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53話「帰還と報告」

研修旅行から戻った夜。

樹里と陽菜は、荷物を置きに寄る形で【Rose】に顔を出した。

美園は二人を見るなり、静かに息を吐いた。

『……帰ったか』

『ああ』

樹里が短く答え、カウンターに座る。

美園は二人のグラスに酒を注ぎながら、切り出した。

『不在の間に、少し動いた』

陽菜が身を乗り出す。

『動いた?』

『アネモネの件だ。Beauty Roseの副総長が、血だらけでまた来た。

総長が捕まったと。だから、行ってきた』

樹里の目が、細くなる。

『……一人で』

『二人とも、いなかったからね』

美園は淡々と話した。

単騎で乗り込んだこと。現メンバーに舐められたこと。まどかが介入したこと。

九条莉乃を取り返し、名前を出さないことを条件に一件を終わらせたこと。

陽菜は腕を組んだまま、複雑そうな顔をした。

『……莉乃のやつ、本当に勝手なんだから。でも、助かったならいいけど』

樹里は額に手を当てた。

『次はないぞ』

『わかってる。これが最後だって、向こうにも言った』

そのとき、ドアが開いた。

九条莉乃と渡辺沙羅が、恐る恐る入ってくる。

莉乃は最初、美園に礼を言いに来ただけだった。

だが、カウンターに座っている二人の顔を見た瞬間、足が止まった。

「……日高、樹里……? 櫻井、陽菜……?」

声が、上ずる。

陽菜はゆっくりと顔を上げ、莉乃を見た。

『……莉乃』

低い声だった。

莉乃の顔が、一気に青ざめる。

「副総長……じゃなくて、陽菜さん……。

その、勝手に立ち上げて……本当に、すみませんでした」

陽菜は腕を組んだまま、しばらく莉乃を睨んでいたが、やがて短く息を吐いた。

『助かったなら、いい。

でも、もう二度と私たちの名前を出して動くな。いいな』

「は、はい……!」

樹里は何も言わず、ただ静かに二人を見ていた。

美園が呆れたように言う。

『挨拶が済んだら、もう帰りな。傷、まだ完全じゃないでしょ』

莉乃と沙羅は何度も頭を下げ、逃げるように店を出て行った。

ドアが閉まると、陽菜が大きく息を吐いた。

『……なんか、変な感じ』

『お前が解散させた相手だもんな』

樹里が短く返す。

空気が少し和らいだ頃、陽菜が急に思い出したように口を開いた。

『あ、そうだ。美園さん、話がある』

『何』

『研修旅行の帰りに、中井くんって子に告白されて。で、いいよーって返した』

美園の手が、止まった。

『……はあ?』

『告白されて、いいよーって。付き合ってることになった』

美園は美園で、樹里の顔を見た。

樹里は「止めた」という顔で、静かに酒を飲んでいる。

美園は長く息を吐いた。

『陽菜。お前、恋愛感情で答えた?』

『ん? まあ、いいかなって』

『いいかな、で付き合うな』

『もう言ったし』

美園は呆れたようにカウンターに肘をついた。

『……その子、どうなるかわかってる?』

『わかってないと思う』

『お前もわかってないだろ』

『まあね』

樹里が小さく呟く。

『面倒なことになった』

美園は同意するようにうなずいた。

『本当に、面倒なことになったね』

陽菜は二人の反応を見ながら、明るく笑った。

『まあ、なんとかなるでしょ』

その言葉に、樹里と美園は同時に同じことを思った。

(……ならん)

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