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6話「偵察」

「来月、部署対抗ボウリング大会をやるぞ!」

黒澤部長のその一言で、営業部は少しざわついた。

陽菜の手が、止まった。

『対抗……?』

樹里もゆっくりと顔を上げる。

『……どこが相手だ』

周囲が「え?」という空気になる中、二人の表情はすでに本気だった。

部長が慌てて補足する。

「いや、ボウリングだよボウリング。他の部署と点数を競うだけだ」

それでも、二人の温度は下がらなかった。

『負けは許されない』

樹里が低く言い、陽菜がうなずく。

『当然』

その日から、二人は動き始めた。

他部署の参加者リストを把握し、昼休みにこっそり相手の実力を観察する。

そして、一つの情報にたどり着く。

製造部の益川慎太郎。

社内でも有名なボウリングの凄腕だという。

『あの男が本命か』

樹里が短くまとめ、陽菜が目を細める。

『潰しに行こう』


終業後。

二人は益川の後をつけた。

益川は駅前のボウリング場に入り、一人でレーンを確保して練習を始めた。

フォームは安定し、スペアの精度も高い。明らかにただ者ではない。

樹里と陽菜は、少し離れた席からそれを観察していた。

『どうする』

『バレないように、邪魔をする』

陽菜が提案し、樹里が短くうなずく。

それから二人は、あの手この手で妨害を開始した。

陽菜が「間違えて」隣のレーンのボールを転がし、益川の集中を削る。

樹里が通路を歩くタイミングを計り、益川が投げる瞬間に視界の端で動く。

手洗い場から戻るタイミングで、益川の手前のボールを少しだけ動かす。

どれも直接的ではなく、偶然を装ったものばかりだった。

益川は最初こそ気にしていなかったが、徐々に眉を寄せ始めた。

『……効いてる』

陽菜が小声で言い、樹里が低く返す。

『やりすぎるな。気づかれたら終わりだ』

結局、その日の練習は益川にとってかなり不本意なものになったようだった。

帰り際、陽菜が樹里にだけ聞こえる声で言った。

『明日、勝てるかな』

『勝つ』

樹里は短く答えた。

果たし状は、すでに相手部署の郵便受けに入れてある。

差出人の名前は、もちろん書いていなかった。

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