47話「研修旅行」
(美園がアネモネを鎮めていた頃)
会社から研修旅行の詳細が発表された。
場所は温泉付きの宿泊施設。
スケジュールには「夜、大浴場で懇親」の文字が、しっかりと印刷されていた。
それを見た瞬間、樹里と陽菜の顔色が同時に変わった。
給湯室で、二人きりになったとき、陽菜が真っ先に切り出した。
『大浴場って……」
『わかってる』
樹里の声が、低い。
背中のタトゥーが、頭をよぎる。
薔薇の刺繍をモチーフにした、決して小さくないもの。
脱いだら、一発でバレる。
陽菜が不安そうに続ける。
『インナーで誤魔化せないよね、大浴場』
『当たり前だ』
『どうする? 熱でも出たことにする?』
『二人揃って熱を出したら、不自然だ』
樹里は額に手を当てた。
『……様子を見る。入浴の時間をずらす、人が少ない時間を狙う。
方法は後で考える』
陽菜は納得いかない顔をしていたが、他に案もないのでうなずいた。
『……バレたら、終わりだよな』
『バレるな』
その不安を抱えたまま、出発の日が来た。
営業部のメンバーがバスに乗り込む中、樹里と陽菜は荷物を抱えながら、微妙な顔で並んでいた。
柚希が明るく声をかける。
「日高先輩たち、楽しみですねー! 大浴場、広いらしいですよ」
『……そうですね』
樹里が丁寧に返し、陽菜も無理やり笑った。
『楽しみ、ですね』
バスが動き出す。
窓の外を見ながら、陽菜が樹里にだけ聞こえる声で呟いた。
『……死にたくなってきた』
樹里は短く息を吐いた。
『死ぬな。ただ、慎重にやれ』
不安は、消えていなかった。




