48話「大浴場」
宿に着いたのは、夕方だった。
チェックインを済ませ、荷物を部屋に置く。
他のメンバーがまだロビーや部屋で落ち着いていない時間帯を狙い、樹里と陽菜は大浴場へ向かった。
脱衣所は空だった。
二人は素早く着替え、湯船に沈む。
『……誰もいない』
陽菜が安堵の息を吐く。
『今のうちに済ませろ』
樹里も短く答え、肩まで湯に浸かった。
背中の薔薇のタトゥーが、湯気の中でうっすらと浮かんでいる。
二人とも、それを意識しながらも、とりあえず人の目がないことに感謝していた。
そのとき、脱衣所の方で足音がした。
一人分。
樹里と陽菜の体が、同時に強張る。
(……終わった)
湯船から上がる間もなく、人が入ってくる。
現れたのは、森下彩花だった。
彩花は二人を見て、足を止めた。
そして、二人の背中をゆっくりと眺める。
『……なるほどねぇ』
小さく、呟くような声だった。
陽菜は内心で安堵した。
(この人なら、口を割らない。知ってる)
彩花は黙って湯船に入り、少し離れた位置に座る。
しばらくして、彩花が湯気の向こうから静かに聞いた。
「それが、Rose girlsの……?」
陽菜が短く答える。
『そう』
樹里が、その言葉にわずかに目を細めた。
(……陽菜、この女に話したのか)
彩花はそれ以上深くは聞かず、ただ湯をすくいながら言った。
「綺麗、といえば綺麗だけど。
会社で見せたら、騒ぎになるね」
『見せない』
樹里が低く返し、陽菜も続ける。
『見て見ぬふり、お願い』
彩花は小さく息を吐いた。
「わかってる。言わない」
それだけ確認すると、樹里と陽菜はほぼ逃げるように湯船を上がった。
脱衣所で急いで服を着ながら、陽菜が小声で言う。
『……樹里、今の聞いた?』
『聞いた。お前が話したんだな』
『まあね。秘密は守る人だよ、あの人』
樹里は何も言わず、ただタオルで髪を拭いた。
背中の薔薇は、再び服の下に隠された。
だが、二人とも知っていた。
もう一人、この秘密を共有する人間が、確実に増えたことを。




