65話「部屋」
午後は、まだ陽射しが強かった。
清水寺をあとにした一行は、食べ歩きと軽い観光を続けた。
柚希は零と凛に挟まれる形で行動し、写真を撮ったり、お守りを見たりしているうちに、朝より明らかに表情が明るくなっていた。
陽菜がそれを見て、樹里にだけ聞こえる声で言う。
『……ちょっと、元気出た』
『ああ』
樹里は短く答えた。
佐藤は相変わらず美園の近くをうろつき、美園はそれを「可愛い」と言いながらも、適度に距離を取っていた。
神谷は樹里の荷物を持とうとしては「大丈夫です」と返され、中井は陽菜の隣を一度も離れなかった。
夕方近くになり、陽菜が手を叩く。
『そろそろ宿行こ。部屋割り、決めてあるから』
宿に着き、玄関で部屋のキーを配る。
陽菜が紙を見ながら読み上げた。
『陽菜と中井。
零、柚希、凛。
美園、彩花、樹里。
神谷と佐藤』
一瞬、沈黙が落ちる。
中井が顔を真っ赤にして「わ、わかりました……!」と答え、
零は部屋割りを見て、少し嬉しそうに目を細めた。
『自分、三人部屋っすか。……いいっすね』
柚希と凛も「よろしくお願いします」と普通に頭を下げ、零は「こっちこそっす」と返した。
神谷と佐藤は「男二人ですね」と苦笑いし、美園は「樹里、夜は静かにしてね」と釘を刺した。
樹里は何も言わず、キーを受け取った。
陽菜が全体に向かって言う。
『一旦荷物置いて、夜は近くでご飯。そのあと自由行動って感じで』
各自が部屋に向かう。
廊下で、彩花が美園に小さく聞いた。
「この部屋割り、意図的です?」
『さあね。陽菜が決めたから』
美園はそう答え、樹里の横顔を一瞥した。
樹里はすでに、夜の酒の匂いを予感するように、小さく息を吐いていた。
夏の夜が、近づいてくる。




