54話「デートの約束」
翌日の社内。
中井は相変わらず、陽菜の良いように使われていた。
「中井くん、これお願い」
「中井くん、あっちの部署に持っていって」
「中井くん、コーヒーもお願い」
中井は「はい!」と元気に引き受け、走っていく。
陽菜は時々、戻ってきた中井の頭をよしよしと撫でたり、肩や手に軽く触れたりして、モチベーションを上げていた。
そのたびに中井の顔が赤くなり、さらに忠実になる。
樹里がそれを見て、短く言った。
『……調子に乗るな』
凛も困ったように付け加える。
「櫻井さん、中井くんが過負荷になってる気がします」
『大丈夫。中井くん、喜んでるし』
実際、中井は喜んでいた。
昼休み。
給湯室に、樹里、凛、陽菜、彩花が集まっていた。
雑談の最中に、ドアが開いて中井が入ってくる。
「あ、みなさん……」
中井は陽菜を見て、思い切ったように切り出した。
「陽菜さん、今度二人でデートしてくれませんか?」
給湯室の空気が、一瞬止まった。
陽菜はすぐに明るく答えた。
『いいよー! でも、エッチはまだだめだよ!』
中井の顔が、文字どおり真っ赤になる。
「え、えっ……!? そ、そんな……! いきなりそんな……!」
凛も顔を赤くして、視線を泳がせた。
「さ、櫻井さん……それは……」
樹里は額に手を当てて、深く息を吐いた。
『……お前は本当に』
彩花は口元を手で覆い、肩を震わせて笑っている。
「……なんか、この関係、面白すぎる」
中井は頭から湯気を出しそうな勢いで、何度も手を振った。
「で、デートは……! デートは普通に……! お願いします……!」
『うん、わかってる。普通に行こ』
陽菜は本当に気軽に言った。
樹里は天井を見た。
(……この歪さ、いつまで続くんだ)
給湯室に、奇妙な熱気と笑いが残った。




