64話「清水」
京都に着いて最初に向かったのは、清水寺周辺だった。
観光地特有の人混みの中、自然とグループが分かれる。
零、柚希、凛の三人は、食べ歩きをしながら坂を上っていた。
『この辺、昔ちょっと来たことあるっす』
零がそう言うと、柚希が目を輝かせる。
「詳しいんですね。零ちゃん」
『いや、詳しいってほどじゃないっすよ』
凛がソフトクリームを食べながら、静かに付け加える。
「でも、案内してもらえると助かります。私、方向音痴なので」
零は少し照れながら、次の角を指差した。
『そっちに行くと、景色いいっすよ』
三人は並んで歩き、写真を撮ったり、店に入ったりした。
柚希は最初こそ元気がなかったが、二人の会話に乗っているうちに、自然と笑顔が増えていく。
凛が「柚希さん、アイス、甘いですよ」と差し出すと、柚希は「ありがとう」と受け取って笑った。
(……なんか、普通に楽しい)
柚希はそう思いながら、夏の陽射しの中を歩いていた。
一方、美園の近くでは、佐藤が必死に話題を振っていた。
「美園さん、京都は詳しいんですか?」
『そこそこ。仕事で来たこともあるし』
「やっぱり、色々知ってるんですね。すごいです」
『普通だよ』
佐藤はそれでもめげず、美園が立ち止まった店の前で、
「その服、似合ってます」
と、勇気を出して言った。
美園は少しだけ目を細め、楽しそうに笑った。
『ありがとう。でも、そんなに真面目な顔で言われると、からかってるみたいで可愛いね』
佐藤の顔が真っ赤になる。
「か、からかってないです……!」
『わかってる。可愛いって言ったの』
美園はそう言って先に歩き出し、佐藤は後ろで固まったまま、樹里に助けを求めるような目をした。
樹里は「知るか」という顔で、視線を逸らした。
陽菜が遠目にその様子を見て、中井に囁く。
『佐藤くん、頑張ってるね』
『はい……。でも、美園さん、手強いですね』
『当然だよ』
夏の京都の昼は、それぞれの距離を少しずつ縮めながら、過ぎていった。




