりました。じゃあ、先輩も日高さんに連絡先聞いてくださいよ。
お互い、当たって砕けましょう」
神谷の動きが、止まった。
「……俺の話は、してないだろ」
「してます。先輩も、日高先輩のことで悩んでるの、顔に出てます」
神谷は反論できず、ビールを煽った。
「……わかった。俺も聞く」
「本当ですね」
「本当だ。お前が美園さんに聞くなら、俺も日高先輩に聞く」
二人は視線を合わせ、小さく拳を合わせた。
「当たって砕けろ」
「当たって砕けましょう」
翌日から、二人の顔色は少しだけ本気になっていた。
問題は、どちらが先に実行するかだった。




