42話「陰に生きた伝説」
『待て!』
低く、通る声が倉庫の中に響いた。
全員の動きが、止まる。
奥から、一人の女がゆっくりと現れた。
長い金髪。黒い特攻服に、紫と深紅の花の刺繍。
手には細い棒を持ち、表情は冷たい。
現アネモネのメンバーたちは、その姿を見た瞬間に背筋を伸ばした。
先ほどまでの舐めた空気は、一瞬で消えている。
「まどかさん……」
誰かが、小さく漏らした。
鈴原まどか。
かつてのアネモネ総長であり、今もなお、この組織の中で語り継がれる名前だった。
西村愛が、まだ苛立った声で言った。
「この女が一人で乗り込んできやがって——」
まどかは手を上げて、それを制した。
そして、自分の部下たちに視線を向ける。
『お前ら、誰に口を利いてると思ってる』
誰も答えられない。
まどかはゆっくりと歩み出ながら、続けた。
『お前らも、Rose girlsの伝説は知っているだろう?』
メンバーたちの顔が、強張っていく。
『当時のRose girlsはな、普通のチームじゃなかった。
総長の日高樹里は、睨まれただけで終わると言われた。
副総長の櫻井陽菜は、キレたら止まらないと恐れられた』
まどかは美園の方を、短く見た。
『で、その二人の陰に隠れてたのが、この女だ。
肩書きはない。総長でも副総長でもない。
なのに、あの二人と並ぶくらいにヤバい。
お前らが全員でかかっても、あいつには勝てない』
倉庫の中に、重い沈黙が落ちた。
舐めきっていたメンバーたちの顔から、完全に血の気が引いていく。
まどかは美園の前で足を止め、改めて部下たちに告げる。
『あの女は、日高樹里、櫻井陽菜と並ぶくらいの伝説だ。
舐めた口を利くな』




