63話「企画」
柚希の元気がなさそうなのは、部署内でも気づかれ始めていた。
陽菜はそれを見て、ある日いきなり宣言した。
『柚希ちゃんを元気にさせるために、旅行行こう。一泊二日で京都』
給湯室にいた面々が、一斉にこちらを見る。
凛が「急ですね……」と言い、彩花が「本気?」と聞き、柚希本人が「え、私のため?」と目を丸くした。
陽菜は本気だった。
『名目は慰安旅行。参加者は、今いるこの辺の顔ぶれでいい』
樹里が低い声で止める。
『勝手に決めるな』
『いいでしょ。夏の思い出作り。柚希ちゃんも行きたいでしょ?』
柚希は少し迷ったあと、小さくうなずいた。
「……行けるなら、行きたいです」
そこから話は転がった。
零は陽菜に「来い」と呼ばれて渋々参加。
神谷と佐藤は「皆さんと行けるなら」と乗り、中井は「陽菜さんと行けるなら」と即答。
美園は「店を一日閉めるのは面倒だけど、たまにはいいか」と了承した。
結局、メンバーはこうなった。
樹里、陽菜、美園、零、神谷、中井、佐藤、凛、彩花、柚希。
出発当日。
集合場所で、陽菜が人数を確認しながら手を叩く。
『よし、全員揃った』
ここで、面識の薄い組み合わせが自然に挨拶を交わす。
零が神谷・中井・佐藤・彩花に頭を下げる。
『東雲っす。陽菜さんから、皆さんとは一緒に行動するって聞いてます』
神谷が「神谷です。よろしくお願いします」と返し、中井も「中井です!」と勢いで続ける。
佐藤は「佐藤です。初めまして」と丁寧に頭を下げた。
彩花は零を見て、軽く手を挙げる。
「森下です。櫻井さんから、バイクに詳しいって聞いてました」
『あ、はい。それっぽいことやってるっす』
美園の前では、中井が改めて挨拶する。
「あの、中井です。陽菜さんから、美園さんのことは聞いてました」
美園は「知ってるよ。陽菜の彼氏さんでしょ」と軽く笑い、中井が顔を赤くする。
佐藤も美園に一礼した。
「先日はどうも。佐藤です」
『ええ。この前の人ね』
美園はそう返しつつ、佐藤の少し緊張した様子を面白そうに見ていた。
陽菜が全員を見渡して、手を叩く。
『よし、自己紹介も大体終わった。夏の思い出、作るよ』
樹里は小さく息を吐き、美園は呆れたように笑い、柚希は少しだけ表情を明るくしていた。
新幹線が動き出す。
窓の外を見ながら、陽菜が樹里にだけ聞こえる声で言った。
『めいっぱい、楽しもうねー』
樹里は答えず、ただ前を見た。
夏の京都が、近づいてくる。




