44話「帰還」
スナック【Rose】に戻ったのは、夜が更けてからだった。
沙羅はソファに座ったまま、美園の帰りを待っていた。
ドアが開いた瞬間、彼女は勢いよく立ち上がる。
「美園さん——!」
美園の後ろから、九条莉乃が力なく顔を出した。
沙羅の目が一気に潤む。
「総長……!」
莉乃は沙羅に支えられながら、小さく息を吐いた。
「……生きてるよ」
美園は特攻服のまま、カウンターに手をついた。
『帰した。これ以上、私たちの名前を出して因縁を作るな。
二度とだ』
沙羅と莉乃は、同時に深く頭を下げた。
「……本当に、ありがとうございました」
美園はそれ以上何も言わず、奥で着替えてから、二人を店の外へ送り出した。
数日後。
研修旅行から戻った樹里と陽菜が、夜の【Rose】に顔を出した。
カウンターに座った途端、美園が切り出す。
『……少し、話がある』
美園はアネモネに単騎で乗り込んだこと、まどかと決着をつけたこと、九条莉乃を取り返したことを、簡潔に話した。
樹里は額に手を当てた。
『……一人で行ったのか』
『二人とも、いなかったからね』
陽菜は腕を組んだまま、複雑な顔をしていた。
『莉乃のやつ、本当に勝手なんだから……。でも、助かったならいいけど』
そのとき、ドアが開いた。
九条莉乃と渡辺沙羅が、恐る恐る入ってくる。
莉乃は最初、美園に礼を言いに来ただけだった。
だが、カウンターに座っている二人の顔を見た瞬間、足が止まった。
「……日高、樹里……? 櫻井、陽菜……?」
声が、上ずる。
陽菜はゆっくりと顔を上げ、莉乃を見た。
『……莉乃』
低い声だった。
莉乃の顔が、一気に青ざめる。
「副総長……じゃなくて、陽菜さん……。
その、勝手に立ち上げて……本当に、すみませんでした」
陽菜は腕を組んだまま、しばらく莉乃を睨んでいたが、やがて短く息を吐いた。
『助かったなら、いい。
でも、もう二度と私たちの名前を出して動くな。いいね』
「は、はい……!」
樹里は何も言わず、ただ静かに二人を見ていた。
美園が呆れたように言う。
『挨拶が済んだら、もう帰りな。傷、まだ完全じゃないでしょ』
莉乃と沙羅は何度も頭を下げ、逃げるように店を出て行った。
ドアが閉まると、陽菜が大きく息を吐いた。
『……なんか、変な感じ』
『お前が解散させた相手だもんな』
樹里が短く返す。
美園は二人のグラスに酒を注ぎながら、静かに言った。
『これで、終わり。もう、関わらない』
三人は何も言わず、グラスを傾けた。
夜のスナックに、氷の鳴る音だけが落ちた。




