49話「懇親会」
夜の懇親会は、大広間で開かれた。
浴衣に着替えた社員たちが、酒と料理を囲んで座っている。
陽菜の隣は、いつの間にか中井がキープしていた。
中井は陽菜と話そうとしながらも、視線が何度も彼女の胸元に滑る。
浴衣の襟元から、わずかに覗く谷間が気になって仕方ないらしい。
顔は真っ赤で、視線を逸らしきれずにいる。
それを、斜め前から見ていた樹里が、ふと動いた。
樹里はすでにほろ酔いだった。
『気になるなら、堂々と見ればいい』
低い声とともに、樹里は中井の後頭部を掴むと、そのまま陽菜の胸に顔を押しつけた。
「ふがっ!?」
中井の悲鳴に近い声が響き、陽菜が大声を上げる。
『ちょっと日高先輩!? 何してるの!?』
『本人が気になってるんだから、はっきりさせた方がいいだろ』
樹里は酔ったまま、至って真面目な顔で言った。
中井は顔を真っ赤にして飛び退り、頭を下げまくる。
「す、すみません!! 僕は何も……! 見てません……! 見てました……! すみません!!」
その後、中井は自分の顔に手を当て、残った感触を確かめるようにぼんやりとした。
そして、本気で呟いた。
「……一生、顔洗いません」
次の瞬間、陽菜のゲンコツが中井の頭に入った。
『洗いなさい!!』
「痛っ! すみません!!」
周囲はすでに大爆笑だった。
柚希は腹を抱えて笑い、
「今の、最高すぎる——!」
凛は「日高先輩でも酔うとああなるんですね……」と呆れながらも笑っている。
彩花は口元を手で覆い、肩を震わせていた。
「……なんか、意外と面白い人たち」
陽菜は樹里の肩を叩きながら、文句を言い続けていた。
『いい加減にして! 酔ってるんだからって、何やるの!』
『酔ってない』
『酔ってるよ!』
樹里は酒を傾けながら、短く呟いた。
『……気になるなら、見ろ。隠れて見るな』
それが、酔った元総長の、歪んだ教育方針だった。




