61話「相談」
陽菜が柚希を呼び出したのは、終業後の給湯室だった。
『柚希ちゃん、最近元気ない? 無理してる顔してる』
柚希は最初「気のせい」と笑おうとしたが、陽菜の目を見て、肩の力を落とした。
「……好きな人がいるの。社内の」
陽菜は黙って聞いた。
「好きだよって言ってくれる。会えば優しくしてくれる。
でも、いつも夜で、終わったら“また連絡する”で終わる。
社内では、必要以上に距離を取られてる気がして」
柚希は自分の指を絡めながら、続けた。
「私も、陽菜さんみたいに『エッチはまだだめ』って、ちゃんと断りたい。
でも、好きだから……許しちゃう。
嫌われたくなくて、この関係が終わるのも怖くて」
その言葉に、陽菜は少しだけ目を細めた。
『……それ、柚希ちゃんが悪いんじゃないよ』
「でも」
『好きって言われて、触れ合えて、でも本命みたいには扱われない。
それ、曖昧にしてるのは向こうの方だよ』
給湯室のドアが開き、樹里が入ってきた。
陽菜が目配せすると、樹里は状況を察したように静かに立つ。
柚希は再度、かいつまんで話した。
樹里は短く息を吐いた。
『相手の名前と、今の関係を、もう一度整理しましょう。
柚希さんがどうしたいのかも』
柚希は俯いたまま、小さく答えた。
「……ちゃんと、好きって言ってほしい。
夜だけじゃないって、思いたい」
陽菜が柚希の肩に手を置いた。
『じゃあ、まずそこをはっきりさせよう。
一人で抱えなくていいから』
柚希はようやく、小さくうなずいた。
その夜、三人の間に、一つの問題が共有された。




