51話「変化と余韻」
懇親会が終わり、社員たちがそれぞれの部屋に戻り始めていた頃。
廊下で、柚希が彩花を呼び止めた。
「ねえ、森下さん」
彩花が足を止める。
「最近、なんか変わった? 前より棘が減ったし、日高先輩とか櫻井さんへの態度も、ちょっと違う気がする」
彩花は一瞬だけ視線を泳がせたあと、軽く笑った。
「気のせいじゃない? こっちも色々あるし」
「ふーん……」
柚希は探るような目をしたが、それ以上は踏み込まなかった。
「まあ、いい方向に変わってるなら、いいんじゃない」
彩花は「そうだといいね」とだけ返して、先に歩き出した。
(……知ってることを、知らないふりするのって、意外と疲れる)
彼女は小さく息を吐いた。
夜が更けた頃。
凛は一人で大浴場に入り直していた。
昼間の喧騒はもうなく、湯気だけが静かに立っている。
誰もいない湯船に浸かりながら、凛はぼんやりと天井を見た。
(美園さんの背中に、薔薇のタトゥーがあった)
あの文字。Rose girls。
美園さんは「昔、やんちゃしてて」とだけ言って、深くは語らなかった。
(日高先輩や櫻井さんにも、ああいうのがあるのかな)
昼間、二人が大浴場から慌てたように出てきたのを、遠目に見ていた気がする。
気のせいだったかもしれない。
でも、なんだか引っかかる。
凛は湯をすくい、自分の肩にかけた。
(……考えすぎかな)
答えは出ない。
ただ、あの店の空気と、三人の距離感が、少しだけ気になり始めていた。
凛はそれ以上深く考えず、ゆっくりと湯から上がった。
夜の研修旅行は、それぞれの静かな余韻を残して、明けていく。




