43話「火種」
倉庫の中に、重い沈黙が落ちた。
まどかは美園の方を向き直した。
『……久しぶりだな、美園』
美園は短く息を吐いた。
『まどか。相変わらず、派手な入り方をする』
『お前に言われたくねえよ』
まどかはそう吐き捨てると、自分の部下たち——特に西村愛に視線を戻す。
『今のやり方は、あたしの時代とは違う。
若いチームを因縁で潰そうとして、総長を囚える。
非人道的すぎる』
愛が何か言いかけたが、まどかの目に押されて黙った。
まどかは美園の前で、ゆっくりと頭を下げた。
『この件は、あたしの顔を立てて、終わらせてくれ。
九条莉乃は返す。アネモネからBeauty Roseへの手出しは、ここで止める。
……頼む』
美園はしばらく、俯いているまどかの頭を見ていた。
そして、静かに言った。
『条件がある』
『言ってくれ』
『二度と、私たちの名前を出して因縁を作るな。
子供を巻き込むな。これ以上、余計な火種を残すな』
まどかは顔を上げ、短くうなずいた。
『承知した。あたしが保証する』
美園はそれ以上何も言わず、後ろを向いた。
『九条を出せ。怪我をさせているなら、それも今すぐ止めろ』
愛はまどかの顔色を窺いながら、渋々と部下に指示を出した。
しばらくして、拘束されていた九条莉乃が、背中を押されるようにして出てきた。
顔色は悪いが、歩ける状態だった。
美園は莉乃の状態を一目で確認すると、短く言った。
『帰れるか』
莉乃は力なくうなずいた。
『……はい』
美園はもう一度だけ、まどかを見た。
『……顔は、立ててやる。これが最後だ』
まどかは何も返さなかった。
ただ、静かに美園の背中を見送った。
美園は莉乃を連れて、倉庫を出た。
エンジンの音が、夜の闇に溶けていく。




